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Sweet3.天井くんは少し苦くてとびきり甘い
6.)
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「なんでまた水やりやってんの?」
「えー…あはははは」
「誤魔化さないで」
レバーを押すと散水ノズルからパァーっとミストが広がる。花たちが水を得てイキイキし出す瞬間は、好きな瞬間だったりする。
「キタちゃんがやらなすぎてやり方わからないって言うから」
そんなこんなでまた引き受けちゃった、中庭の水やり。水をやる隣で天井くんが呆れた顔で見て来る。
「でもこれは今日だけだよ!練習試合で隣の学校行くらしいから、引き受けたの!」
「へぇ」
「明日はやらないって言ったし昨日もやらなかったからね!?」
じーっと見て来る天井くんはあんまり私のことを信用してなさそう。
でも言えたし、ちゃんと言えたし。
「…もう引き受けないよ、本当に頼まれた時しか」
もう言えるから、だから引き受けない。
「でも本当に困ってる時は…きっと断れないから」
それは、話しかけられたらうれしいとかじゃなくて力になりたいって…
それが友達かなって思うから。
「それでいいんじゃない?それが荻野さんのいいところだから」
天井くんがそう言ってくれるから、こんな私でいいよって言ってくれるから。
「…うん」
自然と顔がほころんじゃって、レバーを押す手に力が入っちゃう。ふぁーっとミストが花壇に降り注いで、太陽の光でキラキラ輝き出して。
「あ、天井くん見て!虹!」
「本当だ」
今日はいつになくはっきりと色を見せて、より一層キレイな形をしていた。
これは正真正銘の得した気分だ、だって天井くんと見られたんだもん。
「あ、そういえば」
虹を見ていた天井くんが花壇の前にしゃがみ込んだ。ふと何か思い出したみたいで目の前の花を指差した。
「この花、ニジアって言うらしいよ」
“それは何て花なの?”
「調べたの?」
「うん、気になったから。ジニアって言うキク科の花なんだって」
パキッとした明るい色の細かい花びらがたくさんついた花、そんな名前だったんだ。ずっと見て来たけど名前を調べようと思ったことはなかったなぁ、そーなんだジニアって名前だんだ…
ジニアって名前…
レバーを押すのをやめてホースを置いた。
天井くんがしゃがみ込む隣に、同じようにしゃがみ込んで並んだ。
「ねぇなんで荻野さんって呼ぶの?」
「え!?だって…荻野さんでしょ?」
「そうだけど、小桃って呼んでたのになんでまた荻野さんに戻ったのかなーって」
急に小桃って呼ばれた時はびっくりしたけど、呼ばれなくなったらなったでなんでいうか…ちょっとさみしさ感じちゃったりして。
ただ私の反応見て楽しんでただけなのかもだけど、てゆーか私の反応見て楽しむって何?
「あれは……、桜太が小桃ちゃんって呼んでたから…っ」
天井くんが少し頬を染めて俯くように顔をそむけた。
「いいなって…思って」
ふわってキャラメルポップコーンの匂いが風に乗ってやって来る。
「…っ」
やばい、コレだ。たぶんコレだ。
照れて恥ずかしそうにする天井くんの反応…楽しんじゃうかもしれない。
「…でも今はもう呼べないよ」
「え、なんで!?」
「だって緊張する…っ」
ポンッとまるで音が聞こえたみたいにポップコーンが弾ける。
「呼んでよ!」
「嫌だよ、もうわかってるでしょ溢れ出してるの!」
「わかってるけどっ、だって天井くんに呼んでほしいもん…!」
たぶん私の心も弾けた。
恥ずかしくて顔が熱くなった。
「あ、その…!ちゃん付けはされるけど呼び捨てってないし!あ、いやそんな変なあれじゃ、だからえっと…っ」
反応楽しむとかそんなこともう考えられなくて、天井くんといたらすぐこうなっちゃうんだ。
でもそれは天井くんだから、天井くんだからだよ?
ドキドキ心臓がうるさいの。
止まらないの。
でも止めたくないの。
「小桃」
ポンッ
弾ける甘くておいしそうな香りにドキンッて脈を打って大きく揺れる。
名前を呼ばれたから、隣を見たら天井くんと目が合って。
呼吸をするたび甘くておいしくて、食べてしまいたくなる。
だからその甘くておいしそうな香りを、溢れさせてよ。
「小桃も呼んでよ、名前」
「…し、柊羽くん?」
「なんで疑問形なの」
「だって…っ、緊張して」
もう天井くんしか見えなくて、天井くんの瞳にも私しか映らなくて。
ドキドキは鳴りやまなくて。
キャラメルポップコーンの入ったバケツに閉じ込められたみたいに甘い。
キャラメルがどんどん溶け出していくみたいだ。
目を閉じたらどうなっちゃうのかな?
このまま視界を遮ったら、感じるものはキャラメルポップコーンの匂いだけになるのかな?
