逍遙の殺人鬼

こあら

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彼の口から私の口へ、チョコレートが移動したのが分かると首裏を掴む手を緩め、唇を離し運転する姿勢に戻る
「うめぇだろ」とか言ってくるジャンさんに、なにするんですかっ…、と思わず唇を抑えながら言う

「"なに"って、食わしてやったんだろうが」

「食わしてって……もっと他にやり方が………」

「あんた本当うるさいな」

いや…、だってそうでしょ
口移し以外も絶対方法あったし、そもそも加える前にくださいよ……

両手で顔を覆って下を向く私に「うまかっただろ」とか言ってくるんで、もう、…………はい……としか答えられなかった


口の中で先程頂戴したチョコレートを味わっていると、本当に美味しいなと思いはじめ、ジャンさんがグシャグシャにした包み紙を広げた
見たことないチョコの名前に不思議そうに見ていると、「日本のチョコじゃねぇ」と心を見透かしたように言ってくる

「どこのチョコレートなんですか?」

「イスラエル」

イスラエル!?わざわざそんな所のチョコレートを…
そこら辺で買えるとも思えないし

(そもそも日本語表記じゃないし…)









「目的地まであとどれくらいですか?」

「まだ」

「…そうですか……」

なら私も仮眠を…と目をつぶろうり寝ようとしていたのに、「あんたは寝るんじゃねぇ」と言われてしまう
どうしてですか?…と問うと「しゃくだから」とか意味不明なこと言ってくるので、無視して寝ることにした

「…っ!?」

「んで、寝ようとしてんだよ」

「っい、痛いです!」

思いっきり両頬を掴んできて、眠気も吹っ飛んだ
そこ昨日殴られたとこですって!
それに片手運転ですよ

「寝んじゃねぇ」と掴む力を強め有無を言わせようとしない
頬の痛みに思わず、分かりましたっと言ってしまい、起きなくてはいけなくなった

しゃくって…なんですか………


「っ………」

(口…傷口また開いたかも……)

そんなことは気にもせづに運転するジャンさん
ッチ、と舌打ちし何だか期限が悪そうで、口の傷口開いたんですけど、とは言い難かった

眉をひそめて苛立つ彼は、私ではないなにかに怒っていた
それは私達の前を走る車で、スピードを出したかと思ったらいきなりの止まりそうな感じを出したり、車線変更させない妙な動きをしていた
これが運転というものなのか…

「うっぜぇ、殺すぞ」

そう言いながらクラクションを盛大に鳴らすジャンさん
どうやらこの車のせいで、だいぶ目的地につくのが遅れているみたいだった
何度も鳴らすクラクションに相手の車は楽しんでいるのか、全くやめる気配はない
周りには他の車は居らず、ジャンさんの車と前を走る車だけで、他の人に迷惑は及んではいないものの相当ご立腹の様だ

「ジャンさん…」

「黙ってろ」

何だか怖くなり思わず彼の名前を呼んだ
何かをしそうな顔に恐怖を覚え、体がすくんだ

右に寄ると相手も右に寄る、左に寄ると向こうも左に寄る
それを逆手に取り、1度右に寄ってから絶妙なタイミングで左を突っ切り相手の車を追い越す
相手も負けじと左に寄り返したせいで、ぶつかってしまうのでは無いかと、心配で今にも口から心臓が出そうなくらいハラハラしている

無事に追い越すことができ、それで終わらせればいいのにジャンさん予想以上に怒っていたみたいで、少し距離を取った先で行く手を阻む様に横に停車する
当然向こうはぶつかってしまうので、寸前で止まる

「ジャンさんっ…なにを……」

私の言葉を聞こえなかったのか、シートベルトを外し車から降りると、煽り運転の車の方へ歩いていき何かを叫んでいる
運転手は出てこようとせず、そのことにもキレ、車の窓ガラスを拳で割るとドアのロックを解除し、運転手を引きずり下ろす
そしてそのまま顔面を殴るジャンさん

「っ!そんなっ」

私は車から降りて、ジャンさんの所に走って彼を止めようとする
しかしどれだけ言っても殴る拳は止まらず、運転手の顔から大量の血が出てくる

「こういう奴は口で言ってもわかんねぇんだよ!なあぁ!」

「うぐっ…」

「そんな…死んじゃう、死んじゃうよジャンさん!!」
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