130 / 365
被保護編 338年
338年1月11
しおりを挟む
母上が現れるとは思わなかった。
相変わらず俺しか目に入らないんだな。鬱陶しいがチャンスだ。
「父上、なぜこんなところにファリオンを連れてきたの? ファリオン、帰りますよ」
皆驚いているし母上が近付くことで男達が少し怯んだ。
その隙に肩で突き飛ばした。オーサーの側へ。
早く。縄を。手を切ってもいい。むしろ切った方がいい。深くていい。
ようやく自由になった両手でオーサーを抱き締めた。痛いだろう。すまない。
細かった。こんな体で耐えていたのか。大きく見えるが実際はとても細い。
「近寄るな。お前達が魔法を恐れているなら、これで何もできない」
オーサーの手は冷たかった。容態は大丈夫だろうか。
「何をしているの、離れなさい」
母上は、いや王妃は何も知らないらしい。エンディオの独断か。
王妃は俺をつかむが、止めてくれ。もう俺は小さな子供ではない。見るものや行く場所を制限できない。あなたの思い通りにはならない。
そしてオーサーが言った。
「王妃、あなたは想像力がない。想像力の有無は人間と獣を分ける。つまりあなたは獣だ」
「何を言っているのこの者は。わたくしは人間に決まっているわ。ファリオン、離れなさい」
「相手の立場を想像できていない。子を奪われた悲しさ、悔しさ、辛さを私は想像できる。だがあなたは親を奪われた子の苦しさを想像できない」
オーサーは兄上がかわいそうだといっていた。こんなときでもそう思うのか。かわいそうなのはオーサーだ。
「勝手なことを言わないで! あの子は王太后の子になった。私には関係ない」
あなたが、あなた達が献上した。保身の為に兄上を捨てた。
「ただ完璧であることを求められた。失敗は許されなかった。頼れる人はいなかった。あなたと同じだったのに、あなたは想像しなかった」
同じか。確かにそうだ。親子で同じだったはずなんだ。
「わかり合えたはずなのに、あなたは自分の苦しさだけが大事だった。苦しさを忘れるためにファリオンを利用した。だから誰からも好かれないんだ。自分の子からも好かれない」
泣きそうだ。オーサー俺の事も考えていたのか。オーサー、もっと自分の事を考えればいい。人の事ばかりだ。
王妃が手を上げたので、その手を叩き落した。
「民も哀れだ。獣を王妃として敬わなければいけない」
この状態のオーサーに手を上げるなんて、確かに人間ではない。事実を突かれたからと怒るのは王妃ではない。
「人間であったはずなのに、いつの間にか獣に変わってしまった哀れな王妃」
王妃は震えている。怒りか。オーサーは守る。
だが長くはもちそうにない。エンディオの決断はいつだろうか。あの男の動きは警戒しなくてはいけない。王妃の反応はどうか。何よりオーサーの容態は。
焦りが刻々強くなる。俺は何も出来ない。昔からそうだったし今もそうだ。
ずっと利用されてきてそれが嫌だったが、利用価値がなければまともな人間とは付き合えない。ろくな価値のない俺を利用したがるのはろくでもない人間だ。
もっと強ければ。もっと賢ければ。もっと、兄上のようであれば。
相変わらず俺しか目に入らないんだな。鬱陶しいがチャンスだ。
「父上、なぜこんなところにファリオンを連れてきたの? ファリオン、帰りますよ」
皆驚いているし母上が近付くことで男達が少し怯んだ。
その隙に肩で突き飛ばした。オーサーの側へ。
早く。縄を。手を切ってもいい。むしろ切った方がいい。深くていい。
ようやく自由になった両手でオーサーを抱き締めた。痛いだろう。すまない。
細かった。こんな体で耐えていたのか。大きく見えるが実際はとても細い。
「近寄るな。お前達が魔法を恐れているなら、これで何もできない」
オーサーの手は冷たかった。容態は大丈夫だろうか。
「何をしているの、離れなさい」
母上は、いや王妃は何も知らないらしい。エンディオの独断か。
王妃は俺をつかむが、止めてくれ。もう俺は小さな子供ではない。見るものや行く場所を制限できない。あなたの思い通りにはならない。
そしてオーサーが言った。
「王妃、あなたは想像力がない。想像力の有無は人間と獣を分ける。つまりあなたは獣だ」
「何を言っているのこの者は。わたくしは人間に決まっているわ。ファリオン、離れなさい」
「相手の立場を想像できていない。子を奪われた悲しさ、悔しさ、辛さを私は想像できる。だがあなたは親を奪われた子の苦しさを想像できない」
オーサーは兄上がかわいそうだといっていた。こんなときでもそう思うのか。かわいそうなのはオーサーだ。
「勝手なことを言わないで! あの子は王太后の子になった。私には関係ない」
あなたが、あなた達が献上した。保身の為に兄上を捨てた。
「ただ完璧であることを求められた。失敗は許されなかった。頼れる人はいなかった。あなたと同じだったのに、あなたは想像しなかった」
同じか。確かにそうだ。親子で同じだったはずなんだ。
「わかり合えたはずなのに、あなたは自分の苦しさだけが大事だった。苦しさを忘れるためにファリオンを利用した。だから誰からも好かれないんだ。自分の子からも好かれない」
泣きそうだ。オーサー俺の事も考えていたのか。オーサー、もっと自分の事を考えればいい。人の事ばかりだ。
王妃が手を上げたので、その手を叩き落した。
「民も哀れだ。獣を王妃として敬わなければいけない」
この状態のオーサーに手を上げるなんて、確かに人間ではない。事実を突かれたからと怒るのは王妃ではない。
「人間であったはずなのに、いつの間にか獣に変わってしまった哀れな王妃」
王妃は震えている。怒りか。オーサーは守る。
だが長くはもちそうにない。エンディオの決断はいつだろうか。あの男の動きは警戒しなくてはいけない。王妃の反応はどうか。何よりオーサーの容態は。
焦りが刻々強くなる。俺は何も出来ない。昔からそうだったし今もそうだ。
ずっと利用されてきてそれが嫌だったが、利用価値がなければまともな人間とは付き合えない。ろくな価値のない俺を利用したがるのはろくでもない人間だ。
もっと強ければ。もっと賢ければ。もっと、兄上のようであれば。
7
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる
シェルビビ
恋愛
ランキング32位ありがとうございます!!!
遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。
ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。
ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。
この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。
「やっと見つけた、俺の女神」
隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。
サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる