終生飼育は原則ですから

被保護編 338年

338年5月2-3

　翌朝元気だったので、出勤前に穀物を浸水させておく。
　帰ってから麹菌を確認し、大きな変化無し。
　穀物を蒸す。とりあえず二十分。あとは食べてみながら、芯が消えてかつぱらっとした状態になった時に、借りた大鍋にあけ、人肌よりちょっと熱めに冷めたときにあのかびた米を混ぜる。
　煮沸消毒した布巾を上に掛けて、鍋の蓋を少しずらして上に置き、後は様子見。

　本当は醤油を作りたいんだけど。味噌より醤油を作りたいんだけど、私は作ったことがない。
　醤油は豆と麦で作るらしい。
　醤油は納豆になりやすいらしい。
　醤油は醤油麹で作るらしい。
　麹菌であることさえ怪しいのに、醤油麹なんて無理。
　だけど豆味噌の途中で出てくる液は醤油に似てるって言うし、麹菌があればできそうな気もする。この国には納豆もないから、納豆菌はそれほど脅威じゃないと思う。

　いや。大豆があるんだから稲藁があれば納豆もできるよね。納豆。食べたい。
　作ったら今回に続いて皆さん引くだろうな。いやしかし稲藁はどうにかして手に入れよう。
　その前に醤油も試してみたほうがいいかな。塩ってどれくらいの配合なんだ？　大豆と麦の比率は？　一度作っておくべきだった。

　ものすごく記憶を辿って考えたんだけど、醤油は大豆を潰さずに、炒った麦と混ぜて、種麹をつけるんじゃなかっただろうか？
　大豆に麹菌が繁殖する前に納豆菌が着いちゃう失敗例が多いんじゃなかったっけ？　あの本に載っていたのはわかるんだけど。思い出せ、私。
　麹じゃなくて麹菌を大豆と麦に混ぜるんだっけ。
　まあいいや。麹には麹菌がついているから麹を使ってやってみよう。

　朝と晩、軽く絞った布巾を取り替えることで湿度を保ち、四日後に麹が完成。菌糸が回って粒が軽くなった状態。この香り。素晴らしい。
　料理長始め厨房の皆さんとレイサス他みんなが毎日観察していましたが、わかる？　あのかびた米の菌がこの状態、この香り、この穀物の甘みを引き出したんです。