逍遙の殺人鬼

こあら

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車内に居る私は、正直帰りたい気持ちでいっぱいだ
隣で運転するジャンさんにすら眉がひそむ
してやられた私は、どこにも行き場のないこの怒りとも思われるものがうごめいている

もう彼の方には顔を向けられない
いや、向けたくない

優しさを見せたかと思ったら、それは演技で私をからかっただけだった
それに引っかかった私も、馬鹿だ
彼の誘惑に負けた、ただの馬鹿だ……

彼も彼で私に話しかけては来ない
それは、流石にまずと思っているのか、…それとも興味がないのか
後者の方だと流石に分かってはいる
最初から最後まで、彼は私に興味ないだろう…









揺れる車は目的地に着き動きを止めた
エンジンを切ってシートベルトを外すジャンさんは、サングラスをかけなおして外に出る準備をしている
そんな彼を私は無視している、それぐらい許されるだろう

「降りろ」

「嫌です。」

「はあぁ?なんでだよ」

「どうして私が降りなきゃいけないんですか。」

「どうしてあんたは降りようとしねぇんだよ」

それは…ジャンさんが"降りろ"と言ったから、従いたくなかったから…
そんな子供じみた言い訳、彼には通用しない
それどころか強引にシートベルトを外してくる

苛ついた手つきで「降りろよ」と車から引きずり降ろす
相変わらずの乱暴な対応に、腹が煮えくり返りそうだ
脇腹でも叩いてやろうか?そうすれば少しはこの怒りは収まるかも
だけど敵意むき出しの私の首根っこを掴んで歩き出すジャンさんは、歩幅が合っていないことを気にしていない

「離してくださいよ!」

「無理」

「なんでですか!?」

「なんとなく」

それもまた説明になっていない
さっき抱きしめてくれた彼とは思えない
勿論それは演技なわけで、ジャンさん自身の行動ではない

着いたと言わんばかりに脚を止める彼に連動して、私も動きを止めた
自動ドアが開くと、また私の首根っこを掴んだまま動き出す

優しい曲が流れるそのお店から、首にスカーフを巻いた1人の女性から来て「いらっしゃいませ」と出迎えてくる
店員と思われるその人に「お願いします」と言っては、私を売り飛ばすみたいに突き飛ばす

何なのか分からないまま店員さんに促され、中へと進む
「どうぞ」と私を椅子に座らせると、照明を着けて私を照らす

「では、お手を失礼します。」

「え、あの…なにを………」

優しい手付きで私の手を取ると、オイルみたいな何かで凝りをほぐすように揉んでいく
また状況が把握できてない私は困惑しきった顔でいる

揉むのをやめると、軽くそれを拭き取りなんと言うのか分からない少し鋭利な機械を出してくる
それに思わず掴まれている手を自分の方に戻す

「お客様?」

「なんです…それ?」

「お客様の爪を整えるための機材でございます。」

"爪を”…”"?
周りを見渡すと、私と同じように手を差し出して爪を整えてもらっていた
ここはネイルサロンと言うところだったみたい

荒れている爪を滑らかにするとテーブルの下からノートみたいな物を取り出しては、私に見せ「どのお色がいいですか?」と聞いてくる

「えっと………、店員さんにお任せします…」

どうしてネイルサロンに来たかも分からないし、何よりネイル自体が一見いちげんさんな私には疎すぎて話にならない
「確認してまいります」と言うと、別室に居るジャンさんの所に行く

戻ってきた店員さんは、確認が取れたのか「こちらのお色味ですね」と私に認知させる
それは薄いローズピンクみたいな色で、正直塗ってもあまり代わり映えしない色だった
塗る意味あるのだろうか?だなんて少し失礼な考えをしながら手を差し出した

「あの…どうしてこの色なんですか?……」

「お連れ様からのご指定色です。ナチュラルなお色味は男性からの人気が高いですよ。」

「はあ…、そうですか…」(正直その情報は要らないです…。)

男性から人気があっても無くっても、私には関係ない
丁寧に慣れた手付きの店員さんは、私の緊張をほぐすため会話を投げかけてくる

「お連れ様は恋人ですか?」

「まさか!違います違います。」

「そうなんですか?きちんとお客様のことを考えられてお色を選んでましたので、てっきり恋人なのかと。」

「そんなはずは…」

「お客様の肌の色や質感など細かく言っては、"あまり派手すぎない色を"とのご指示でした。」

私のことを考えていた?
ジャンさんが?
そんな訳ない、きっとそういう雰囲気出して適当に選んだんでしょ
彼のお得意の演技にかかれば、この店員さんなんていちころだ
私の…肌の色や質感なんて、気にして無いくせに
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