逍遙の殺人鬼

こあら

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夕食をスナックで食べている朔夜さんに、ママさんは世間話をふっかけた

「小説の方はどう?」

「まぁ、ぼちぼち。」

「あれ読んだわよ、。すごく良かったわ、勇ましくも傷付きやすい主人公が何故か憎めないのよねー。」

「そうですか。」

ヤダ、何その返し
もうちょっと何か無いんですか?
自分の作品なのに、どうして興味なさ気な態度
確かに新作ってわけでも無いし、今更昔の小説のこと言われたって…って思うかもだけど、もうちょっと嬉しそうにしてみてはどうですかね?って言いたくなる

ママさんも褒めてくれてるのに、目の前にあるご飯にしか興味が無いのか?…
あんなに面白い作品なのに、書いた本人がこれじゃ………ねぇ?…









嬉しそうな顔してママさんは言った
「小説って難しくて避けてたんだけど、本物の男は読みやすかったのよ。」と、同意しかない意見に首を立てに動かした

そうなんですよ!
朔夜さんの作品はどれも、内容が深いのに読みやすいんです!
私以外にも同じ思いを抱いてくれてる人がいて、今物凄くハイタッチしたくなる気持ちに、ドウドウ…と深呼吸
食べ終わったのか、朔夜さんが口を開いた

「あの小説でレインメーカーになった。」

「水を巻くスプリンクラーの事ですか?」

かねの雨を降らせるって意味だよ!馬鹿なのか?」

「回りくどい言い方…」

「勉強不足なだけだろ。」

知らなかったんだから仕方ないじゃないですか!
そんな業界用語みないなもの、誰もが認知してると思わないで下さいよ
ママさんはこんな私と朔夜さんのやり取りを、あらあらと言いながら優しく見守っていた

支持を終えたのか春さんが私の確認を含めて近寄って来た
「大丈夫そ?」と私に聞いてくる春さんは、朔夜さんを見るなりあからさまな態度で嫌そうにしている

「春ちゃん、ちーちゃんがこんなに優秀な子だって知らなかったわよ。お料理上手だからお店のお手伝いにスカウトしたいんだけど。」

「ちーちゃん料理出来るの?本人が良ければ良いんじゃない?」

「やったわ。今日は見学でまた後で話しましょうね、ちーちゃん。」

「ママ、いつからちーちゃん呼び?」

「春ちゃんが呼んでて、響きが可愛くて真似しちゃったの。」

美人二人が目の前に……
_____眼福です!!!!!!!!!!

天に向かって、ありがとうー!って叫びたい
お料理も許可OK出て、今日は思いの外いい日なのでは?と思えた

それにしても、今日の春さんはとてつもなく綺麗だった
前回見た時よりも華やかに見える
パリコレのランウェイから飛び出して来たのかな?って真剣に悩みそう
朔夜さんが代わりに聞いてくれたことは良かったけど、聞き方に問題ありだった

「いつも以上に気合入ってるな、オカマ。」と、どうして普通に聞けないのかと頭が痛くなる
そんな朔夜さんに、また掴みかかろうとする春さんを止めるように、間に入って「今日はお得意様が来る予定なのよ。」と代わりに答えてくれる
ママさん、ナイスです!

「クジラが来るのか。」

「っちょ、朔夜さんなんてことを…。きっとその人、甲状腺の病気で腫れてるだけですよ」

「は?何言ってんの。は大物、つまり中々来ない金のなる木の事だ。」

(また業界用語?)

へーーと脳内にインプットした
まぁ、使うことは無いんだろうけど…
そんな私を見て、春さんはすごい笑ってる…すんごい笑ってる
「甲状腺の病気って、」と肩をピクピクさせてる
笑いたきゃ笑えばいいよ
別に恥ずかしくないもん、知らなかっただけだもん

ママさんはおいしい料理が出来たと喜び、これでがっぽがっぽ稼ぐわと意気込んでいる
そんなものでがっぽがっぽとお金は舞い込んでくれないですよ…

「きっと財布の底も深いだろうし、巻き上げるだけ巻きあげればいいんじゃないか?」

「"財布の底"…、90年代のお財布ですか?」

「んな訳無いだろ。金持ってるってことだよ、それぐらいの言い回し分かれよ。」

「耳元で大きな声出すのやめてください、鼓膜が破れます」

「おい女、今までどう生きてきたんだ?何も知らないじゃねぇか。」

"どう"…"生きてきた"………?
その言葉がやけに心臓を貫く
痛いくらいに鷲掴みしてきて、脳内も心の中もざわめいた
そんな私を助太刀してくれたのは春さんで「ウチでナンパとかやめてー、キモいから。」と言い放つ

朔夜さんはどこがナンパだ!と春さんに噛み付いていたけど、冗談混じりの言葉のおかげで重苦しい空気にならずに済んだ
上手くかわせないなんて…隙きが多いにも程がある
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