逍遙の殺人鬼

こあら

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真っ暗な空間に居る私は、周りを見渡せば少し離れた所に人が見えた
その人以外に人は居なくて近づいてみると、何かを踏んでいることに気づく
裸足のままの私の足元には、青みのある少し薄い紫色の花びらだった
それを拾い上げて見れば、知らぬ間にそこら中にその花びらがまだらに散らばっていて、奥の人に行くにつれてその量は増していた

近づけばその人の手元に束になった紫苑しおんの花が握られていた
その花束から1枚の花びらが落ちた

身長が高く、暗闇を照らすように明るい金髪の男性で、何となくジャンさん…?と声を掛けてみれば振り返り顔を見せてくれた
それは間違いなくジャンさんだった
だけど、無表情だというのに何故か悲しい感情を感じ取ってしまう









『…ジャン、さん?』

呼んでるのに、話し掛けてるのに私を見てくれない
私じゃない、私が居ない所を眺めては凄く悲し気な表情かおをしている

(どうしてそんな表情かおするの?…)

辛そうで、苦しそうなそんな顔…見たくなかった
花束を見ても、泣いてしまうんじゃないかって思うくらい愁いに見えて、ジャンさんの元へ歩み寄った
それと同時に動き出すジャンさんは、私の所になんか来ようとはせずに離れるように行ってしまう
彼が見てる方に視線を移せば居た

そして何も言わないで紫苑しおんの花束を渡しては、大切そうに抱き締めている
ジャンさんが抱き締めている…と離れた所から見ている私の目に、何故か奇妙なことが起こった
それは、私がだと思い込んでいた者が、じゃなくて全くの別人に変わった
いや、元々三つ編みをしているだけの別人だったのかもしれない…

それを見た私は、衝動的に彼女からジャンさんを引き離したいと思った
だってないんだもの
だから脚を前に出すのに、歩けなかった……
紫苑しおんの花びらが行く手を阻むみたいに私を攻撃して、ガラスを踏んだかのように足の裏から血が滲み出た

『ジャンさん!!』

そう私が叫んでも、彼の耳には届いていないようだ
そんなに離れていないのに、どうして届かないの?…

しかも、私を嘲笑うかのように彼女は必死に叫んだ私を見てはニヤついて、ジャンさんに顔を向き直し、自分から近づく
ジャンさんはそれを受け入れて、互いに引き合うみたいに2人はキスした

ジャンさんは目を閉じて彼女の腰と首裏に手を回して支え、彼女は彼の背中に花束を持ったまま回して私を見据えている
余りにも自然に動くから、私は何も言えなくなってしまった

嫌だ…見たくない
そう思っているのに、金縛りにあったみたいに動けず、視線すらも外すことが許されなかった
脳裏に焼きつけるみたいで、夢のはずなのに苦しくなった
こんな悪夢…早く覚めればいいのに
こんな時でも、私の願いに応えてくれない夢なんて最悪だ

『…やだ。嫌だ…』

針山のように攻撃体制を取る紫苑しおんの花びらの上を走った
柔らかいはずの花びらは私の足の裏を切りつけて、血で染まっていく
ジャンさんに近づけば近づくほど血の跡は増えていくばかりで、手を伸ばしてもう少しで届くという所で誰かに腕を引かれる

もうちょっと…もうちょっとで届いたのに……
邪魔するのは、誰?…

『ッジャン、さん?』(銀髪の……)

待って…銀髪のジャンさんは、私を殺そうと……
その考えが脳内を駆け巡って、私の血の気が全身から引いた感覚に陥る
胸ぐらを掴んでそのまま後ろに突き飛ばされたのに、冷たいタイルを背中に感じるはずなのにそんな事無くって、あの家のあの部屋のあの柔らかいベッドに包まれていた
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