逍遙の殺人鬼

こあら

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鏡を見終え、向きをくるっと変えるとこちらに近寄ってくる
モッサリとした髪型消え去り、歳相応の若々しさと男らしい体がすぐそこまでやって来た
ニコッと笑い「格好良くなった?」と聞いてくる

「爽やか青年に見えます」

万人受けする見た目
少し羨ましい

先程まで触っていた髪は、日本人らしい黒髪だった
私と違って、ちゃんと整えればボリュームは無くなり、バランスの取れた髪

対して私の髪と言えば…
日本人とは思えない赤みがかった髪にうねった髪質
普段は縛って隠しているが、みつ編みをにしている理由はこれだった…

ポニーテールやおろしたままだと、波打つような髪が四方八方に広がるため、結って閉じ込めていた









臼田うすたさんはそのままお風呂に入った
その間に夕食に使ったお皿を洗う

結局ジャンさんは、帰ってこない
残業?帰ってこない理由を考えるが、もしかしたら私に会いたくないだけなのかもと思いはじめる


私が作ったご飯はどうして食べてはくれないのだろう?
別にそこまで変な味ではないと思うし、変な物を入れている訳でもない
何をそんなに警戒する必要があるのだろうか
警戒しないといけない理由が、あるのだろうか?

手作りでなければ…食べてくれるだろうか?
毎日毎日カップラーメンなんて、不健康だ

きゅ、っと蛇口を捻り水を止める
手をタオルで拭くと、お風呂から上がった臼田うすたさんが台所に入ってくる

お風呂上がりに冷たい飲み物でも飲みたいのだろうか
そんな安易な考えで振り返ると、ジャンさんに初めてあった時と同じ様な場面に出会す

腰にタオルを巻き、濡れた髪を拭きながら歩いている彼に、明らかに動揺した

何故服を着てから来ない……
この家の人は、お風呂上がりはこうなのか…………
できればやめて頂きたい、心臓が持たない

これ以上は見てはいけないと思い、彼に背を向ける形で体を動かす

「っう、臼田うすたさん、…服着てください…。」

「っあ!ごめん、つい」


男同士だったらこうなるのだろうか…

私が居る事を思い出したのか、台所を後にする足音が聞こえた
ふぅ…、とため息を漏らし、バクバクとうるさい心臓を押さえる

平常心、平常心、平常心………
そんな言葉を唱えても、ちっとも心は静まらなかった


服を着終えて台所にやって来た臼田うすたさんは、頭をかきながら申し訳なさそうな顔をしていた
「女の子に変なもの見せちゃったね」、と眉をハの字して来た

髪を切る前にいきなりスエットを脱いだ時も中々に心臓バックバクでしたけどね


「あれ?」

スエット姿じゃない彼に少し驚いた

Tシャツ姿…、中々似合ってらっしゃる
やはり、スエットよりこちらの方がより素材を活かしている
顔がいいと何でも似合うと言うが、流石に汚れまみれのスエットは例外だろう


「あのスエット汚れがすごいから、せっかくだし洗ってもらおうと思って」

「はい、洗っておきますね。でも、スエットよりそちらの方が似合ってますよ」

あ、つい余計なことも口走っちゃったかも…
その嫌な予感は残念ながら的中してしまった

「こっちの方がちさちゃん好き?」


好き?と聞かれましても…………ねえぇ?


「好き…と言うか、……似合ってますね。はい。」

淡々と申し上げると「何その言い方~」とうなだれる臼田うすたさん

どうやら、ほしい言葉はこれでは無かったらしい
その言葉は適切ではないだろう
私は一従業員で彼は雇い主

そんな言葉、言ってはいけない
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