逍遙の殺人鬼

こあら

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ジリジリと頭に響くアラーム音とバイブの衝撃が頭部近くで感じる
その元凶へと手を伸ばせば、寝る前に自分で設定したスマホのアラームだった

現在、朝の8時
遮光カーテンによって抑えられた光を浴びて、私は体を起こして天井に向かって伸びをした
寝癖で終わらない髪の毛が首にまとわりついて苦しい
立ち上がってカーテンを開ければ、一気に光が差し込んで光合成をする葉みたいに深呼吸をした
鼻から入る酸素のおかげで目が冴えた

春さんから借りたスエットは、男性の春さんが着てたものなのに全然ぶかぶかじゃない
すごく細身で、余分な肉なんか全く付いてない
モデルさんみたいで、隣にいるだけでスター性溢れる春さんに圧倒されてしまう

「変な夢見たせいか、微妙な気分…」









部屋を出て洗面台に行き、蛇口を捻って顔を洗った
完全に頭を起こし、タオルで水滴を吸い取って鏡を見た
すっかり元の髪の毛に戻った私を見るのは、最悪の気分だった
何度見ても好きになれそうにない
だから足早にその場を離れて、リビングへと向かった

居候としては朝食を作って差し上げようといった心行だったのに、ダイニングテーブルに置かれた1枚のメモ用紙を見てやることがなくなってしまった

《冷蔵庫見たら顎が外れるほど何もなかった。ちょっくら買い出しして来るから適当に食べてて。ーー春ーー》

「"顎が外れる"…。とてつもない表現力」

そのメモを読んで冷蔵庫を開ければ、買ったばかりの新品ですか?ってほど何も入ってなかった
あるのは扉側にあるスペースに置かれた、チューブタイプの生姜だけだった
これじゃ、コンセントを挿してる分電気代の無駄というものだ

でもメモを見る限り、春さんはこんなにスッカラカンになってた事は知らなったみたい
じゃあ仕方ない…と私はキッチンにあったバナナを取って食べた
それは意外にも美味しくて、もう一房食べた

「フィリピン産のバナナか、凄く美味しい」(甘いくてほっぺがとろけそう)

椅子に越しがけでバナナを食しながら私は考えた
何であんな夢を見たんだろう……って…

あの夢は、最初から最後まで意味不明で奇妙だった
夢で見た私じゃなかったし、内容も難解だった
組み解くことなんか、私には無理だろう

(あの女の人…何処かで見た気が)

そう思うのに、どこだっけ…と中々表に出て来てくれない
割と最近見た気がする…と、バナナを食べながら動き出した脳に問うた
どこで見たの?どこー?と心の中で問いかけを連発する
バナナを食べ終わり、皮を捨てればそのタイミングで思い出した

「そうだ、確か昨日春さんが見せてくれたアルバムに」(似た顔の人がいたはず)

リビングの隅に置かれた棚
下から2番目の左から4番目に置かれたアルバム
それを取って13ページほどめくれば、中学生くらいのジャンさんと、隣に居る綺麗な女の人が目に入る

この顔、髪型こそ違うものの夢に出てきた女の人と同じ顔だった
真っ黒な髪の毛で引っかかりのなさそうな真っ直ぐな髪質にパッツンに似た前髪で、妖艶な雰囲気を纏っていた
ジャンさんとそう年の差が無いように見える女の人は、写真で確認し続けるとあの人に似ていると思わせてくる

次のページへとめくれば、女の人の横顔とその綺麗な艶のある髪を三つ編みに結っているジャンさんの写真が見えた
長い髪の毛を結われて女の人は嬉しそうな表情かおをしている

しかもその下の写真には瑞希さんと思われる人物が写っている
その並んだ顔は、瓜二つとはいかないが似ていた
(もしかして、この女の人瑞希さんのお姉さん??)

他人とは言い難いほど顔がそっくりだ
目元なんて特に似ている
昔からの知り合いっぽかったし、もしかしたら私の推測はあっているのかも知れない
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