「…小桃」
心地よくて脳がどうにかなっちゃいそう、流れ込んで来たキャラメルの中に溺れそうだよ。
やっぱり好きなの、キャラメルポップコーンって。
でもこの香りをかいだら思い出すのは天井くんのことだよ。
1番に天井くんを思い出すの。
キャラメルポップコーンも好きだけど、天井くんのことが好きだから。
だって私に見せてくれる天井くんは…
「小桃が好きだよ」
とびきり甘いのです。
「えー…あはははは」
「誤魔化さないで」
レバーを押すと散水ノズルからパァーっとミストが広がる。花たちが水を得てイキイキし出す瞬間は、好きな瞬間だったりする。
「キタちゃんがやらなすぎてやり方わからないって言うから」
そんなこんなでまた引き受けちゃった、中庭の水やり。水をやる隣で天井くんが呆れた顔で見て来る。
「でもこれは今日だけだよ!練習試合で隣の学校行くらしいから、引き受けたの!」
「へぇ」
「明日はやらないって言ったし昨日もやらなかったからね!?」
じーっと見て来る天井くんはあんまり私のことを信用してなさそう。
でも言えたし、ちゃんと言えたし。
「…もう引き受けないよ、本当に頼まれた時しか」
もう言えるから、だから引き受けない。
「でも本当に困ってる時は…きっと断れないから」
それは、話しかけられたらうれしいとかじゃなくて力になりたいって…
それが友達かなって思うから。
「それでいいんじゃない?それが荻野さんのいいところだから」
天井くんがそう言ってくれるから、こんな私でいいよって言ってくれるから。
「…うん」
自然と顔がほころんじゃって、レバーを押す手に力が入っちゃう。ふぁーっとミストが花壇に降り注いで、太陽の光でキラキラ輝き出して。
「あ、天井くん見て!虹!」
「本当だ」
今日はいつになくはっきりと色を見せて、より一層キレイな形をしていた。
これは正真正銘の得した気分だ、だって天井くんと見られたんだもん。
「あ、そういえば」
虹を見ていた天井くんが花壇の前にしゃがみ込んだ。ふと何か思い出したみたいで目の前の花を指差した。
「この花、ニジアって言うらしいよ」
“それは何て花なの?”
「調べたの?」
「うん、気になったから。ジニアって言うキク科の花なんだって」
パキッとした明るい色の細かい花びらがたくさんついた花、そんな名前だったんだ。ずっと見て来たけど名前を調べようと思ったことはなかったなぁ、そーなんだジニアって名前だんだ…
ジニアって名前…
レバーを押すのをやめてホースを置いた。
天井くんがしゃがみ込む隣に、同じようにしゃがみ込んで並んだ。
「ねぇなんで荻野さんって呼ぶの?」
「え!?だって…荻野さんでしょ?」
「そうだけど、小桃って呼んでたのになんでまた荻野さんに戻ったのかなーって」
急に小桃って呼ばれた時はびっくりしたけど、呼ばれなくなったらなったでなんでいうか…ちょっとさみしさ感じちゃったりして。
ただ私の反応見て楽しんでただけなのかもだけど、てゆーか私の反応見て楽しむって何?
「あれは……、桜太が小桃ちゃんって呼んでたから…っ」
天井くんが少し頬を染めて俯くように顔をそむけた。
「いいなって…思って」
ふわってキャラメルポップコーンの匂いが風に乗ってやって来る。
「…っ」
やばい、コレだ。たぶんコレだ。
照れて恥ずかしそうにする天井くんの反応…楽しんじゃうかもしれない。
「…でも今はもう呼べないよ」
「え、なんで!?」
「だって緊張する…っ」
ポンッとまるで音が聞こえたみたいにポップコーンが弾ける。
「呼んでよ!」
「嫌だよ、もうわかってるでしょ溢れ出してるの!」
「わかってるけどっ、だって天井くんに呼んでほしいもん…!」
たぶん私の心も弾けた。
恥ずかしくて顔が熱くなった。
「あ、その…!ちゃん付けはされるけど呼び捨てってないし!あ、いやそんな変なあれじゃ、だからえっと…っ」
反応楽しむとかそんなこともう考えられなくて、天井くんといたらすぐこうなっちゃうんだ。
でもそれは天井くんだから、天井くんだからだよ?
ドキドキ心臓がうるさいの。
止まらないの。
でも止めたくないの。
「小桃」
ポンッ
弾ける甘くておいしそうな香りにドキンッて脈を打って大きく揺れる。
名前を呼ばれたから、隣を見たら天井くんと目が合って。
呼吸をするたび甘くておいしくて、食べてしまいたくなる。
だからその甘くておいしそうな香りを、溢れさせてよ。
「小桃も呼んでよ、名前」
「…し、柊羽くん?」
「なんで疑問形なの」
「だって…っ、緊張して」
もう天井くんしか見えなくて、天井くんの瞳にも私しか映らなくて。
ドキドキは鳴りやまなくて。
キャラメルポップコーンの入ったバケツに閉じ込められたみたいに甘い。
キャラメルがどんどん溶け出していくみたいだ。
目を閉じたらどうなっちゃうのかな?
このまま視界を遮ったら、感じるものはキャラメルポップコーンの匂いだけになるのかな?
「…小桃」
心地よくて脳がどうにかなっちゃいそう、流れ込んで来たキャラメルの中に溺れそうだよ。
やっぱり好きなの、キャラメルポップコーンって。
でもこの香りをかいだら思い出すのは天井くんのことだよ。
1番に天井くんを思い出すの。
キャラメルポップコーンも好きだけど、天井くんのことが好きだから。
だって私に見せてくれる天井くんは…
「小桃が好きだよ」
とびきり甘いのです。
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