逍遙の殺人鬼

こあら

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三郎さんが荷物のチェックをして、どれを何処に運ぶかを指示している
その指示に従って、ギュウ君や研さん達が倉庫や各場所に運んで行き、その流れは機敏でさすが男と言ったところだ

私は手伝う気満々だったのにどの荷物も運べず、持ち上げることすら困難で逆に足手まといとなってしまった
その様子を優しく見守る人と、ツボに入ったのかゲラゲラ笑う研さんがいた

「け…んっさんっ、そんなに笑わないでくださいよ。こっちは必死なんですから」

「シスターもちゃんと女の子だねー。無理しないで、お祈りでもしてな。」

「無理なんてしてないです。こんなの、私だって……」

「おうおう、何ともたくましい腕ですな。」

腕まくりをして覇気を入れてみても、荷物は数センチ、いや数ミリしか上がってはくれなかった
男と女ではこれ程までに違うのか?
汗こそかいているものの、ちゃっかり荷物を持っているではないか
そればかりか、何故か足取りさえ軽く見えてしまう

(何故に……)









「…ちさ、もう諦めろよ。やっぱ無理だよ。」

「い…や……。はぁ…、ちょっと進んだと思わない?意外と軽いのね…」

「どの口が言う…。ほら貸して、俺がやるから。」

「やだ!これは私の!私が目をつけたんだから、手出さないで!」

「何言ってんだよ…、俺がやるからもうやめとけって…」

まるでおもちゃを取り合う子供みたいに、1つの荷物を巡って争っている私を研さんがまたもや笑って見ている
確かに幼稚な闘いだ

ギュウ君は善意で運んでくれようとしているのに、私には運べないと言われているみたいで対抗心が湧いてしまった
だって1番小さくて運べそうだったのに…何故運べないんだ……
この前三郎さんと一緒に聴いたラジオから出てきた不思議な単語、"ぴえん"?とはこういう時に使うのだろうか?…

「いい加減にしろ…無理だって分かってるだろ。それに、まだ背中痛いんだろ?」

「……ぴえん」

「は?…ぴっ、何?」

「ぴえん通り越してぐすんからのシュン」

「……………、何語だ?」

見様見真似で私の口から出た言葉に戸惑いを隠せないギュウ君は、目を見開いている
とでも言いたげなその表情から目線を外した

私だって知らない
聴いたまま意味なんて分からず言ってみただけですから……
最近の流行にはついていけていないもんで、すいませんね…

強情だなと眉を下げて頭をかくギュウ君は困りきった顔で私を見ている
こんなにやりたい放題の私に怒りを見せずにいる
それがなんとも不思議で、彼には悪いがもう少し続けてみたくなる

私がわがままを言えば怒られるのが日常だった
規則ルールに正しく従順で、同じような毎日
不揃いの釘は打ち付けられて矯正される日々
そんな施設でわがままなんてしたら、怒られるどころじゃなくて、きっとあの鬼籍きせきの部屋に何日も閉じ込められていただろう
だから、こうやって困った顔を見るのが私には見慣れなさ過ぎて、こっちも戸惑っている

"やめろ"と言うけど声色は優しい
怒るどころか私の体を心配してくれる
厄介者のはずなのに、毛嫌いしないで自分で運ぶと言う

慣れなさ過ぎてどうしたらいいんだろう…って引くに引けなかった
このまま引いて、ギュウ君に押し付けるのも悪いし私が運べないということも気づいてはいた

変な事を言っても叩いたり殴ったりはしない
当たり前が当たり前じゃなくなりつつある今、私はどちらが当たり前で"普通"なのか見分ける事ができなかった
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