逍遙の殺人鬼

こあら

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部屋の中に案内すると「これ着たらいいよ」とドレスを取り出してくる
それは肩出しドレスで、ウエスト下から一気に広がっているボリューム部分に散りばめられたビーズが輝いていた

今着ている薄いピンクとは逆にパステルブルーで、とても繊細なデザイン
でも、私には露出度が高すぎるのでは…?

「私にはハードルが高い気が…」

「お嬢さんは細いから、大胆なデザインでも映えるよ」

(言うほど細くない…)

着るのを迷っていると「そのドレス着たままの方がいいの?」と言う言葉に決断した
臼田うすたさんには申し訳ないけど、着させてもらいます……









「さぁ、お手をどうぞ」

「いや…あの……大袈裟では?…」

足元危ないからとか言って手を握ってくる
リードするように階段を降りていくと「そう言えば、君の名前は?」と耳打ちしてくる

その質問にアホな私は馬鹿真面目に答えてしまった
その回答に大満足みたいで、「君とはいずれじっくり話がしたいな」と微笑みながら言ってくる

「どうしてですか?」

「君に興味が湧いたんだ。」

そう言うと「私はここで」とお別れした
彼の名前…聞かなかったな

私は待っているであろう臼田うすたさんの所へ急いで向かった
このドレスは走るのには適しておらず、小走りで移動する
角を曲がろうとする時、声が聞こえた気がして止まった

その声が私のドレスをずたずたにした令嬢に似ていた気がして、声の聞こえた方に向った
そこにはやはり、令嬢1人が居て取り巻きは居ないようだった
もう1人男の人が居るみたいだけど、後ろ姿でよく見えない

何だかいい感じの雰囲気なのか、令嬢は男性にくねくねしながら近づいている
その令嬢に連動して少し動くと、それが誰か分かった

「ジャンさん……?」

確か令嬢はレイモンドと言うなのジャンさんのことがかなり好きそうだったから、2人で会っているのだろう
そう思って見るのをやめようとすると、急にジャンさんが彼女を後から抱きしめた

それがあまりにも衝撃すぎて、見ることをやめられなかった
ジャンさんも令嬢のことが………とか思っていたけど、そんなんじゃなかった

右手に光る物を持っているジャンルさんは、令嬢の首元にそれを当てると一気に横にスライドした
その衝撃で令嬢の首からはおびただしいほどの血が噴射した

その光景に、自分の口を抑えてその場から逃げた
ジャンさんが…人を、殺した……
どうしよう……

臼田うすたさん…臼田うすたさんはどこ?)

1人居るのが怖い
行き交う人混みの中、やっとの思いで彼を見つけ出した
臼田うすたさん…と呼べばゆっくりと振り返るが、ドレスが違うからか一瞬動きが止まった

「っう、臼田うすたさん…、あの…」

焦る私に無言で私に手を差し出す臼田うすたさん
大ホールの端からは、楽器が奏でている音楽が聴こえる

そうか、"踊ってください"って約束したんだった
その手を取り踊りの構えを取ると、音楽に合わせて彼がリードしてくれる
だけど、その動きが妙に昨日の夜とは違っていて解せなかった

少し早いような、ステップの取り方も違うような…
でも優しいその手付きは臼田うすたさんだろう
曲の盛り上がり部分で彼は手を離すと、ウエスト部分に手を持っていきふわっと上に上げる

そして確実に下ろし、また手を組む
くるっと回転させ、右に行っては左に行く

曲が終わると手を離してくれた
そのタイミングでさっきの出来事を話した

臼田うすたさんどうしよう……、私さっきジャンさんがご令嬢を殺してるの見ちゃって…」

「っ、…」

「ジャンさんがどうして…」

待って、あれは本当にジャンさんだった?
そう言えば、さっき踊った時仮面の奥から見ていた瞳の色…若干明るかった気が……
もしかして、今のがジャンさん!?

そう思って彼を見るが、そこにはもう姿はなかった
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