逍遙の殺人鬼

こあら

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「言えよ、何してたか」

「だからっ、何も…してないですって」

否定する私な言葉を聞いて、掴む私の両手首に力が強まった
少し、怒っている?
そんな表情して、雪に埋もれる私を見下ろしている

(なんで怒ってるんだろう…。)

私は潤さんと話しして、パートナーのフリしていただけ
特に何かをしていた訳じゃない
…のに、何をどう言えと?

「本当に…何も、してないです…。……ジャンさん?」

「言わないつもりだな」

「っへ!?…イッ!!」

何故か反撃を食らった
掴んだ手首を口元に持っていったかと思ったら、思いっきり歯を立てて、千切れるんじゃないかと思うくらい噛まれた

野性的なその行動に、私は呆気に取られるばかりだった









「なにを…っ」

口から離された私の手首は、真っ赤に滲んだ様子でくっきりと見える
ジンジンとした重い痛みがあって、一瞬の衝撃さえ耐えればいいというものではなく、痛みが居座っている

小さい頃に、走っていたら石につまずいて、道の砂利によって傷つけられた膝小僧の、あの痛みに似たモノを手首に感じる
あの時は、凄く痛くて子供だったから大泣きして手当てしてもらっていた
今は、あの時ほど大泣きはしないが痛みにすこぶる弱い
涙腺もすこぶる緩い……今更な話なのだが…

「泣くほど痛かったのか?」

「っそりゃ…痛いですよ…」

目尻からすぅ…と落ちる感覚があった
外気に触れた涙は冷たく、熱くなった目元を冷やそうとしていた

「私…本当に、一緒に居ただけなのにっ」

心のままに言った
それ以上でもそれ以下でもない
かけようがない事実で、特に特別なことは何一つとしてやっていない
それを、これ以上どうやって伝えれば良いの…?

「あんたって本当に泣き虫だよな」

「誰だって痛かったら…泣きますよ…。ジャンさんだってそうでしょ…?」

「違うな」

「"違う"?痛みを…耐えるって事ですか?」

私がそう聞くと、彼は怒ったように掴む手首を引っ張り、強引に身体を起こさせた
そして私の胸ぐらを掴んで、その激昂に満ちた瞳を見せて「そうだ」と喉を潰すみたいな声色で言い放つ
更に、私が言ったことにより不快感を覚えたのか、意地悪めいた感じで続ける

「"痛みは耐えるもの"って親に習わなかったのか?」

「っ…わ、私…は、」

「あぁ、あんたにはがいないんだったな」

そう言うと、掴む手を離して私から遠ざかる様にどこかへ行ってしまう
ポツリ真っ白な雪の中ひとり残された私は、起こされた身体を再度倒し、熱く何かが込み上げてくるそれを必死に押さえ込もうとした
手の甲で出口を止めても、隙間から流れ落ちてしまう

ひくつく呼吸を止めたくて、この涙を止めたくて、冷静になりたくて、私はまた雪の中に横になった
泣く声が外に出ないようにしているせいか、深呼吸はおろか一般的な呼吸すらできない

事実を言われただけなのに、何も間違ったことは言われてないはずなのに、面と向かって言われると心へのダメージは大きく古傷をえぐるみたいだ
致命的で、誰も触りたがらない腫れ物に素手で鷲掴みされているようで、苦しい

「そんなのっ、…誰に習えば良いんですか……」
小さく、誰に問うわけでもない疑問を空に向けて放った
これくらいしかできない私は、私を更に憎んだ
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