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保護編
13-3
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<史実だ>
<本当に? 虚構じゃないの?>
<実際にあったことだ>
<・・・私は『ソファイユリス史』は日本人が書いたと思っていた。だってラデスは「さとう」だし、セデスは「いとう」、ファデスは「にとう」だよ>
<ソファイユリスと日本には何か関係があるのかも知れない>
<だからここに来たと。何なんだろうね>
ともやはあの優秀な小さい頭で考えていた。
<レイサスにとって、これはいつ起こったことなの?>
<三十一年前だ。私が生まれる六年前の出来事で「王弟疑惑」と言われている。フェデス王にとってセデスは叔父だが「王叔疑惑」ではなく「王弟」。セデスは優秀な人だったのだろう>
<なるほどね。エミリナリス妃はどうなの?>
<優秀で強烈な方だった。私の祖母に当たるが、エミリナリス様の影響が今の王宮を乱していると言っていいだろう>
<亡くなってはいるんだね?>
<十六年前に>
<どんな影響が残っているの?>
<・・・私と弟の不仲だ>
<弟がいるんだ>
<四歳下の弟でファリオンという。王妃が溺愛した子だ>
<・・・そう聞くとどうしようもない人間を想像しちゃうんだけど、どんな感じ?>
<頭は悪くない。だがやる気に欠ける。先回りして危険から守る王妃のせいもあるだろう。まだ子供だと何も任せてもらえないから実力も生かせない。王妃の父エンディオ・ソサイゾにとっては、自分の意志で動かない孫の方が都合がいい。気の毒な環境だ>
<ちょっと待って。レイサスのお母さんは王妃ではないの?>
<王妃だ。父王は王妃との間にしか子がいない。私とファリオンの二人だけだ>
彼女は言葉を選んでいる。選ぶ必要はない。聞いてくれるのなら話したい。
だが話せば、彼女はまた私に同情するだろう。
<私は長子で男児であった為、国中から出生を祝われた。その時は王妃も喜んだと思う。だが私はエミリナリス様に養育された。王として相応しくあれと教育されたが、母は奪われたと感じただろう>
<卑近に形容すると、嫁姑争いか>
<そう。それに貴族の力関係も加わる。王太后エミリナリスはヌゼラス伯を取り立てた。現在はヌゼラス候だが。マクシミリアン・ヌゼラス候はエンディオ・ソサイゾと対立している>
<代理戦争>
<そうだ。ヌゼラス候は私の後見だが、王太后が薨御された今、王妃の寵愛の分ファリオンの方が有力だ>
<・・・異世界に来る前触れはないと言っていたけど、これが伏線じゃないの? 長子相続を侵せない社会で、長子ではなく次子に即位させたい貴族たち。誰かが何かをやったから飛ばされたんじゃないの?>
<そう。前触れはないが原因に心当たりはある。私がいなくなって得をする者ははっきりしている。だが方法がない。魔法は存在しない。こんな事は意図してできるものではない>
<そうか。方法ね。毒殺を警戒はしても神隠しは考えないよね。だけど彼らが何かをやったとしか考えられないよね。こんなタイミングでこんなことが起こるなんて>
<その通りだ。だがどうやったのか>
ともやは私の話を聞きながら書いていたメモを見た。
<ヌゼラス候の他にレイサス側の貴族は?>
<私寄りの者は多いが、ほとんどは日和見だ。確実なのはシルヴィオ・ロゾイゾ公爵とエラン・リーラント子爵だろう。幼馴染だ>
<その二人、いや三人か。その人たちはソサイゾ公を調べられる?>
<調べてはいるだろうが、警戒されているから内情を知るのはかなり難しいだろう>
<そうだよね。だけど自然発生ではなくて誰かが起こしたのなら、レイサスは戻れるかもしれない>
私は戻りたいのだろうか。ともやのいないイユリスに。意味がない。
<当てにはできない>
<そうだね。それはそうだ。まあこれまでと同じように暮らしていこうか>
<本当に? 虚構じゃないの?>
<実際にあったことだ>
<・・・私は『ソファイユリス史』は日本人が書いたと思っていた。だってラデスは「さとう」だし、セデスは「いとう」、ファデスは「にとう」だよ>
<ソファイユリスと日本には何か関係があるのかも知れない>
<だからここに来たと。何なんだろうね>
ともやはあの優秀な小さい頭で考えていた。
<レイサスにとって、これはいつ起こったことなの?>
<三十一年前だ。私が生まれる六年前の出来事で「王弟疑惑」と言われている。フェデス王にとってセデスは叔父だが「王叔疑惑」ではなく「王弟」。セデスは優秀な人だったのだろう>
<なるほどね。エミリナリス妃はどうなの?>
<優秀で強烈な方だった。私の祖母に当たるが、エミリナリス様の影響が今の王宮を乱していると言っていいだろう>
<亡くなってはいるんだね?>
<十六年前に>
<どんな影響が残っているの?>
<・・・私と弟の不仲だ>
<弟がいるんだ>
<四歳下の弟でファリオンという。王妃が溺愛した子だ>
<・・・そう聞くとどうしようもない人間を想像しちゃうんだけど、どんな感じ?>
<頭は悪くない。だがやる気に欠ける。先回りして危険から守る王妃のせいもあるだろう。まだ子供だと何も任せてもらえないから実力も生かせない。王妃の父エンディオ・ソサイゾにとっては、自分の意志で動かない孫の方が都合がいい。気の毒な環境だ>
<ちょっと待って。レイサスのお母さんは王妃ではないの?>
<王妃だ。父王は王妃との間にしか子がいない。私とファリオンの二人だけだ>
彼女は言葉を選んでいる。選ぶ必要はない。聞いてくれるのなら話したい。
だが話せば、彼女はまた私に同情するだろう。
<私は長子で男児であった為、国中から出生を祝われた。その時は王妃も喜んだと思う。だが私はエミリナリス様に養育された。王として相応しくあれと教育されたが、母は奪われたと感じただろう>
<卑近に形容すると、嫁姑争いか>
<そう。それに貴族の力関係も加わる。王太后エミリナリスはヌゼラス伯を取り立てた。現在はヌゼラス候だが。マクシミリアン・ヌゼラス候はエンディオ・ソサイゾと対立している>
<代理戦争>
<そうだ。ヌゼラス候は私の後見だが、王太后が薨御された今、王妃の寵愛の分ファリオンの方が有力だ>
<・・・異世界に来る前触れはないと言っていたけど、これが伏線じゃないの? 長子相続を侵せない社会で、長子ではなく次子に即位させたい貴族たち。誰かが何かをやったから飛ばされたんじゃないの?>
<そう。前触れはないが原因に心当たりはある。私がいなくなって得をする者ははっきりしている。だが方法がない。魔法は存在しない。こんな事は意図してできるものではない>
<そうか。方法ね。毒殺を警戒はしても神隠しは考えないよね。だけど彼らが何かをやったとしか考えられないよね。こんなタイミングでこんなことが起こるなんて>
<その通りだ。だがどうやったのか>
ともやは私の話を聞きながら書いていたメモを見た。
<ヌゼラス候の他にレイサス側の貴族は?>
<私寄りの者は多いが、ほとんどは日和見だ。確実なのはシルヴィオ・ロゾイゾ公爵とエラン・リーラント子爵だろう。幼馴染だ>
<その二人、いや三人か。その人たちはソサイゾ公を調べられる?>
<調べてはいるだろうが、警戒されているから内情を知るのはかなり難しいだろう>
<そうだよね。だけど自然発生ではなくて誰かが起こしたのなら、レイサスは戻れるかもしれない>
私は戻りたいのだろうか。ともやのいないイユリスに。意味がない。
<当てにはできない>
<そうだね。それはそうだ。まあこれまでと同じように暮らしていこうか>
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