逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
200 / 333

201

しおりを挟む
私の腕を掴むジャンさんの顔を見上げれば、オレンジ色に輝く太陽と重なって、逆光によってあやふやに見せてくる

どうして腕を掴むのか?
どうして私の行動を阻むのか?
疑問は尽きない
私と臼田うすたさんの結婚式に招待されて来たんだろうか?

ジャンさん?と声を掛けても、返事をするどころか微動だにしない
腕を掴む手を放そうと試みるも、石像のように動かない
まるで、私の腕を石膏に挿し込んだみたいにひとりもがく私と、それを見ているだけのジャンさんが居た

『放して下さい、ジャンさん。…ジャンさん?』

そう問いかけているのに、返ってきたのは私への返答ではなく殺意で鋭利な物だった
それは、私の腹目掛けてあっと言う間に移動し、一瞬の出来事で私はその衝撃のまま後ろに倒れた









倒れた私の背後に少しの振動が伝わる
目を開けたままの私は、雲1つない空が回転するのを見届けてッハとした
痛みはなかった
当然、これは夢なのだから痛みなんてある訳無い

少し体を起き上がらせて腹部を確認すれば、何も刺さっていなかった
血も出ていないどころか、いつの間にか変わっていた白いワンピースを彩るように藍の花がお腹に置かれていた
まるでそれが血の代わりと言わんばかりに、鮮やかな発色を見せていた
体を完全に起き上がらせると、小さな花は地面へと落下し若草色に生えている草に重なった

また移動した場所は、遠くの方まで平坦の草原で真っ白なデイジーが咲き誇り、緩やかな風の吹く所だった
建物なんか無くって、都会の真逆を彷彿とさせる
その何とも開放的な場所を歩けば、自分が裸足だったことに気付く

奥の奥まで上を向いて咲くデイジーが、風に遊ばれて揺れている
風は遊びたがりの様で、私の髪までも持って行く
その羽ばたきを抑えては、辺りを見渡した
どうやら臼田うすたさんは居ないようだ

さっきのはやっぱり夢だったんだと、少し落ち込んた
デイジーとは違って、下を向く私を誰かが後ろから静かに抱き締めてくれた

『…臼田うすたさん?』(やっぱり居たんだ)

そう呼び掛けて振り返れば、臼田うすたさんの姿は無く、代わりに髪の毛を黒くしたジャンさんが居た
ビックリした
また刺されるかもと警戒した

少し身構える私は、ジャンさんから距離を取るように後退った
……なのに、ジャンさんが近づいてくるから急に怖くなる
横から吹く風はまるで緊張感を煽るようだった

黒くなった髪を靡かせながら歩み寄っては、私に手を伸ばした
今度こそ殺される…そう思って目を瞑った
強く強く瞑って、どうせ夢だから痛くない…と心を支えてみれば鋭利なものが刺さる衝撃なんか来なくって、逆に優しく私の頬に触れた
反射的に目を開ければそれはジャンさんの手で、両頬に添えていた

『ジャン…さん……?』

問いかけに応じてくれないジャンさんは、少し前かがみになって顔を傾けた
両頬を捉えた手で上を向かせては、彼は目を閉じた
殺気なんて無くって、近づくのは何度目かの彼の唇だった
互いの唇が離れても私は目をパチパチさせることしか出来なくって、その後ジャンさんから抱き締めて来たっていうのに何も言えなかった

どうすれば良いのか分からない私は、模範解答を必死に探した
話しかけた方がいいのか?
それとも離れた方がいいのかな?って……

でも、彼から抱きしめてくれた事が無性に嬉しいという感情を呼び起こして、ジャンさんの背中に手をたどたどしく回してみる
ジャンさんは何も言わない
ただ風の音とデイジーの花びらが空を舞っているだけだった
だからもう少し力を入れて抱き締めた

ジャンさんの存在を確かめるみたいに触れたのに、その途端に消えてしまった
今確かに抱き締めていたはずなのに、彼の姿は跡形も無く失くなっている
それだけでは終わらず、青々と咲き広がっていたデイジーの草原は無くなり冷たいタイルの様な存在が足の裏を支配した
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...