上 下
9 / 11

第9話 曇天

しおりを挟む
「なにをやってるんですかッ?!」
 颯汰は水面に向かってコルトパイソンを撃ちつづける豹吾の腕を押さえつけた。
「離せ!」
 豹吾はやはり確信犯だった。刑事の職分を忘れてコンサヨを抹殺しにかかっている。
「ぼくたちは刑事でしょうが! 処刑人じゃない!」
 そのときだ、上空で稲妻が光った。
 雷鳴が轟き、天から大粒の雨が降ってくる。

「くそッ!!」
 豹吾が颯汰の腕を振り解き、コルトパイソンを懐のホルスターにしまった。
 コンサヨが落下した呑川が早くも増水し濁流と化している。
 豹吾はジャガーEXの運転席にもどると颯汰を置き去りにして走り去った。



「…………」
 颯汰は激しい雷雨に打たれたまま暴れ狂う水面を見つめつづける。
 コンサヨおじさんの姿は浮かびあがってこない。底流のところで押し流されたか?
 見切りをつけ踵を返すと、近くの軒先に避難して室長の田所に連絡を入れた。
 明日、鑑識のダイバーが派遣され、川底や河口の捜索が開始されるだろうとのことだった。
 もし、コンサヨが射殺体で発見されれば豹吾は監察の査問に呼び出されることとなる。
 いや、死んでいなくても拳銃を発砲したことは事実なのだ。
 抵抗されてやむなくといったケースではない。クルマで撥ね飛ばした上、呑川に転落した犯人をさらに拳銃で撃った。これは明らかな警察官職務執行法第七条違反なのだ。
 颯汰も査問に呼ばれ証言を迫られる。監察の前では正直にこたえるしかない。
 雷雲はさらに低く垂れ込め天をふさいでいる。

 はあ……。

 重く深いため息をついて颯汰は現場をあとにした。



       第10話につづく

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

Mパーキングの幽霊

色白ゆうじろう
ホラー
怪異調査ものです。 グロなし とある高速道路上で頻発する死亡事故 「Mパーキングエリア」というパーキングエリアにおいて、どこからか現れる「頭の小さな男」と会話をした後、必ず事故死をするという噂が広まる。 その「頭の小さな男」をドライバーたちは『Mパーキングの幽霊』と呼んだ。 あまりの死亡事故の連続性に、怪異調査エージェントと助っ人のオカルト作家が調査に乗り出すが…

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

殉哀

にゅるにゅる
ホラー
間違いではないが正しくもない恋愛のしかた。

AstiMaitrise

椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______ ”学校の西門を通った者は祟りに遭う” 20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。 そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。 祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!

処理中です...