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第一章 満州事変〜町田忠治内閣総辞職
第十五話 マル二計画
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次は、海軍について見ていきたい。陸軍と違い、海軍には満州事変や東方イスラエル国建国の影響はないように思われており、実際直接的な影響はなかった。しかし、日本経済の発展に伴って海軍予算は相対的に上昇しており、1931年の第一次補充計画に続くロンドン条約に対応した建艦計画の実行が容易な状況となっていた。
また、第二次ロンドン海軍軍縮会議において日本政府は、軍縮条約の縛りを緩めるよう訴えると決定しており、海軍休日以来海軍軍人たちが待ち望んできた本格的な海軍戦力の増強が進められる運びとなった。
そして1934年、帝国議会で予算案が認められたことで実行に移されたのが、第二次海軍軍備補充計画。通称、マル二計画である。
マル二計画は、1934年度から1937年度までの四か年計画であり、目的は艦艇五十八隻の建造と航空隊十二隊を整備することである。今回は、史実のマル二計画と異なる部分について見ていきたい。
まず、近年重要性を増してきている空母についてだが、マル一計画とは違い二隻が建造される。後に、蒼龍型航空母艦と称されるこの二隻は、軍縮条約の制限が緩和されることが前提となっており、基準排水量一万七千三百トンの中型空母として建造される。
次に巡洋艦については、マル一計画と同じく四隻が建造される。そのうちの二隻は、後に利根型重巡洋艦と称される艦船で、蒼龍型と同じく軍縮条約の制限緩和を前提に設計されている。
艦型は、最上型重巡洋艦の改良型となっており、竣工時の兵装は二十・三センチ連装砲四基八門と最上型よりも少ない砲門数だが、これは軍縮条約違反となることを防ぐための措置であり、戦時体制へ移行した際には二十・三センチ三連装砲四基十二門へと改装することを前提に拡張性のある設計となっている。
利根型までの巡洋艦とは少し違った発想で建造されるのが、後に伊吹型航空巡洋艦と称される二隻の艦船である。伊吹型は、当然の如く軍縮条約の制限緩和を前提とした特殊な巡洋艦であり、艦隊決戦に適した戦艦を中核とする第一艦隊と夜戦に適した水雷戦隊を中核とする第二艦隊の護衛のために設計された。
これは、海軍内において勢力を増しつつある航空主兵論者の訴えをきっかけに建造された。当然、戦艦は価値が低く全廃すべきという過激な訴えは退けられたが、戦艦を始めとする敵艦隊への航空攻撃の為に母艦航空隊を統一指揮する艦隊が必要だという比較的穏健な訴えは取り入れられた。
現実的にも、軍縮条約の制限の中で戦艦の追加建造はもう不可能であり、新たの主力艦となりうる空母艦隊の育成をすることが妥当に思われた。
伊吹型は、艦橋から前方の部分には従来の巡洋艦と変わらず主砲や高角砲が設置され、後方には飛行甲板と航空機格納庫が設置されている文字通りの航空巡洋艦となっている。伊吹型には、英国との技術交流で手に入れ実用化に成功した油圧式カタパルトが一基設置されており、短い飛行甲板でも搭載機の迅速な発艦を可能としている。
また、条約制限外観艇については、太平洋やインド洋、大西洋への艦隊派遣への備えや軍縮条約回避を目的とした多数の艦船が建造されることとなった。
例を挙げると、洋上補給を目的とした剣埼型《つるぎさきがた》給油艦や将来的な空母改装を前提とする千歳型《ちとせがた》水上機母艦、戦時での整備能力向上を目的とした明石型《あかしがた》工作艦、通商破壊戦を支援する豊鯨型《ほうげいがた》潜水母艦などである。
航空隊については、次期海軍補充計画で本格的に整備を進めることが決まっていたため、航空兵育成を目的として新設された練習航空隊や母艦練習航空隊を中心に整備が行われた。
第二次ロンドン海軍軍縮条約での制限緩和を前提として実行されたマル二計画は、アメリカの軍縮条約破棄という予期せぬ事態によって簡単に完遂され、軍縮と予算の制限から解放された海軍軍人たちは、第三次補充計画《マル三計画》という大建艦計画を実行に移すのであった。
また、第二次ロンドン海軍軍縮会議において日本政府は、軍縮条約の縛りを緩めるよう訴えると決定しており、海軍休日以来海軍軍人たちが待ち望んできた本格的な海軍戦力の増強が進められる運びとなった。
そして1934年、帝国議会で予算案が認められたことで実行に移されたのが、第二次海軍軍備補充計画。通称、マル二計画である。
マル二計画は、1934年度から1937年度までの四か年計画であり、目的は艦艇五十八隻の建造と航空隊十二隊を整備することである。今回は、史実のマル二計画と異なる部分について見ていきたい。
まず、近年重要性を増してきている空母についてだが、マル一計画とは違い二隻が建造される。後に、蒼龍型航空母艦と称されるこの二隻は、軍縮条約の制限が緩和されることが前提となっており、基準排水量一万七千三百トンの中型空母として建造される。
次に巡洋艦については、マル一計画と同じく四隻が建造される。そのうちの二隻は、後に利根型重巡洋艦と称される艦船で、蒼龍型と同じく軍縮条約の制限緩和を前提に設計されている。
艦型は、最上型重巡洋艦の改良型となっており、竣工時の兵装は二十・三センチ連装砲四基八門と最上型よりも少ない砲門数だが、これは軍縮条約違反となることを防ぐための措置であり、戦時体制へ移行した際には二十・三センチ三連装砲四基十二門へと改装することを前提に拡張性のある設計となっている。
利根型までの巡洋艦とは少し違った発想で建造されるのが、後に伊吹型航空巡洋艦と称される二隻の艦船である。伊吹型は、当然の如く軍縮条約の制限緩和を前提とした特殊な巡洋艦であり、艦隊決戦に適した戦艦を中核とする第一艦隊と夜戦に適した水雷戦隊を中核とする第二艦隊の護衛のために設計された。
これは、海軍内において勢力を増しつつある航空主兵論者の訴えをきっかけに建造された。当然、戦艦は価値が低く全廃すべきという過激な訴えは退けられたが、戦艦を始めとする敵艦隊への航空攻撃の為に母艦航空隊を統一指揮する艦隊が必要だという比較的穏健な訴えは取り入れられた。
現実的にも、軍縮条約の制限の中で戦艦の追加建造はもう不可能であり、新たの主力艦となりうる空母艦隊の育成をすることが妥当に思われた。
伊吹型は、艦橋から前方の部分には従来の巡洋艦と変わらず主砲や高角砲が設置され、後方には飛行甲板と航空機格納庫が設置されている文字通りの航空巡洋艦となっている。伊吹型には、英国との技術交流で手に入れ実用化に成功した油圧式カタパルトが一基設置されており、短い飛行甲板でも搭載機の迅速な発艦を可能としている。
また、条約制限外観艇については、太平洋やインド洋、大西洋への艦隊派遣への備えや軍縮条約回避を目的とした多数の艦船が建造されることとなった。
例を挙げると、洋上補給を目的とした剣埼型《つるぎさきがた》給油艦や将来的な空母改装を前提とする千歳型《ちとせがた》水上機母艦、戦時での整備能力向上を目的とした明石型《あかしがた》工作艦、通商破壊戦を支援する豊鯨型《ほうげいがた》潜水母艦などである。
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第二次ロンドン海軍軍縮条約での制限緩和を前提として実行されたマル二計画は、アメリカの軍縮条約破棄という予期せぬ事態によって簡単に完遂され、軍縮と予算の制限から解放された海軍軍人たちは、第三次補充計画《マル三計画》という大建艦計画を実行に移すのであった。
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