7 / 37
第1章 碧斗、小学1年生。あさひ、高校2年生。
6.
しおりを挟む
「おはよう、あさひ!」
「おはよう」
今日も変わらず一緒に学校へ行く。何も言わず、あたりまえのようにあさひの手をにぎった。
「今日から体育はプールなんだ!」
「碧斗嬉しそうだね」
「体育はプールに限る!あさひは?あさひの学校はプールないの?」
「うちもあるよ」
おれとあさひの身長差は四十五センチある。
そんなのすぐなくなるから全然気になんかしてないけど、もし今…もう少しおれの身長があったら。
「あさひ…?」
きっと変な感じがしたあさひの目をどうにかしてあげられたのかもしれない。
やっぱりこんな時、大人になれたら…
「え、なぁに?」
ハッキリわからなかったんだ。それ以上近づけなかったから。
だってあさひはいつも通り笑っていた。
「ううん!プール楽しみだな~」
子供みたいに笑ってみせるしかできなかった。何もわかってないフリをして。
学校に着くとどこからともなくあの声が聞こえてくる。どっから叫んでるのかわからないほど遠くから、こっちが見付ける方が一苦労だ。
「あああああぁぁぁーおーとぉぉぉーーーー!!!」
太陽が後ろからタックルしようとしたのをかろやかに避けた。
「よけんなよっ!!」
「そんな毎日引っかかるかっ!」
ふいっと顔をそらし太陽を無視して教室に向かおうとすると、ガシッと肩を組んできた。体重がかかってきて重たい。
「今日もねぇーちゃんと手つないじゃって、碧斗は甘えん坊なんだな!」
ヒューヒューと耳元で息を吹きかけながら、わざとおちょくるような言い方をしてきた。これにはイラッよりもはぁっとタメ息の方が出ちゃって、しかも大きめのタメ息が。
つーか何度言えばわかるんだそれ、こっちも聞き飽きてんだよ。何度言われたってその言葉におれがゆらぐはずがない。
「あたりまえだろ。つーか、ねぇーちゃんじゃねーから」
「じゃぁ誰なんだよ?」
組まれた肩に置かれた腕を振り払う、太陽の前に立ってその問いに真っ直ぐ見つめて答えた。
ゆらぐことのないおれの気持ち。
「“好きな子”」
あさひはおれの好きな子だ。
「はぁーーーーーっ、好きな子だって!」
「別にいいだろ」
「うわー、恥ずかしい~!」
ケラケラと笑ってる太陽に、何とも思わなかったわけじゃないけどおれは間違ったこと言ってないしわざわざ返すのもやめた。
太陽なんかほおっておいて、教室へ行こう…と思ってひとつ思い出した。
“それきっと太陽くんも美羽ちゃんも好きなんだよ”
「なぁ、太陽」
だから一応、聞いてみようかなって。
「は、なんだよ」
「太陽は美羽のこと好きなの?」
「はぁ!?」
耳がキーンってなるぐらい大きな声を出したからビクッてなって顔がゆがんだ。
びっくりするな、耳痛…ッ
「そんなわけないだろ!好きじゃねぇよ、全然好きじゃない!美羽のことなんか…!」
めちゃくちゃ顔を赤くして、すごい顔でムキになって返して来た。ふんふんと息まで荒くなっちゃって…さっきまでヘラヘラしてたのに、急に眉毛つり上げちゃってさ。
…ふーん、違うのか。
なんだ違うじゃんあさひ、やっぱあさひもわかってねぇな。全然好きじゃないんだってさ。
「おはよ~、碧斗!太陽!」
「美羽…!」
まっ赤な顔した太陽がまたでっかい声を出した。
美羽が来ただけだろ、声を出すたび、びっくりするじゃんか。
「おはよう、美羽」
「おはよう」
「あれ、今日…」
いつもはふわっとした長い髪を二つにむすんでいるのに、今日はていねいにみつあみが編み込まれていた。いつもと少し違うだけなのに、なんだか全然違って見えた。
「かわいいじゃん」
素直にそう思ったから言ってみた。いつも見ない姿は新しい感じがしていいなって思ったから。
美羽だってそう言われてうれしそうだった…のに。
「碧斗、ほんと?ありが…っ」
「そうか!?普通だろ!なんなら普通以下だろ!!」
ほほ笑む美羽の声をかき消すように、何倍も大きな声の太陽が言い放った。
その瞬間、しーんっとして何の音も聞こえなくなり廊下が冷たくなった気がした。おれも美羽もつい黙っちゃって、太陽でさえ驚くような顔をしていた。
「…!」
「美羽っ!!」
次の瞬間、美羽が走り出した。
美羽との身長差はあまりない、だからちゃんと見えていた。
美羽の瞳からこぼれ落ちる涙を。
「………。」
「……。」
おれも太陽もその場から動けなかった。
冷たかった空気が今度は重い空気になった。
どうにも気まずそうな太陽がおろおろとうろたえていた。だったらせめて追いかけてやるべきだったのに。
「お前サイテーだな」
あさひのあの言葉が思い出される。
“素直になれないだけじゃない?”
