逍遙の殺人鬼

こあら

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えっと、えっと…と戸惑う私は翻訳者には向いていないだろう
別に目指しているわけではないけれども

彼女からは英語で『ミズキに怒らないでと伝えて』と言われ、一方その彼氏さんには「なんて言ったのか言えよ」と確実に圧をかけられている
彼女さんに言おうとしても彼氏さんには阻まれ、彼氏さんにちゃんと説明しようとするも彼女さんに阻まれる

もう、どうすれば……
そんなしどろもどろの私が気に入らないのか「面見せろ」と強引に仮面を奪いられる
あ…、と何かが無くなり元の自分に戻った私は、仮面という武器が無くなったことにより、先程の勢いは無くなりあの…と口籠る









「…え、っと……」

「その顔…」

仮面よって作られた私は、今までの自分とは違う人物だと思い込んで行動するこができた
なのにが無くなった私は、ただの小娘で無力な自分に戻ってしまった

今思えば、ジャンさんと臼田うすたさん以外まともに男性と会ったことの無い私には、彼氏さんが少し怖く感じる
実際お怒りの様子を見せていたのだから、なおさらだ
そんな彼氏さんは、私の顔を見るなり何かを言いたげにこちらを見ていて、口を開こうとした瞬間に見知った声が鳴り響きそれを止めた

「ちさちゃん!全然戻ってこないから、心配したよ」

臼田うすたさん、どうして……」(ここに居るって分かったんだろう…)

走ってこちらに向かってくる臼田うすたさんは、ただならぬ雰囲気の彼氏さんを見ると、一瞬動きを止めるがすぐに私の方に歩み寄って来る

「ごめんね」と何故か謝ってくる彼は、膝上にあった私の手を取るとしゃがんで下から顔を覗き込んできた
その手は優しく、いつもの彼で何だか落ち着く感じがした

「やっぱり、こいつが例の女か」

「瑞貴さん、こんな所にいたんですね。ジャンが探してましたよ」

「オレは有名人だから忙しいんだ。見つけられなかったジャンが悪い。」

知っている人のように話し始める臼田うすたさんに知り合いですか?と聞くと「ジャンが会いたがってた人」と教えてくれた
この人が"会わなきゃいけない人"かと瑞貴さんとやらを見るが、向こうもこちらを見ていた

物珍しそうに見られている私の心情は、まるで見世物小屋みたいな感じだ
「この子か」と言いながら自ら仮面を外す瑞貴さんは、その整った顔立ちにキリッとした目元が印象的で私を驚かせた
そんな私の反応を見て「流石に気がついたか」と不敵に笑う瑞貴さんは、今をときめくアイドルグループの人気NO,1のMIZUKIだった

アイドルとかに疎い私でも、何かと話題になっていることぐらいは認知していて、新聞に何度も乗るこの顔は忘れるわけがなかった
そうだ、MIZUKIのメンバーカラーは紫だった
そのクールな態度と無数に空いたピアスがファンの心を射止めていて、彼が着けるピアスはいつも品切れとか

こんな有名人の彼女なんて凄すぎるし、そんな彼にジャンさんはなんの用があるのだろうか?
そう簡単に会える人ではない人物が、私の目の前にいるなんて信じられず何度も何度も瞬きしてしまう

そんな私に可愛い声で『そんなに見つめちゃダメ』と言ってくるのは、瑞貴さんの彼女さんだった

『ごめんなさい。まさか、彼氏さんかMIZUKIだと思わなくって』

『ミズキのこと好きになったらダメ!!』

『ならない、ならない!!』

確かにイケメンでスタイル良くって、歌も踊りもできて、ピアノからヴァイオリンまであらゆる楽器を弾けるスーパーピーポーな瑞貴さんでも、私なんかが好きになってはいけない

そう言って否定しているのに、瑞貴さんが近づいて来るもんだから、彼女が怒らないかハラハラしてしまう

「あんたがジャンの女ね~」

「っ!?ちがっ…私はただの家政婦みたいなもので……」

「ジャンが女を家に住まわすとはね」

そう言って私の顔をよく見えるように顎を掴んで、グイッと上に向け衝撃的な行動を取る瑞貴さんに呆気にとられてしまう
近づいた顔は、男なのにきめ細かな肌質でテレビや写真で見るよりも、もっとイケメンで男前に見える

あの…と目を見開いて抵抗できない私を、瑞貴さんから離したのは臼田うすたさんで「近すぎ」と彼から隠すように私を抱き締めた

臼田うすたさんも、近すぎです………
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