10歳差の王子様

めぇ

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第3章 碧斗、高校2年生。あさひ、社会人7年目。

3.

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「おっ!」

片づけの終わったあさひの家を出て、1人来た本屋でいつものあいつと会った。よぉと手を上げ近付いて来る。

太陽ともずっと一緒な気がする。

「碧斗、何してんの?」

「何って、どう見ても本買ってるだろ」

「そんなこと聞いてねぇよ」

「じゃあ何を聞いてんだよ?」

「暇なら付き合えよ」

話の脈絡なさ過ぎるだろ。

でも特に用もなく暇だったから付き合うことにした。ジュース奢ってくれるって言うし。

自販機でペットボトルの炭酸飲料水を買ってもらって公園まで歩いた。真冬の公園は当然のごとくあまり人がいない、空いていたブランコに並ぶように乗った。

軽く漕ぎながらペットボトルの蓋を開ける。すでに先に飲み始めていた太陽のブランコは止まったままだった。

「もうすぐだな、…あさひさんの結婚式」

「あぁ」

「…行くんだろ?」

「呼ばれてるからな、一応」

すぐにペットボトルの蓋を閉じた。

冷たい炭酸飲料水なんかにするんじゃなかった。こんな寒い日に、余計に虚しくなるだけだったのに。

「キレイだろうな~、あさひさん!可愛いもんな!」

「そーだな」

「結婚式ってどんなんだろうな、俺行ったことねーから全然わかんねぇわ!」

「俺もねぇーよ、あさひの結婚式が初めての結婚式だよ」



初めて参列する結婚式があさひの結婚式。

 

あと3日、あと3日で村瀬あさひは村瀬あさひじゃなくなる。

まるでもうあさひじゃなくなるみたいだ。

 

そんな日が来るのか、そんな日…



「…永遠に来なきゃいいのに」

漕ぎ始めたはずのブランコはすっかり止まっていて、もう一度漕ぎ出す気にもなれなかった。

自然と顔は下を向き、体の力が抜けたようにだらんと肩が下がる。

「なんだよ碧斗らしくねぇーな、お前はもっと気取ったやつだろ!」

半分以上飲み干されたペットボトルでコンッと俺の頭を小突いた。

「…俺のことそんな風に思ってたのか」

「真っすぐでカッコいいと思ってた!」

「嘘つけよ、現実見ろだなんだ言ってきたのは誰だよ」

「でも現実は見たんだろ?」

あまりにストレートに言い放つから、目を丸くして太陽の方を見てしまった。

「…お前、めちゃくちゃひどいこと言うな」

「事実を言ってるのみだよ」

「引いてるわ!」

嫌でもため息が出た。
はぁーあって大きく肩が揺れる。
白い息が宙を舞った。

 

別に、妄想なんか一度も抱いたことないけど。

俺にとっては全部現実だったつもりなんだけど。

 

急に太陽が微笑みながら手を振りだした。何かと思い、その手を振る先に視線をやると美羽がフェンス越しに大きく手を振っていた。

…待ち合わせのついでだったなコレ。

ぴょんっと飛び跳ねるようにしてフェンス沿いを走って公園の入り口の方へ美羽が駆けて行く。





それがどうしても俺には羨ましく思えて。


 

「…太陽はいいな」

「ん、何が?」

「…結局、ずっと昔から美羽のこと好きだったんだろ?」

「まぁな」

「お、素直になりましたねぇ」

あんなに言い合ってケンカばかりしてたのに、あれは愛情の裏返しだったとか。

それに気付けなかった俺の方がだいぶ子供だ。

それを最初からあさひはわかってたんだもんな。

だって俺は…

「碧斗だってそうだろ?」

「ん」

「あさひさんのこと、ずっと好きだったんだろ?」

もうタメ息を吐くのも疲れそうだ。遠くを見るように昔を思い出したりして。

「………、何一つ届いてないけどな」

 

あさひとは一度もケンカをしたことがない。

それは仲が良いからって思ってた。

 

あさひとは何でも話せてどんなことも楽しめて…

でも実際はあさひが俺なんかを相手にしてなかっただけ、ケンカをする相手にもなれなかった。

 


俺にはそれが出来なかった。

 


入口を見付けた美羽がこっちに向かって走って来る。相変わらずふわっとした長い髪をなびかせながら嬉しそうに。

 


もし、もし今あさひが同じ高校生だったら…

当たり前のようにそばにいられたのかな。

隣に並んでくだらない話をしながら、コンビニで新しく出たお菓子を買って二人で食べたりして。

 

あの頃みたいに手を繋いで、笑い合いながら。

 


「碧斗も素直になれよ」

ブランコから太陽が立ち上がった。

「俺は昔から素直だよ!」

 



そんなあさひがいたんだろうか。
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