刑事ジャガー 特異犯罪捜査室

最終話 大東京最後の日

「こんなところにいたんですか？」
　その男は警視庁本庁舎最上階の展望通路にいた。
　長椅子に座り、焦点のあわぬ目で都会の景色を見下ろしている。
　颯汰は自販機の紙コップを握るその男の隣に静かに腰を下ろした。
「おまえも査問に呼ばれたのか？」
　男——鏑木豹吾が低声で問いかける。
「はい。きっちり絞られましたよ」

　颯汰がコンサヨおじさんを逮捕していれば、こんな事態にはならなかったのでは……との厳しい意見を監察の一人から突きつけられた。
　いったん追い詰めたものの、むざむざ逃してしまったから豹吾の暴走を招いたのだと……。
　それはそうかもしれないが、それでは今度はこちらが被査問の主になっていただろう。
　拳銃を突きつけられても動じない犯人を相手にどう振るまえというのか？

「コンサヨの遺体は見つからなかったそうだ」
　豹吾がぽつりといった。
「あいつはまだ生きてる」
　それは勘でしかないが、おそらくそうだろう。コンサヨおじさんには人間離れしたなにかを感じる。
「生きているのだとしたら査問は無意味ですね」
「また現れたら、今度こそおれはとどめを刺す」
　拳銃の発砲をいささかも悔いてはいないようだ。豹吾の瞳に揺るぎない意志の光が灯った。
　——と、そのとき颯太のスマホが鳴った。田所室長からだ。
『急ぎCICにきてくれ！』

　捜査室CICでは蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
　レッドアラートが点滅し警報がけたたましく鳴り響いている。
「マッドガッサーです。
　マッドガッサーが渋谷のセンター街に現れました！　成分不明のガスを振り撒いていますッ！」
「台東区千束の路上にゴリラ男出現！　風俗店に侵入との報告！　女性従業員を人質にして立てこもっている模様です！」
「コンサヨおじさんと思われる男がお台場のイベント会場で来場者を襲撃！　サバイバルナイフと思われる凶器を振りかざし死傷者多数！　現場はパニックに陥っています！」
　CICに駆け込んできた颯汰と豹吾はあまりのことに、その場に棒立ちとなった。
　都内に潜伏中の特異犯罪者が三人、同時多発的に凶行を開始するとは……。
「やっぱり生きていたか……」
　豹吾が唸るようにつぶやく。
「ゆくぞッ、お台場に！」
「はいッ！」
　あとの地域は各所轄と機捜各隊にまかせるしかない。
　赤い獣ジャガーEXが飛び出してゆく。
　悲鳴渦巻くアーバンジャングルの真っただなかへ——！



　　　　　　　第一部　三大怪人首都襲撃編　序章

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了。