逍遙の殺人鬼

こあら

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腰を掴まれ、誰かに引き押せられたことはあっただろうか?
あったとしても、今は考えられない

「っちょ…、潤さんっ」

「シー。パートナーを用意しそこねたんだ。少しだけでいいから、ね?」

「そう言われると…」(断れない…。)

元々ここに呼び寄せたのは私みたいなものだし…
分かりましたと渋々了承した
今までこんなに長く腰に触れられていたことがない私からしたら、ソワソワするくらい絶妙な気持ちに追いやられる

「そう言えば…潤さんは、私に何か用でも?」

「特に用はないよ。ただレディの顔が見たくなっただけさ。話もしたかったしね。」

「話ですか」

「カジノでは挨拶程度で終わってしまったからね。お詫びも兼ねて、会いに来たんだよ。」









("お詫び"だなんて……)

お詫びされる程でもなかった
あの時の私は………色々とおかしかったし…
あの後、もし潤さんが用事を済ませて私と話していたら………
そう思うだけで鳥肌が立つ

そう言えば…
あのカジノは潤さんの家系が関わってるって…

「潤さんは、あのカジノの経営者なんですか?」

「まあ、鳩屋家が代々経営に関わっては来たけど、経営者とは名ばかりの存在でね、経営とかは向いていないんだ。代理人を立ててカジノを回しているんだよ。」

「"代理人"ですか…?」

「そう。3カ月に1回とか、様子を見に行くぐらいでね。あの日も店長に変わりないか聞くだけの用事だったからね。」

潤さんはウエイターから飲み物を受け取ると、腰に位置する腕にグッと力を入れて、私を前へと歩かせる
「場所を移動しよう。」と促され、私はギュウ君を待つことを辞めさせられる

来たからには挨拶をしないとねと優しい口調で、優しい表情で私を巧みに誘導する
まぁ…少しだけのパートナー役を了承したのだから、と私は潤さんについて行く
すると先程物怖じしていた孔雀のような装飾を着て、ミラーボールですか?ってくらいシャイニングするド派手なピアスをつけて、バカ高いハイヒールを履いていらっしゃる女性の元へと移動させられる

女性は潤さんに気付くと「あら、んふふ。」と色っぽい声を出して、彼に微笑みかける
その表情はまるでどこまでも計算され尽くした有機物のようで、一瞬、ほんの一瞬背中がゾワッとした

「こんばんわ、鳩屋 潤さん。今回は参加されないとお聞きしましたわ。」

「そのつもりでしたが、気が変わりましてね。こうして参加することにしました。」

「わたくしとしては嬉しい事ですわ。目の保養がひとつ増えましたからね。今度ぜひお供させて頂きたいですわ。もし、ですが。」

ジロっと瞳を動かし私を見やるその目には、生命の光のようなモノが見えなかった
一体何の話をしているのかすら、ぺいぺいの私には理解できない

ただ隅っこで大人しく食べ放題バイキングを食べていたいだけなのに…何だか目を付けられた気がするのは何故に……
そもそも潤さんに注目が行くから必然的にその隣りに居る不審者的存在の私を見るのは、生理現象のようなモノ

ってことはですよ…
回り回って潤さんのせいではありませんか?

もし潤さんとこうして歩いていなければ、いや…腰に手を回していなければもっとマシだったかもしれない
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