10歳差の王子様

めぇ

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第3章 碧斗、高校2年生。あさひ、社会人7年目。

2.

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「これも新居に持ってくの?」

「うん、その鏡がお気に入りだから。そっちのダンボールに入れて」

新しい家に住むんだからせっかくなら鏡ぐらい新しいもの買えばいいのに、と思いながらダンボールに詰めた。すでにいっぱいなダンボール、隙間を見付けてパズルのように片付けていく。

「ねー、見て碧斗!懐かしいの出てきた!」

引き出しから一枚の紙のようなものを取り出した。

「あ、それ」

「ね、懐かしいよね!マイヒロのショー見に行った時、碧斗がくれたグラグドエル王子のカードだよ」

小学生の頃好きだったアニメのトレーディングカードだ。

駅前のショッピングモールまであさひと二人で見に行ったんだっけ、まるでデートみたいって喜んでたな。自分のことながら、その考えに恥ずかしいくらいに子供だなと鳥肌が立つ。

「これも持ってこ!」

「それ絶対いらないだろ」

「いるよー、碧斗との思い出に持ってくの!」

あさひがここを出ていく。もう隣にあさひはいなくなるんだ。

「…結婚式3日前に荷造りって遅くない?」

「大きなものは持ってってあるし、あとこれだけだから」

「だからって、3日前だよ。もっとすることあるんじゃないの?」

「3日前って美容を極めるぐらいしかすることないんだよ」

「…へぇ」

見慣れたはずのあさひの部屋、何度もここへ来た。自分の家のように過ごしてた。

ベッドの横にはクマのぬいぐるみ、壁には好きなアイドルのポスター、本棚には大好きな少女漫画が敷き詰められるように並べられ…ていたのにもう何もない。

ドアを開ければ飛び込んで来たものたちが今はもう何もない。

こんな殺風景なあさひの部屋は初めて見た。

それがすごく居心地が悪かった。

「ねぇ碧斗、あれ取ってくれない?」

「ん、どれ?」

「クローゼットの上の、あの鞄」

上を見ればクローゼットの上の棚にトートバッグがしまってあった。俺からしたらそんなに上でもなくて、ひょいっと手を伸ばしたら簡単に取れた。

「はい」

「ありがとう、さすが!私じゃ届かないんだよね、いつも椅子持ってきてるから」

「当たり前だろ、あさひより15センチも高いんだから」

あさひが見上げて俺が視線を下げる。

「すっかり私のがちっちゃくなっちゃったな」

「それも当たり前だよ」

 

あの頃欲しかった身長がもう目の前にある。いつか追い越せるからって気にしてなかった。

 

だけどせっかく追い越した今、あさひが泣いているのを見たことがない。

泣くようなことがないから。

どうせなら泣いてほしい。

 

そしたら掻っ攫って、ここを飛び出していくのに。

 

 
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