終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年6月2

　あの女は今日は休みだ。王太子が伝えてきた。
　二人で休むのかと思ったら、王太子は普通に仕事をしている。体調不良か？
　コウジュにも聞かれたけどオレは知らない。
　ファリオン王子も知らなかった。
　王太子に聞いたら、休ませたいから休みだそうだ。昨日の晩激しかったのか？

　オーサーはいつも王太子の影を感じさせない。男に興味がなさそうだ。
　けれど時々、襟の奥に痣があるときがある。
　普段の静かだったり冷たかったり考え込んでいたりする乱れない横顔と、たまに不機嫌だったり笑ったりする顔しか知らないけど、王太子には違うんだろうな。

　首の痣を指摘すると、かわいそうなほどうろたえて着替えに走ったので、もう言わないことにした。
　あんなに動揺することもあるんだな。
　ジェスキヒテで全てを圧倒した人間と同じだとは思えない反応だった。
　オーサーなら鼻で笑って流すと思ったけど、男に慣れていない娘みたいな反応だ。

　実際慣れていないのかもしれないな。王太子の様子を見ていると、あの女に他に男がいたと思えない。いたらその男はどうなっていただろうな。

　王太子は独占欲と嫉妬心が強い。オーサーが信頼する警護のことも疑っている。確かに少し親しすぎる気はするけど、オーサーは信頼したら誰が相手でもあれくらいにはなる。
　オレでもわかることを、王太子は認めたくないらしい。
　そういう束縛があの女をうんざりさせるんだろうな。

　王太子だけを見ればコウジュには可能性がない。だけどオーサーを見れば可能性はある。オーサーは本当にコウジュに協力的だ。
　王妃も、侯爵令嬢も、平民や王宮職員の女はみんなコウジュを遠ざけようとしているのに、オーサーだけが引き寄せようとしている。
　その諦めの悪さには脱帽する。諦めて自分が収まればいいのに。そうすればみんなが喜ぶ。

　コウジュを王太子妃にするなら、オーサーはこの国にいてはいけない。
　ソファリスに連れて行くか。ものすごく役に立つのはわかっているし、なかなかきれいだし、おもしろい女だ。
　オーサーもソファリスには興味を持っている。水田を見たいらしい。あと海草。なんでだ？　相変わらず考えが読めない。

　この国に来てからもうすぐ二ヵ月になる。あっという間だな。とにかく忙しい。こんなに忙しかったことはない。ろくに女と遊べていない。
　国政に関わるとこんなに忙しいのか。先が暗いな。オレには無理だ。
　だけどやらないといけないんだろうな。皇子だから。