終生飼育は原則ですから 被保護編

337年5月3

　エランはレイサス王子に重用されている。
　そのお蔭もあって俺の就職はすぐに決まった。勿論俺が毎日剣を振り、見たくない教科書を見たお蔭が一番大きいが。

　ロユデに行く前に、ロユデからエランが来るとは思わなかった。
　馬術を教えろと女を連れてきた。レイサス王子の恩人らしい。黒い髪に黒い目は初めて見た。
　貴族ではないのか。田舎が懐かしいようだ。

　自分から手伝いを言い出すとは思わなかった。
　牛糞にためらわないし、牛が糞をしようとする時に逃げなくてはいけないことを知っている。
　乳絞りをさせると本当にできた。何も知らない人間にさせると単に手を握るだけで乳は出ない。上から、人差し指から中指薬指と締めていかないと乳は出ないことを知っている。本当に世話をしたことがあるんだ。

　少しでも知っている牛の世話からと言うので今日は牛舎に連れてきたが、明日は厩舎だ。
　家への帰り道に話した。

「牛の世話をしてたんだ？」
「うん。たまに。だけど一頭の乳を搾りきったこともないくらいなんだよね。牛舎のにおいはとても懐かしいんだけど」
「牛はいたのに馬に乗れないの？」
「乗れない。恥ずかしながら。イーディはもうすぐ家から出るから忙しいと思うけど、すみませんがよろしくご指導ください」
「まかせろ」

　たぶんオーサーはすぐに乗れる。
　だけど牛がいて馬がいないってどういうことだ？　外国だとそういう事もあるのか？