銀河漂流ウラシマン

樫山泰士

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始まり。

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(一)

「じゃあさ、亀を助けたのは?」

「馬鹿にしてんのか?そりゃ、浦島太郎だよ」

「本当に?」

「歌にもあるじゃないか。助けた亀に連れられて~~♪ って」

「そう思うだろ? でも、これ、ちゃんとした歴史書にはそんな事は書かれてないんだ」

「歴史書?」

「まあ、そっちだと『浦嶋子』って名前になってるけどね。丹波国――今の京都辺りに住んでた人らしい」

「それはなに? 元ネタってこと?」

「まあ、そう云うことだね」

「と云うか、元ネタがあるんだ?」

「僕が読んだのは『日本書紀』だったんだけど、それだと、亀は助けたんじゃなくて、釣りのついでに捕まえた事になってるんだ」

「釣りで? 亀を?」

「まあ、食べられないこともないしね」

「いや、そうだけど……助けるのとは真逆の話じゃない?」

「そう。だから『亀を助けたのは浦島太郎だ』……って言うお前の答えは?」

「あ、間違ってるのか」

「そう」

「……え? いや、でも、じゃあ、亀を助けたのは誰なんだよ?」

「え?」

「お前の質問は『亀を助けたのは誰か?』だろう? 誰も助けていないんだったら、そもそもの質問がおかしいんじゃないか?」

「え?……あ、本当だ」

「まったく。もうちょっと考えてからクイズは出してくれよ」

「ごめん……」

「でも、今の話ちょっと面白いよな。おとぎ話の別の面が見られるって言うか、」

「だろ?しかもこの後さ、釣った亀が女に化けるんだぜ?」

「それは流石にウソだろ?」

「ウソじゃないって」

「亀が女になったら、乙姫様の立場がないじゃん」

「まあ、乙姫さま出て来ないし」

「え?」

「それどころか、太郎はその亀女と結婚しちゃうの」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どこまでが本当の話?」

「全部本当の話だって。歴史書に書いてあるんだから」

「じゃあ、その亀女と結婚して終わり?」

「いや、その後は蓬莱山って所に行って、仙人たちに会って来たらしいよ」

「ああ、じゃあ、一応、旅と言うか冒険的な事はするんだ」

「冒険的な……って言うか、更なる大冒険が太郎を待ってたりする」

「更なる大冒険?」

「そう。その亀女と一緒に宇宙を旅するの」

「……なんで?」

「えーっとね。ほら、カメ族ってさ、地球でも四番目に知性の高い生物だとされているじゃない」

「ちょ、ちょっと待って……四番目?」

「イヌ、サル、キジ、カメ」

「人類は?」

「さあ?……トップ10にも入っていないんじゃないかな?」

「そうなの?!」

「らしいよ」

「それは……ちょっとショックかも」

「でも、ほら、イルカとかは歌も歌うし」

「いや、まあ、頭は良いっては聞くけどさ」

「で、まあ、そのカメ族の情報ネットワークに『地球破壊マデ後一時間デス』的な緊急破壊速報みたいなモノが流れて来た……って亀女が言うワケだよ」

「たびたびごめん」

「なに?」

「地球、破壊されるの?」

「うん。跡形も無く」

「あるよ?ここに」

「ああ、それは破壊された後に……あ、でも、これはネタバレになっちゃうし、後で説明するのでも良い?」

「ええ……」

「あれ? ネタバレ平気な人?」

「いや、そういうワケでもないんだけど……ネタバレ?」

「絶対、後で聞いた方が良いって」

「…………じゃあ、後で」

「よし。最後まで聞けば、きっと『聞いてなくて良かった』ってなるから」

「はあ、」

「で、何だっけ? そうそう。亀女が言うワケだよ。『あなたも一緒に宇宙船に乗せて貰うようお父様にお願いしておいた』って。そしたら太郎が、」

「ちょ、ちょっと、やっぱりゴメン」

「なに?」

「なんで破壊されるの? 良い所だよ? 地球」

「ああ、それはね、何だったっけな? ……大銀河? グレーテスト? オリンピック? 的な?」

「大銀河・グレーテスト・オリンピック?」

「そうそう。400年に一度の平和の祭典」

「それで地球が破壊されるの?」

「たしか、その式典? 用の? 競技場? か何か? を造るのに? 邪魔だった? とかなんとか? じゃなかったかな」

「邪魔って……」

「まあ、銀河の平和のためだし」

「地球の平和は?」

「住民がいるとは言っても、地球はレベル5にも指定されていない辺境惑星だから。そんな星の平和とか、あんまり関係ないんじゃない? 銀河的には」

「それは……なんかまたちょっとショックだなあ」

「まあね。太郎もショックだったと思うよ。四十二分しか残ってなかったし。ご両親や地元の人達とお別れする時間もなかっただろうね」

「四十二分?」

「レベル5にも指定されていない辺境惑星だからさ、意見も聞かれないし通達も来ないし、工事の直前になって連絡が入ったらしい。ほら、土木関係は旧来のお役所体質が抜け切らないから」

「……公共事業的な?」

「うん。でも安心して。カメ族の宇宙船に乗って太郎は無事だったから」

「はあ、」

「で、地球は跡形もなく破壊されちゃうからさ、取り急ぎ、太郎たちはケンタウロスの中にある宇宙ステーション『リューズ・グッド・ジョー』に身を寄せることになるんだよ。ほら、あそこは永世中立エリアだから」

「リューズ・グッド・ジョー?」

「ああ、なんか、竜宮城みたいに聞こえるな」

「ワザとじゃないんだな?」

「なにが?」

「……いや、なんでもない」

「で、そこの総司令官のアシカ型宇宙人オットー・オーガナ姫の紹介で太郎は新天地を求めて銀河を旅することになるワケさ」

「地球が無くなっちゃったからね?」

「地球が無くなっちゃったからね!」

「そこは変わらないんだな……」


(続く)
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