逍遙の殺人鬼

こあら

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私を抱き抱えたまま、ギュウ君は厨房を後にした
「ちょっと目を離すと、すぐ無茶するな。」と私をダメ出ししてきた

無茶をしたことはちゃんと分かっているつもりだった
3階から蔦で降りようだなんて、馬鹿げたことをするのは私でも御免だ
でも、もしあの時降りなければ潤さんはもっと一人で暴走していたかもしれない…
真夜中に大声出して………本当、困った人だ

あの時、本当に死ぬかと思った
もう終わりだって、死を悟った
……怖かった
今だって、思い出しただけで体が震える









そう言えば、女性階3階は余程のことがない限り男子禁制だったはず
てことは、ギュウ君は3階には行けないのでは?
そう思っていたら、医務室に到着した

中に入ってはベッドに座らせて、慣れた手つきで動くギュウ君に圧倒されている

「脚、触るよ。」

「っえ、あっはい!」(改めて言われると更に恥ずかしい…。)

こんな風に、誰かに触れられるのは久しぶりだ
彼は真摯に処置をしてくれているだけなのだから、変なことを考えるのはやめましょう…

「すごい…慣れてるんだね」

「よく研さんが怪我をするんだ。だから手当する機会が多くて、自然と覚えたんだ。」

「優しいね、ギュウ君」

誰にでもできることじゃない
自分には関係ないって、無視する人のほうが多い

私みたいな無価値な存在なんて、その優しさを受けるに値しない
手当をしてもらうことすらおこがましい
彼の、ギュウ君の優しさを受けるには私は下人すぎる

「ちさは無理し過ぎだと思う。痛いときは痛いって…言ったほうがいい。」

「あははは…」(チョコレートに悦びすぎて、脚のこと忘れてただけんだけどね…。)

「今日はここで安静にしてろ。ベッドから降りたら、分かってるな?」

「ハイ、ワカリマシタ。」(目が本気マジなんですが…)

扉を開けてこちらを振り向くと""と、まるで釘を指すように目で訴えてくる
はいはい…分かってますよ
こっそり抜け出して、ジャム作りをしようだなんて考えてません

彼の眼力に負け、大人しくベットに横になった
これでいいでしょ?大人しくしてますよー
その様子を確認したギュウ君は、扉を閉じて医務室から出て行った

(静かだ………)

何も聞こえない
時計が置かれていない部屋で、人通りの音も生活音も聞こえない
さっきまでの慌ただしい音も、今となっては嘘みたいに静まり返っている

こんなに静かだと、余計なことを考えてしまう
クリスチャンさん……とても彼に似ている
あの目元、特に横から見た顔つきは金髪の髪の毛だと言うのに重なって見えた
日本語を喋らず少し低い声色で、でも同じぐらいの身長

妄想と空想は紙一重で、思い込みなのか想像なのか……
彼だったら……私は嬉しいのか嫌なのか

「分からない…」

(クリスチャンさんも困るだろうな…)

そりゃそうだ
この世界には60億人以上もの人が居るんだ
しかも、自分に似た顔を持つ人は3人はいるとはよく聞く話
なら…クリスチャンさんは彼に似た別人という可能性だってある
いや…そもそも別の人でしたか…
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