逍遙の殺人鬼

こあら

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緩やかな風に揺られる洗濯されたシーツたち
それを眺める私は、心ここに在らずといった感じだ
シーツを見ているのかすら曖昧で、何を考える訳でも無いのにぼーっとしている

「私…何してるんだろう……」

こんな所でシスター見習いなんかして、何しているんだろう…
私の目的はこんな事だっけ?…
もっと自由なものだった気がするのに、ハロウィン当日に、こんな朝早くから氷のように冷たい水で洗濯なんてして、風邪引きそうだ

逃げて…しまおうか……

「でも、どこに…」

自問自答は尽きない
施設から出て、あいつから逃げて何がしたいんだろう?って自分に問いかけて、こんな所に居る
抜け出してしまいたい、もっと自由な場所に
そんなところある訳もないのに…









秘密の花園、湖に来て水に写る自分を見ている
黒く染まっていた髪が、最近赤みを帯びてきている気がしている
また醜い自分に戻ってきている
どうりで最近ついてない訳だ…
そんな自分を見てはため息が出る
この鬱陶しい見た目は、災の元だ

「はぁ……」

「ため息なんて、似合わないぞ。」

「ギュウ…君…」

少し心配した様な顔をして「どうしたんだ?」だなんて聞いてくる
ギュウ君も知っているだろうに、あえて聞いてくるところが分からない
それともわざと聞いているのだろうか?

「ギュウ君も聞いたんでしょ…私が”ふしだらなシスター”だって」

少し嫌味っぽく言ってしまった
ギュウ君は何も悪くないのに、八つ当たり…してしまった
シスターエリは教会内の人という人に言いふらして回っていた
元々そう多くない人数、噂が回るのは早かった
しかも、私の意図していないことが誇張されて認知されていたのだ

私は目隠しをして相手の体を見ない様にして体を洗っていたはずなのに、シスターエリによって広まったのは全く違かった
私がクリスチャンさんを誘惑して、一緒に湯浴みをしていたと…
馬鹿げた話だ
だいたい、私みたいな女が誘惑した所であんなイケメン外国人お金持ちのクリスチャンさんが惑わされる訳が無いのに…
彼女の目にはそういう風に写ったのだろうか…?

「俺は、ちさがそんなことしない奴だって知ってる。あんな話信じてないから。」

「でも印象は変わったでしょ」(質問じゃない。確信だ…)

「…一緒逃げるか?」

「お互い下働きなのに、何言ってんの」

こんな時まで冗談とか、笑えない
それとも笑わせようと、気を遣ってくれたのかな?
だとしたらごめんなさい
今の私は何を言われても元気になれそうにはありません

水面に写る自分の歪む顔が、何も受け入れられそうにないと言っている
湖の自分と目が合えば、さらに不快感があって嫌になりそうだ
何もかもが上手くいかない
投げ出したいのに、それすらも実行できない

「ギュウ君はなんでここにいるの?…」

「ちさが元気なさそうだったから。」

「ずっと前から私はこんな感じでした。今も元気あるもん」

まるで子供だ
ギュウ君は何も悪く無いって分かってるのに、こんな言い方して…
優しい彼でも、流石に呆れているだろう

自分の両膝を抱えて項垂れるみたいに視線をずらした
これ以上湖に写る自分の顔を見ていると、おかしくなりそうだ

不意に肩をぽんぽんと叩かれて振り向けば、何かが私の頬に刺さった
肉を押すようにめり込んだのはギュウ君の指で、私は呆気に取られている
ギュウ君よ、あなたは何をしているんですか?
間の抜けた顔で彼を見続ければ、ップと笑い出した

「引っかかるなんて、意外と単純だな。」

「面白い?」

「ああ、面白い。でもその目は怖い。」

当たり前だろ、睨んでいるのだから
ふざけるのもいい加減にしてくれ
今は付き合ってられない

やめてよと彼の指を離せば少し距離を詰めてきて「怒んない怒んない。」と言っては、私の口の端を持ち上げて口角を無理やり上げてくる
いい加減にと言いかけてやめた
ギュウ君の顔は真剣そのものに見えたからだ

「俺ちさには笑っていて欲しい。」

そう言っては少し眉を下げた気がした
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