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災い転じて災厄と為す
しおりを挟む思えば濃密な1日だった。
まだ見慣れない天井をぼんやりと眺めつつ僕はそう考えた。何がいけなかったんだろうか。普通の学園生活を享受したかっただけなのだが、それはもう無理な話なのだろうか。ふと何の気なしに壁へと目をやる。そこには時計があった。
時刻は8時15分
「おいおい、嘘だろ」
あれだけ、悪目立ちして僕までヤンキーのレッテルを貼られると溜まったものでは無い。いやいや、落ち着け。学校まで走ればまだ間に合うはずだ。理不尽な試練を課す神を呪いつつ僕はバターロールを手に取り駆け出した。気分としては月並みな少女漫画の主人公である。遅刻遅刻と心の中で呟きつつ角を曲がる。
瞬間、身体に大きな衝撃が加わる。
「は?」
背中に母なる星の感触を感じた後、僕の意識はフェードアウトをしていった。
目が覚めると見慣れない天井があった。何があったかあまり覚えていないが意識が途絶える間際に背中と地面がふれあったことだけは覚えていた。どうやらここはどこかの病院のベットのようだ。気を失っていた所を運ばれたのだろうか、そんなことを考えながら体を起こすと1人の女の子が目に入った。
「...あ、ああああ!よかっだぁぁ。す゛み ゛ま せ゛んでしたぁ。」
その女の子は僕が目を覚ましたことに気づくと、涙目になり、顔が見えない程に頭を深く下げて謝ってきた。
誰?この子?体が痛い。なんで謝ってんの?今何時?口が痛い。何が起きたっけ?...あー状況が飲み込めない。
「えーと...説明をs」
「あ!ちょっと待ってください!」
女の子は僕の言葉を遮り、隣まで来てナースコールを押した。その時見た女の子の横顔は可憐で儚く美しいと、リアルで使うことがないと思ってた言葉が出るほど目を奪われた。
正直看護師と何を話したか記憶に残っていない。
ツイトツだとかコウトウブキョウダとか
とりあえず安静にしといてくださいと言われてベッドに寝転ぶと先程の少女と目が合った。
いや、分かってるんだよ?君でしょ、追突犯。
「……。」
「………。」
やばい今度は目が離せない。
「私、金枝蓮水っていいます。」
「ああ、どうも 黒田楓です。」
自己紹介してしまった。いや向こうから名乗ったのだからこちらも名乗り返すのが礼儀だろう。
彼女は申し訳なさそうに話を始めた。どうやら彼女は僕の後輩にあたるらしく(どうやら僕の学校はエスカレーター式だったみたい)急いでいたせいで追突とのこと。
いや、正直怒ってないというか記憶が飛びすぎて怒れないというか。
小動物のような目で震えられるとこちらが申し訳ない。
なにか彼女が落ち着ける物がないだろうか。
「あ、あのさ。今日の事故は僕が寝坊したことも悪いし、君だけの責任じゃないよ。だからさ、そう気に病まないで。」
そう声掛けをするが彼女は顔を伏せるだけだった。
「じゃあさ、今度食事にでも誘ってくれ。」
その言葉に彼女は顔を上げ、頬を赤く染めたあと頷いた。
その後の言葉を思いつかず、あたふたしていると
「よかったら連絡先を交換してくれませんか」
その申し出に対して断る理由もなく、父以外の番号を埋めることになった。
彼女との会話が少なくなった頃、病室の扉が開いた。
そこには顔面蒼白な橘瑛子が立っていたなぜかわからないけど、瑛子に金枝蓮水と 一緒にいることに罪悪感を持っていた。
「今日はすいませんでした。先に失礼します。」
蓮水がそう告げ病室を後にした。
入れ違いで瑛子が入ってきて、関係について問われると思って構えた。
「大丈夫?どこ怪我したの?どれくらい入院するの?」
想像していた質問攻めと違い、返答がすぐに出来なかった。
「どうしたの?もしかして、言えない程重傷とか?」
虚を突かれていると、返事が遅れてありもしない想像をされてしまっている。しかし僕は僕で自分の状態がよくわかってないのだ。というか初期のキャラは、どこいったんだ。いや、こちらとしてはまだ絡みやすくてありがたいのだが。
「ツイトツでコウトウブキョウダ的な?」
僕は看護師さんとの会話を出来るだけ思い出して復唱する。瑛子はきょとんフェイスでこちらを見てくる。そんな顔で見られてもこっちもこれ以上はわからないのだがどうしたものか…
「というか、今学校じゃない?休みとかだったっけ?だったら僕凄い恥ずかしい奴なんだけど」
「怪我して病院に運ばれたって聞いて早退してきちゃった」
そう言って瑛子は近くの椅子に腰を掛けた。
「ところでさっきすれ違った女の子誰?」
「学校の後輩だよ、金枝さん。あの子にぶつかって気を失ったんだ」
その割にはあの子ピンピンしてたけど…と言いながらこちらに視線を送る瑛子、流石に自分の軟弱さを感じざるを得なかった。
...ま、自分の体について今考えたって変わらない。明日からの僕が何とかするだろう。
「今日は様子見のため一晩病院に泊まるけど、明日の午前中には退院できるらしいから、すぐ学校で会えるよ。」
「...わかった。無理はしないで。」
彼女は安堵したような表情をしたと思えば、何かを考える仕草へ変わり、閃いたように顔を上げて、出口へ足を運び始めた。
「元気な楓が見れて安心したよ。名残惜しいけど、楓のためにも今日は帰るね。これからは早起きをするように!またね!」
彼女は胸の前で手を振り、それに僕は不器用に手を振り返す。
彼女が帰ったことで、僕は少し寂しく思った。
寂しい夜の病院を乗り越え退院後、直ぐに制服に着替え学校へ向かう。
親父からは休んでもいいんじゃないかと提案されたが、物憂げな誰かさんの顔が浮かんでしまうので学校へ向かうことにした。
……いや正直怖い。だって転校したばっかの奴が自転車とぶつかって1日半休んだ後の立ち回りとか分からない。それが出来たら友達100人できてる。……なんて考えてると学校に着いてしまった。
昼休みが始まったばかりらしく購買へ向かう生徒や教室内で机を移動する生徒が見られる。
この喧しさのおかげで教室までバレずにたどり着く事が出来た。
ドアを開けまず彼女の席を見ると………誰もいなかった。
サボったのかな?なんて思いながら机にカバンを置いた時に初日の出来事を思い出した。
「屋上か…。」
独りごちて教室を後にする。
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