逍遙の殺人鬼

こあら

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抱き抱えられている私を落とさないように、確実に膝裏を捕まえ歩く臼田うすたさんの後ろをジャンさんが歩いている
ポケットに手を突っ込んで、前髪を少し揺らしながら表情を見せずに歩く彼を私は見ていた

(彼から貰ったバレッタ…)

射的の景品のリボンの形のバレッタは、気付かぬうちにどこかへ隠れてしまった
あの男に捕まった時だろうか?
祭壇に寝た時、確かに頭の後ろにその存在は感じられなかった

なくしてしまったのだろうか?
それは、悲しい
せっかくジャンさんがくれたのに、もっと着けていたかった
髪に重くなった手を伸ばしてみても、デイジーの花の感触はなかった

(デイジーも何処かへ行ってしまった……。)









ジャンさんを見ているのに、彼とは目が合わない
こんなに見つめているというのに、互いの視線は平行線で重なり合うことはない
それに少しガッカリしてしまう

臼田うすたさん…もう大丈夫、です」

「まだ動かないほうが、」

「もう…歩けます」

無理言って降ろしてもらい、臼田うすたさんに支えられながら歩いた
若干の脚の痺れを感じながら、トラックへと向かう

ふと違和感を覚え、もう1度髪の毛に触れた
確かに自分の髪だったけど、触れた感触がいつもと違う気がした
伸ばした手を前に持っていくと、降ろされた髪の毛は黒く主張していた

赤みなんてものは無く、作られた偽物の黒い髪の毛へと変わっていた
若干湿っていて、匂いも私のものとは言い難い匂い慣れしていない香りだった

「…髪の毛、の色が」(黒色になってる…。)

「あの男に染められたみたい…」

黒く染められたことにより、少し標準的な人間に見える
あんなに嫌だった赤髪は、赤みを失い暗黒が占領していて一般的な存在へと近づかせてくれている気がした

不思議だ
殺されるところだったのに、怖かったはずなのに
今だって若干痺れが残っているし、縛られていた足首はヒリヒリと痛みが居座っている
だけど、この髪のことは違っていた
長年の苦しみの一つが、消えた気がした

「大丈夫。家に帰ったら、すぐ元に」

「いえ!このままでいいがいいです。それに…もうあの家には戻れません。」

「”戻れない”って…どうして?もう怖い目に合わせたりしない。だから」

「違うんです‼︎元々1って条件で、住まわせてもらっていたんです。…あっという間でしたね。」

そう、そう言う約束でジャンさんの家に住まわしてもらっていた
約束は、ちゃんと守らないと…

そう思っているのに、彼の、臼田うすたさんのそんな苦しそうな顔を見たら決心が揺らいでしまいそうだ
眉を潜めて、少し湿った瞳で私を見つめる彼に私は何も言えない
まだ一緒に居たい、そう言えば彼は実現させようとするだろう
だが、そんなことはしてはいけない
約束は約束、守るためにある言葉でした契約だ

いく当てなんてない
そんなことは彼も分かりきっている
そんな私に、都合よく助けてくれる王子様なんて来るはずも…

「あれ?レディじゃないか。」

「鳩屋、さん…?どうしてここに?」

「今日はお祭りで、私も見物に来たんだよ。レディはどうしてここに?」

「…えっと、最後に私も見物に。」

「最後?」と聞き返す鳩屋さんに、しまった……と思うのは遅すぎた
つい口が滑ってしまい、出た言葉だった

どう説明すればいいかアタフタしてしまう
なんでもありませんだなんて見えすいた嘘いうつもりもない
そんな私を見透かしたのか、鳩屋さんは近づき言った

「良かったら、お茶でもどうですか?私の家で。」

「…あ、そう…ですね…。」

「それでは、行こうかレディ。」

「…はい」

逃げだった
「ちさちゃん…」と消えそうな声で呼ぶこ彼のそばにこれ以上いたら、縋り付いてしまいそうだから
その手を握り締めては、それを離さないように強く力を込めてしまいそうだったから
今だって、後ろを振り返ると、そのくっきりとした瞳が見続けていた
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