逍遙の殺人鬼

こあら

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私は今1つの扉の前に佇んでいる
手にはカレーライスと福神漬を入れた小皿、水の入ったコップを乗せたおぼんを持っている

(ちゃんと助けてもらったお礼も言わないと…)

ゴクリと唾を飲み込んで、ふぅ…と深呼吸
大丈夫…と心の中で自分に言い聞かせる
たかが夕食を渡すだけなのに、それさえも難しく感じさせる

「ジャっ、ジャンさん!夕食をお持ちしました…」

部屋なかから返事はなく、シーンとした空気が流れている
…めげるな、今日こそ食べてもらうんだ

「ジャンさん、開けますね?」

もちろん返事はない
しかし引き下がりはしない









「ジャンさん…」

彼の姿はすぐには見つけられなかった
なぜって、それは部屋中に置かれる無数の本に目が行ってしまったからだ
壁1面に作られた本棚には勿論本が所狭しと入っているが、それでは収まりきらなかったようで床に積み上げられた数え切れない蔵書が私の好奇心を駆り立てた

すごい…こんなに沢山、しかもどれも読んだことない物ばかり
その光景に感動していると「ううっ…」と低い声でうめくようなものが聞こえる
声の方に目をやると掛け布団に隠されたジャンさんが居た
どこか苦しそうな顔をした彼は汗ばんでいて辛そうに見える

おぼんを置いて、彼の名前を呼びながらを揺さぶる
思いのほかすぐに目は開いて、何でここに居るんだ?みたいな目で睨んできた

夕食を…と話はじめると「いらねぇ」っと冷たく突き放される
_____分かってましたけどね………
「出て行け」と言う彼に最後に1つと呼び止める


「外での……ありがとうございました。」

「何言ってんの。別にあんたを助けたつもり無いんだけど」

「でも、ジャンさんのおかげで…助かりました…」

「うっざ…」と眉間にシワを寄せ苛立つ彼に、今日はカレーですと伝えると「しつこい」と怒られてしまう
だと思いました……………
はぁ…とため息をこぼしてこちらを睨み続ける彼に、仲良くしたいんですと言ってみる

「変なものなんて入れてません。できることなら何でもします、だから避けないでほしい…です」

「なんでも?」

と言うのはちょっと言い過ぎたかもしれない
だってそのせいで、彼の何かに火をつけてしまったようで、彼の眼光は鋭く、いつの間にか引っ張られてしまっていた

そのままベッド押し倒されていて、あの男と同じように馬乗りにされてしまう

下がベッドで良かった
背中がまだ少し痛むのに、床の上に倒れていたら余計傷んだだろう、だなんて思ってしまう
こんな時なのに…


「なら慰めろよ」

「?????」

「なに、男の部屋に入ってことはそういうことだろ」

そう言うと先程貼ってもらったばっかりの頬のパッドを勢いよく、べリッと剥がされる
っい!…っと反射的に声が漏れて、剥がすときに生じる痛みに反応し思わず涙ぐんだ

違う、そうじゃない…
したいわけじゃない…………


「ジャンさんっ、やめてください…」

「なんでもするって言ったじゃん」

ぐっと痛む手首を掴まれ、押し付けるとギシッとベッドが鳴った
痣があるのを知っているはずなのに、掴む力は優しくなくて包帯が隠れるくらい彼の手は大きかった

「痛いっです、ジャンさん……」

「もっと危機感持てよ、なあぁ?」

「っ!?」

_______________痛いっ………

もう一方の手で両頬を掴まれる
親指の所がちょうど口の端に当たって閉じかけていた傷が開く
それがどれほど痛いか、例えがみつからない

彼が怖い
やっぱり優しいなんて

_____嘘だ…………


掴む手は相変わらず強くて、私は泣いているというのに彼の顔は冷たかった

「っジャンさんっ…」

「あんた、うるさい」

「!?」


ぐっと強引に押しつけられた
それに反抗するが掴まれている手によって離すことはできず、逆にグイッと圧を増してくる
重なる唇と唇は向きを変えてきて、仕舞には舌で口の中を不法侵入するみたいに開かされる

「っい、た……いっ……」

口端の傷からわずかながらに血が出てきて、口の中がほのかに血の味がしていた
掴まれていない手をグーにしてジャンさんの肩あたりを叩くが、非力な力は全く響かず彼は微動だにしないまま口づけをし続ける
そんな彼の力が強いせいか、だんだんと意識が遠のく気がしていた
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