逍遙の殺人鬼

こあら

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私の口角から指を離しては、悲しげな瞳を見せてくるギュウ君
落ち込んでいたのは私の方だったのに、今は彼の方が辛い様子に見える
その理由が知りたいのに、風によって彼の表情は隠された
まだらに黒い髪が揺らいで真相を隠して、私を深入りさせないようにする
私はそれを理解できずに、馬鹿みたいに尋ねてしまった

「どうして笑顔でいてほしいの?…」

「ちさって、意外と残酷なんだな。」

「っえ?」

_____残酷……それは、無慈悲で酷たらしい事
見ていられない様な酷いやり方、有様の事

私………そんな最低な事を質問してしまったのだろうか?
ギュウ君の顔は笑っているようで、哀しんでいるようでもあった









「"残酷"って……私、ギュウ君に何か酷い事…しちゃった……?」

焦りからか彼が心配だからなのか、私は思ったことを正直に質問してしまった
せっかくギュウ君が濁して言ってくれたというのに、私はそれすら察せずに聞き返してしまう

彼は一瞬垂れさせた眉を潜めては「…そうだな、」と口を開いた
嫌われてしまったかも知れない
さっきまであんなに不貞腐れて理不尽にギュウ君に八つ当たりしていたのに、今になってヘコヘコしちゃって…
自分のした事なのに、全く呆れる

「俺がせっかくジャム作ったり落ち込んでるちさを慰めたのに、当の本人がこれじゃな~。本当にちさは残酷だなー。」

「っ!っそ、それは…すいません」(確かに…ジャム、押し付けっぱなしだった…)

「こうやって心配してるのに、それを無下にするなんて悲しいなー。流石に泣いちゃうなー。」

「っご、ごめんって…」

ギュウ君の言う通り、最低な女です…
意地張ってへそ曲げて、本当に子供みたい
いや、子供だってもっとまともだ

私は彼の方に向き直して、土下座するみたいに頭を下げてすいませんでしたと謝罪した
すぐに返事は無かったものの、彼が許すと言わんばかりに盛大に笑うもんだから、面を上げた

いつぞやみたいにくしゃっとした顔で、目を細めて笑っている
笑ったことによって目尻には若干の涙が浮き出ていて、それを指で拭うと「もういい、もういい。」と私の肩を掴んで起き上がらせた
その状況を飲み込めなくて、頭にはてなマークが5本ぐらい咲いた気分だ

「俺怒ってないよ。」

「…でも、傷ついたでしょ…。ギュウ君は心配してくれただけなのに、いつまでも不貞腐れて…ごめんなさい」

「ほーら。俺、笑ってほしいって言ったよ?なんでそんな顔してんのさ。」

「…ギュウ君が優しいから」

「優しいからってそんな顔されたら、俺厳しくならないといけなくなるだろ。俺はちさのこと信じてる。どんなことがあってもな。」

本当に、あなたはなんで下働きなんて雑用をしてるんだろう
もう総理大臣にでもなってよ
こんな教会に埋もれてるなんて、勿体無い人材だよ

"信じてる"その言葉が、今の私を強くさせてくれる気がした
単純で簡単な言葉なのに、その一言が心に滲みてくる
逃げないで、その真っ直ぐな言葉を受け入れたら、私はもっと強くなれるのかな?
もっと上手く人生を歩めるのかな…

「もうギュウ君は下働きなんて辞めて、もっと適切な職場で働いた方がいいんじゃないの?」

「何だよ急に。ちさは俺が教会ここに居て欲しくないのか?」

「そうじやなくて。ギュウ君みたいに良い人がいつまでも力仕事してないでもっとちゃんとした役職についたら良いのになって…思ったの」

「ちさも知ってるだろ、俺は孤児だ。ここじゃ孤児は下働きするしか生きていけない。違う町に行こうにもお金が無いから、結局下働きとして働くしかないんだよ。」

確かに…研さんも「5つの時に両親が死んだんだよなー」って言ってた
笑ってたけど、それは悲しいことで私は笑えなかった
いつもおちゃらけている研さんだけど、たまに教会に来る親子連れを見ては悲しげにそれを目で追っていた
研さんも下働きだった

孤児か孤児じゃないかで人を区別するなんて最低だ
ここは人里離れた場所だし、下町も思想は同じようなものだと聞いている
隣町は歩いては辿り着けないし、私も車を何時間も乗ってここまで来た
費用だって馬鹿にならない
それならここで働こうと考えてしまうかもしれない

「っじゃ、俺これから荷物運ばなきゃいけないからもう行くぞ。」

「あ、ギュウ君。私もついて行っていいかな?1度どんなものか見てみたかったの」
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