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第1話 コンサヨおじさん

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 そのおじさんはホームレスと見紛うばかりの薄汚い格好であった。
 くすんだ膝丈のトレンチコートを羽織り、顔は赤黒く髭は伸ばし放題だ。
 体全体から異臭が漂っている。
 おじさんは道ゆくひとりの青年にふらふらと近寄ると声をかけた。

「コンニチワ」

 いきなり見も知らぬおじさんに声をかけられ、その大学生らしき青年はたじろぐ。
「コンニチワ」
 おじさんはさらに一歩にじりよって青年の眼前でいった。
「あ…ああ、こんにちは」
 青年は引き攣った顔でやっと応じる。
 その刹那——



 ぐさっ‼️


 肉を刺しえぐる音がした。
 おじさんが青年から離れた。
「サヨウナラ」
 青年が棒のように倒れた。
 腹の辺りから血溜まりが広がってゆく。
 おじさんは血濡れたナイフをペロリ、舐めるとコートの内側にしまった。
「コンニチワ」でターゲットに近づき「サヨウナラ」で相手を刺し殺す男——通称コンサヨおじさんがまた、犯行を再開したのだ。


       第2話につづく


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