逍遙の殺人鬼

こあら

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夢から覚ますように呼びかける優しい声で、悪夢から目覚めた
夢見が悪く、目元には薄らと涙が居座っていて、それを拭った
「ちさちゃんおはよー」と私より先に眠りから覚めた臼田うすたさんが、後部座席からこちらを覗くように身を乗り出してくる
どうやら寝ている間に目的地に着いたようで、それを教えようと起こしてくれたみたいだ

「いやー、一眠りしたからスッキリ!」

「すいません、寝ちゃって」

そう言いながらシートベルトを外すも、あれだけ寝るなと言っていたジャンさんは何も言ってこない
無言で私を見ている
それを確認した時、目が合ってその見据える目にビックリして顔を背けた
その行動も見続けているジャンさんに気付かないフリをして、行きましょうか…と言い車を降りる

「…それで、今日はどこに…」

「今日は!ちさちゃんの!買い物です!」

(!?!?!?!?!?!?!?)

1語1語強調するみたいな喋り方で、よくわからないことを言う臼田うすたさんに、え?と聞き返す
「ちさちゃんのベッドとかタンスとか、色々買い揃えます」と言い直してくれた
買わなくていいですよ、と言っても「行こうかー」と全く聞き入れてくれない









「どのベッドがいいかな」

「……ではこれで」

そう指さしたのは陳列した中で、一番安い約3万円のセミシングルベッド
特に飾りはなく、鉄の骨組みでシンプルなデザイン
「それは可愛くないよ」と却下され「これなんかいいんじゃない」と指さしたのはキングサイズの12万円のベッドだった
え……大きすぎでしょ…………

「私1人には大きすぎません?」

「僕も一緒に寝るから大丈夫」

何が?何が大丈夫なんですか?
何故一緒に寝るの前提なんです?

にしても大きすぎます、と言うと「じゃあ、ジャンも一緒に寝ればピッタリだね」とウインクを投けてかけて来た
どうしてそっちに行くのか……
ダメです、そう言うと「えぇーーーー」と子どものように駄々をこね、うなだれる

「こんなに大きいの必要ないですよ」

「えー、寝返りとかで大きい方がいいじゃん」

「どんな寝返りですか!?」

私はそんな荒ぶった寝返りはしません、と却下する
「じゃあ間を取ってダブル」なんて言ってくる臼田うすたさんに、それも大きいですと却下していると、彼の顔に商品票を突きつけ「早く買ってこい」とドタバタ騒ぎを終わらせるジャンさん
その商品票を確認して渋々レジに向かう、臼田うすたさんを見守った

「勝手に…決めないでください……」

「時間がもったいない」

(別に急いでる訳じゃないのに…。)

そんなことを思っていると、近くを通る他のお客さんのヒソヒソとした声が聞こえて来た
手首に包帯、頬には大きなパッチを貼っている私の姿は、普通とは言い難いだろう
チラチラと確認する視線が痛い

隣にいるジャンさんも、変な風に思われていないだろうか……
心配する私をよそに、ジャンさんは聞こえていないのか無視しているのか、特に反応を見せずに腕組みしたまま臼田うすたさんの会計を待っている

気にしていないのなら……と何も言わず、靴を見るように下に視線を向ける

「DVかな、」
「でも男の方別に女、気にしてなくね?」
「リスカでもしたんじゃない?」
「え、メンヘラ?こえ~」

へいへい、ご自由に語ってくださいな
こちらを気にすることなく話すカップルを無視して、会計を待つ

……やっぱり、そう見えちゃうよね………
はぁ……と周りに聞こえない小さなため息をこぼした
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