「おれは太陽が美羽のことどう思ってんのか知らねーけど、“好きな子”泣かすなんてサイテーだと思う」
「おはよう」
今日も変わらず一緒に学校へ行く。何も言わず、あたりまえのようにあさひの手をにぎった。
「今日から体育はプールなんだ!」
「碧斗嬉しそうだね」
「体育はプールに限る!あさひは?あさひの学校はプールないの?」
「うちもあるよ」
おれとあさひの身長差は四十五センチある。
そんなのすぐなくなるから全然気になんかしてないけど、もし今…もう少しおれの身長があったら。
「あさひ…?」
きっと変な感じがしたあさひの目をどうにかしてあげられたのかもしれない。
やっぱりこんな時、大人になれたら…
「え、なぁに?」
ハッキリわからなかったんだ。それ以上近づけなかったから。
だってあさひはいつも通り笑っていた。
「ううん!プール楽しみだな~」
子供みたいに笑ってみせるしかできなかった。何もわかってないフリをして。
学校に着くとどこからともなくあの声が聞こえてくる。どっから叫んでるのかわからないほど遠くから、こっちが見付ける方が一苦労だ。
「あああああぁぁぁーおーとぉぉぉーーーー!!!」
太陽が後ろからタックルしようとしたのをかろやかに避けた。
「よけんなよっ!!」
「そんな毎日引っかかるかっ!」
ふいっと顔をそらし太陽を無視して教室に向かおうとすると、ガシッと肩を組んできた。体重がかかってきて重たい。
「今日もねぇーちゃんと手つないじゃって、碧斗は甘えん坊なんだな!」
ヒューヒューと耳元で息を吹きかけながら、わざとおちょくるような言い方をしてきた。これにはイラッよりもはぁっとタメ息の方が出ちゃって、しかも大きめのタメ息が。
つーか何度言えばわかるんだそれ、こっちも聞き飽きてんだよ。何度言われたってその言葉におれがゆらぐはずがない。
「あたりまえだろ。つーか、ねぇーちゃんじゃねーから」
「じゃぁ誰なんだよ?」
組まれた肩に置かれた腕を振り払う、太陽の前に立ってその問いに真っ直ぐ見つめて答えた。
ゆらぐことのないおれの気持ち。
「“好きな子”」
あさひはおれの好きな子だ。
「はぁーーーーーっ、好きな子だって!」
「別にいいだろ」
「うわー、恥ずかしい~!」
ケラケラと笑ってる太陽に、何とも思わなかったわけじゃないけどおれは間違ったこと言ってないしわざわざ返すのもやめた。
太陽なんかほおっておいて、教室へ行こう…と思ってひとつ思い出した。
“それきっと太陽くんも美羽ちゃんも好きなんだよ”
「なぁ、太陽」
だから一応、聞いてみようかなって。
「は、なんだよ」
「太陽は美羽のこと好きなの?」
「はぁ!?」
耳がキーンってなるぐらい大きな声を出したからビクッてなって顔がゆがんだ。
びっくりするな、耳痛…ッ
「そんなわけないだろ!好きじゃねぇよ、全然好きじゃない!美羽のことなんか…!」
めちゃくちゃ顔を赤くして、すごい顔でムキになって返して来た。ふんふんと息まで荒くなっちゃって…さっきまでヘラヘラしてたのに、急に眉毛つり上げちゃってさ。
…ふーん、違うのか。
なんだ違うじゃんあさひ、やっぱあさひもわかってねぇな。全然好きじゃないんだってさ。
「おはよ~、碧斗!太陽!」
「美羽…!」
まっ赤な顔した太陽がまたでっかい声を出した。
美羽が来ただけだろ、声を出すたび、びっくりするじゃんか。
「おはよう、美羽」
「おはよう」
「あれ、今日…」
いつもはふわっとした長い髪を二つにむすんでいるのに、今日はていねいにみつあみが編み込まれていた。いつもと少し違うだけなのに、なんだか全然違って見えた。
「かわいいじゃん」
素直にそう思ったから言ってみた。いつも見ない姿は新しい感じがしていいなって思ったから。
美羽だってそう言われてうれしそうだった…のに。
「碧斗、ほんと?ありが…っ」
「そうか!?普通だろ!なんなら普通以下だろ!!」
ほほ笑む美羽の声をかき消すように、何倍も大きな声の太陽が言い放った。
その瞬間、しーんっとして何の音も聞こえなくなり廊下が冷たくなった気がした。おれも美羽もつい黙っちゃって、太陽でさえ驚くような顔をしていた。
「…!」
「美羽っ!!」
次の瞬間、美羽が走り出した。
美羽との身長差はあまりない、だからちゃんと見えていた。
美羽の瞳からこぼれ落ちる涙を。
「………。」
「……。」
おれも太陽もその場から動けなかった。
冷たかった空気が今度は重い空気になった。
どうにも気まずそうな太陽がおろおろとうろたえていた。だったらせめて追いかけてやるべきだったのに。
「お前サイテーだな」
あさひのあの言葉が思い出される。
“素直になれないだけじゃない?”
「おれは太陽が美羽のことどう思ってんのか知らねーけど、“好きな子”泣かすなんてサイテーだと思う」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
ライト文芸
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。

釣りガールレッドブルマ(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!
宝石アモル
緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。
可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。
ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!?
宝石に呪い!?
闇の組織!?
呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?
時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~
龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる