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第57話 ドキドキの覗き見(東堂優乃視点)
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「なんなんですか、なんなんですか、なんなんですか」
放課後。
日直である私、東堂優乃はブツブツと文句を呟きながら職員室へと向かう。
文句を言っている内容は京太くんのことである。
あの人、鼻の下伸ばして。
『さぁ、どうかな』
とか!
あれは絶対ラブレターの待ち合わせに行ったに違いない。
すごくムカつく。京太くんは好きな人だけど、ものすごくムカつく。
「てか、独特の気持ち悪い笑い方はわたしのものでしょうに。美少女がやるから可愛いんですよ。あんな陽キャがやったってただの気持ち悪いノリですよ。気持ち悪い」
「おいおい。先生に向かって気持ち悪いたぁ良い度胸だな。お願いします。もっと罵倒してください」
「え……?」
いきなり紫藤先生の声が聞こえてきて辺りを、キョロキョロと見渡してみる。
どうやら無意識に職員室に入り、紫藤先生のデスクに立っていたみたいだ。
意識すると、どこかタバコの匂いとコーヒーの匂いが混ざった独特の匂いがした。カフェとは違った学校の職員室の匂いは嫌いではないけど、好きとは程遠い。
「なんだよ? 時空を超えた奴みたいな顔して」
「わたしは時空を超えたのでしょうか?」
「え? タイムトラベラー的な? 10代のタイムトラベラーって、の○太以外にいるんだな」
「なんの話ですか?」
「あれ? 22世紀のネコ型ロボットの話じゃなかったっけ?」
「わたし23世紀出身です」
「ごめん。第一回バグり王決定戦は俺の負けだ。枚方を呼んで来て。てか、あいつは良くこの化け物と対話ができるな」
「化け物級に高嶺の花ってことですか?」
「枚方ぁ! 俺には無理だぁ! 助けてくれー」
「というか先生。京太くんの名前を出すのはやめてください」
言いながら先生へ日直日誌を渡す。
先の休み時間に任せた女子生徒は昼休みの終わりに早退してしまったので、結局わたしが持ってくることになった。
「枚方と喧嘩でもしたのか?」
「え?」
先生がパラパラと日誌をめくりながら聞いてくる。
「け、喧嘩なんてしてません」
「わかりやすぅ」
先生は、ニヤニヤしながら言ってくる。
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うからな。どっちが悪いのかわからないが、先に謝るのをおすすめするぞ」
「ふ、ふーふーなんて……」
「なんか熱い物でも食べたの?」
「お、おかゆをあーんしてもらってなんかいません!」
「へー。この前、ふたり揃って休んでた時、そんなことしてたのかぁ」
「!? ど、どうして、先生がそれを!?」
「流石はバグり王の初代王者。バグり方が群を抜いてやばいぜ」
呆れた声を出されて先生が日誌の確認を終えると見てくる。
「今、1番楽しい時期の高嶺の花さんに頼みがあるんだけど、良いか?」
「頼み?」
♢
紫藤先生の頼みは簡単なものだった。
クラスメイトの夏目さん。彼女の電車の定期を拾ったので届けてあげて欲しいとのことだった。
先生が届けようとした矢先に都合良くわたしが来たのでお願いしたみたいだ。
まぁ、カフェのバイトまでは時間があるので体育館に行くくらい別に構わない。
体育館に来ると、やけに静かであった。
勝手な想像だけど、女子バスケ部が練習しているのだから、ダムダムとボールが弾む音や、キュッキュッとバッシュの音が響くと思うのだが。
不審に思いながらも体育館に来ると、物凄い光景を目にする。
女バスの部員が全員うつ伏せで、体育館の下の窓から外の様子を伺っていた。
「あのぉ……」
女バスの皆さんはなにかに夢中でこちらに気が付いていない。
「あ、東堂さん。こっち、こっち」
クラスメイトの夏目さんが、わたしと目が合うと手招きをする。
「え、え?」
「おいで、おいで」
夏目さんに導かれるまま、わたしは夏目さんの隣でうつ伏せになる。
「あの、夏目さん……」
「しっ」
彼女は小窓の外を指差した。
「あ……」
そこには陽キャうぇーい族の長、枚方京太くんが階段に腰掛けているのが伺えた。
その隣には──
「野村さん……」
スクールカーストトップに君臨するギャル、京太くんの元仲間である野村沙織さんが京太くんの隣に座っていた。
「もしかして、告白かな?」
「告白……」
ドキンと嫌な心臓の音が跳ねた。
「あの子って元々枚方くんと同じグループだった子だよね。今は随分と大人しくなったと思ったけど、やっぱり肉食なんだね」
「そ、そうなんですかね……」
京太くんめ……。やっぱりラブレターのところに行ってるのかよ。
でも、ラブレターを送ったのが野村さんならやはり悪戯なのでは?
『私ら付き合わない?』
「はあ!?」
つい声に出てしまって、咄嗟に手で口元を押さえるがもう遅い。
京太くんが、キョロキョロとしていた。
「なんでそこでリバウンド取らないの!?」
隣で大きな声を出す夏目さんの声が京太くんに届いたのか、周りを見渡すのをやめた。
どうやら誤魔化せたみたいだ。
夏目さんが親指を突き上げるので、こちらはひたすらに、ペコっておく。
そこから女バスの皆さんと共に京太くんと野村さんの告白シーンを見ているが、なんともまぁ告白とは程遠いような雰囲気。
そんな中で野村さんが膝から崩れ落ちた。
『俺が好きなのは優乃だ! 優乃以外と付き合う気はない!』
「へ……?」
京太くん、今、わたしのこと、好きって、言った……?
きゃああああああ♡♡♡
体育館に黄色い声がこだまして、女バスの人達の視線がこちらに集まってくる。
「いやー、やっぱり枚方くんは東堂さんのことが好きだったんだね。というか、まだ付き合ってない感じなんだ」
未だ現実がわからなくて、呆然としてしまう。
「京太くんが、わたしを、わたし、を……!?」
京太くんの言葉の意味をようやく脳内で受け止めることができると、一瞬で顔が熱くなる。
やかんでも置いたら沸騰しそうなくらいだと自分でもわかるくらいに熱い。
わたしはどうして良いかわからずに、駆け出した。
「あ、東堂さん。お幸せにー」
夏目さんの言葉を皮切りに、女バスの皆さんが、「お幸せにー」と祝福の言葉を送ってくれる。
いや、まだ付き合ってませんけど、なんて返しをする余裕なんてわたしにはなかった。
走ってやって来た体育館裏には、誰もいなかった。
「はぁ、はぁ……。京太くん……京太くん……!」
彼の思いを聞いてしまい、わたしの胸は今にもはち切れそうだ。
放課後。
日直である私、東堂優乃はブツブツと文句を呟きながら職員室へと向かう。
文句を言っている内容は京太くんのことである。
あの人、鼻の下伸ばして。
『さぁ、どうかな』
とか!
あれは絶対ラブレターの待ち合わせに行ったに違いない。
すごくムカつく。京太くんは好きな人だけど、ものすごくムカつく。
「てか、独特の気持ち悪い笑い方はわたしのものでしょうに。美少女がやるから可愛いんですよ。あんな陽キャがやったってただの気持ち悪いノリですよ。気持ち悪い」
「おいおい。先生に向かって気持ち悪いたぁ良い度胸だな。お願いします。もっと罵倒してください」
「え……?」
いきなり紫藤先生の声が聞こえてきて辺りを、キョロキョロと見渡してみる。
どうやら無意識に職員室に入り、紫藤先生のデスクに立っていたみたいだ。
意識すると、どこかタバコの匂いとコーヒーの匂いが混ざった独特の匂いがした。カフェとは違った学校の職員室の匂いは嫌いではないけど、好きとは程遠い。
「なんだよ? 時空を超えた奴みたいな顔して」
「わたしは時空を超えたのでしょうか?」
「え? タイムトラベラー的な? 10代のタイムトラベラーって、の○太以外にいるんだな」
「なんの話ですか?」
「あれ? 22世紀のネコ型ロボットの話じゃなかったっけ?」
「わたし23世紀出身です」
「ごめん。第一回バグり王決定戦は俺の負けだ。枚方を呼んで来て。てか、あいつは良くこの化け物と対話ができるな」
「化け物級に高嶺の花ってことですか?」
「枚方ぁ! 俺には無理だぁ! 助けてくれー」
「というか先生。京太くんの名前を出すのはやめてください」
言いながら先生へ日直日誌を渡す。
先の休み時間に任せた女子生徒は昼休みの終わりに早退してしまったので、結局わたしが持ってくることになった。
「枚方と喧嘩でもしたのか?」
「え?」
先生がパラパラと日誌をめくりながら聞いてくる。
「け、喧嘩なんてしてません」
「わかりやすぅ」
先生は、ニヤニヤしながら言ってくる。
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うからな。どっちが悪いのかわからないが、先に謝るのをおすすめするぞ」
「ふ、ふーふーなんて……」
「なんか熱い物でも食べたの?」
「お、おかゆをあーんしてもらってなんかいません!」
「へー。この前、ふたり揃って休んでた時、そんなことしてたのかぁ」
「!? ど、どうして、先生がそれを!?」
「流石はバグり王の初代王者。バグり方が群を抜いてやばいぜ」
呆れた声を出されて先生が日誌の確認を終えると見てくる。
「今、1番楽しい時期の高嶺の花さんに頼みがあるんだけど、良いか?」
「頼み?」
♢
紫藤先生の頼みは簡単なものだった。
クラスメイトの夏目さん。彼女の電車の定期を拾ったので届けてあげて欲しいとのことだった。
先生が届けようとした矢先に都合良くわたしが来たのでお願いしたみたいだ。
まぁ、カフェのバイトまでは時間があるので体育館に行くくらい別に構わない。
体育館に来ると、やけに静かであった。
勝手な想像だけど、女子バスケ部が練習しているのだから、ダムダムとボールが弾む音や、キュッキュッとバッシュの音が響くと思うのだが。
不審に思いながらも体育館に来ると、物凄い光景を目にする。
女バスの部員が全員うつ伏せで、体育館の下の窓から外の様子を伺っていた。
「あのぉ……」
女バスの皆さんはなにかに夢中でこちらに気が付いていない。
「あ、東堂さん。こっち、こっち」
クラスメイトの夏目さんが、わたしと目が合うと手招きをする。
「え、え?」
「おいで、おいで」
夏目さんに導かれるまま、わたしは夏目さんの隣でうつ伏せになる。
「あの、夏目さん……」
「しっ」
彼女は小窓の外を指差した。
「あ……」
そこには陽キャうぇーい族の長、枚方京太くんが階段に腰掛けているのが伺えた。
その隣には──
「野村さん……」
スクールカーストトップに君臨するギャル、京太くんの元仲間である野村沙織さんが京太くんの隣に座っていた。
「もしかして、告白かな?」
「告白……」
ドキンと嫌な心臓の音が跳ねた。
「あの子って元々枚方くんと同じグループだった子だよね。今は随分と大人しくなったと思ったけど、やっぱり肉食なんだね」
「そ、そうなんですかね……」
京太くんめ……。やっぱりラブレターのところに行ってるのかよ。
でも、ラブレターを送ったのが野村さんならやはり悪戯なのでは?
『私ら付き合わない?』
「はあ!?」
つい声に出てしまって、咄嗟に手で口元を押さえるがもう遅い。
京太くんが、キョロキョロとしていた。
「なんでそこでリバウンド取らないの!?」
隣で大きな声を出す夏目さんの声が京太くんに届いたのか、周りを見渡すのをやめた。
どうやら誤魔化せたみたいだ。
夏目さんが親指を突き上げるので、こちらはひたすらに、ペコっておく。
そこから女バスの皆さんと共に京太くんと野村さんの告白シーンを見ているが、なんともまぁ告白とは程遠いような雰囲気。
そんな中で野村さんが膝から崩れ落ちた。
『俺が好きなのは優乃だ! 優乃以外と付き合う気はない!』
「へ……?」
京太くん、今、わたしのこと、好きって、言った……?
きゃああああああ♡♡♡
体育館に黄色い声がこだまして、女バスの人達の視線がこちらに集まってくる。
「いやー、やっぱり枚方くんは東堂さんのことが好きだったんだね。というか、まだ付き合ってない感じなんだ」
未だ現実がわからなくて、呆然としてしまう。
「京太くんが、わたしを、わたし、を……!?」
京太くんの言葉の意味をようやく脳内で受け止めることができると、一瞬で顔が熱くなる。
やかんでも置いたら沸騰しそうなくらいだと自分でもわかるくらいに熱い。
わたしはどうして良いかわからずに、駆け出した。
「あ、東堂さん。お幸せにー」
夏目さんの言葉を皮切りに、女バスの皆さんが、「お幸せにー」と祝福の言葉を送ってくれる。
いや、まだ付き合ってませんけど、なんて返しをする余裕なんてわたしにはなかった。
走ってやって来た体育館裏には、誰もいなかった。
「はぁ、はぁ……。京太くん……京太くん……!」
彼の思いを聞いてしまい、わたしの胸は今にもはち切れそうだ。
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