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第48話 今更悔やんでも、もう遅い

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「今日は疲れたなぁ……」

 ようやく今日の授業が終わった。ぽきぽきと小さく首を鳴らし、自分の手で肩を軽く揉む。

 なんだか疲労が一気に来た気分だ。

 なにも構えていない状態で綾香と元仲間達が絡んできたんだもんな。そりゃ精神的に疲れる。

 あいつらの事情聴取の結果は、まだわからない。どうなることやら。

 ま、俺には関係のないことだ。

 放課後になったし、さっさと帰ろう。

 席を立ち、後ろの席にいる優乃へ話かける。

「おつかれ。一緒に帰ろうぜ」

 意識してしまっている相手だが、なんとか普通に誘うことができた。

 クラスの連中からの視線を感じるが、そんな視線より、俺は優乃と帰りたかった。

「い、一緒に、で、ですか?」
「だめ?」
「だ、だめじゃありません。むしろ嬉しいというか……」

 俺と帰るのを嬉しいとか言ってくれて、めっちゃ嬉しいんだけど。

「わ、私なんかと堂々と一緒に帰っても良いんですか? こう、コソコソと帰らないんですか?」
「今更コソコソしても意味ないだろ。もう俺らの関係はみんなにバレてるし」
「オレラノカンケイ……」

 優乃がカタコトで繰り返してくる。自分で言っておいて、自分自身で恥ずかしくなっちまった。

「と、とにかく。一緒に帰ろうぜ」
「は、はい」

 クラスメイト達の視線を無視して俺達は一緒に教室を出た。

 廊下を、昇降口を、正門までの道を歩く。

 優乃のことが好きだと強く意識すると、一緒に歩くだけで心臓が張り裂けそうだ。

 でも、それも心地が良いというか……。

 なんともいえないこそばゆい雰囲気をまといながら正門を出ようとした時だ。

「おいっ!」

 俺らの雰囲気を破壊する声。

 声の方を見ると、正門前に立っていたのは、綾香の彼氏のゲス野郎だった。

 俺と優乃のなんともいえないこそばゆい雰囲気をぶち壊した罪は重いが、こんなゲス野郎と関わりたくないため、無視してその場を去ろうとする。

「待てって!」

 ガシッと俺の肩を掴んでくる。その手はかなり力が入っていた。

「なんすか」

 流石に無視できる状況じゃない。

 ギロリと振り返り様に睨み付けてやるが、あまり効果はないみたいだ。

「なんすかじゃねぇだろうが。お前だ! お前が綾香を妊娠させたんだろうが!」
「は?」

 うーわ。まだ綾香の件が続くのかよ。もう終わったと思ったのに。しかもまーた俺のせい。綾香に関わる奴、人に責任を押し付ける奴の多いこと。

「綾香のお腹の子はあなたとの愛の結晶でしょ」

 そこに愛があったかどうかは知らんがね。

「違う! あんなヤリマンとの間に愛なんてない!」
「はぁ。そうですかー」

 心底どうでもいいわー。

「俺が妊娠させたって言え!」
「やっぱりあなたが妊娠させたんですねー。どうぞお幸せに」
「違う! そうじゃない! お前が、『俺が妊娠させた』って言うんだよ!」
「なんでそんなわけわからんことを言わなくちゃいけねーんだよ」
「わけわからんこと言ってんのは綾香だよ! あいつがいきなり孕んだとか言い出して! 俺の子じゃない!」
「それは綾香と話せよ」
「お前が孕ませたと言えば丸くおさまる!」
「おさまるか、ぼけ」

 こいつの頭の中はどうなってんだよ。

「お、俺は医者の息子。医者の息子だぞ! お、親の権力でお前を潰すこともできるんだぞ!」
「以前にも実家激太マウント取ってましたけど、だからなんなの?」
「っ!? なんでビビらねぇんだよ! くそがっ!」
「なんでそれでビビると思ってんだよ。逆にこえーよ」

 ああああああ!

 雄叫びをあげて、綾香の彼氏は優乃を見た。

「おい、綾香のストーカーの彼女。こいつは托卵するような奴だぞ。そんな奴と付き合ってても良いのか!?」
「ちょっ!」

 いきなり優乃に関わり出したから、反射的に優乃の前に立つ。

「お前も犠牲になるぞ!」
「えーっと……」

 優乃は呆れを通り越して、少しだけ考えた後に発言した。

「別に京太くんとの子供なら良いかな、と」
「なっ!?」
「えっ!?」
「はわっ!?」

 その場の全員が驚愕の声を出した。

 綾香の彼氏も、俺も、優乃も全員があわあわしている。

「なにをわけわからんこと言ってんだ!」
「わけわからんこと言ってんのは最初からお前だよ」

 困っていると、「おーい、そこー。なにしてんだー」とテンションの低い聞き慣れた声が聞こえてくる。

 現れたのは我らが担任の紫藤先生。

 先生はやる気なさそうに、俺達と綾香の彼氏を見比べる。

「知り合い?」
「糟谷の彼氏っす」
「あー、なーる」

 状況把握を瞬時にしてくれた紫藤先生流石だわ、

 とか感心していると、綾香の彼氏が先生へ必死に語りかける。

「あんたこいつの先生か。だったらあんたからも言ってやってくれ。綾香の腹の子はこいつの子だ。責任を取れと」

 先生は俺達にはあまり見せない真剣な顔で彼と話した。

「おかしいですな。糟谷からはあなたとの子、というのを聞いておりますが」
「違う違う! 俺じゃない! 俺じゃない! あいつだ! あいつがやったんだ! 俺じゃない!」

 ぶんぶんと首を横に振って駄々っ子みたいに言ってのけている様は見てられないな。

「大学生といえど、あなたも大人でしょう。高校生に責任を押し付けるなんて恥ずかしいと思いませんか?」

 いつもの先生とは違った諭すような言い方に、綾香の彼氏は膝から崩れ落ちた。

「お、俺は医者の息子でもなんでもない。今までモテたことなんてなくて、大学生になって、親が太いとか、金があるアピールをしたら急にモテて、それで嬉しくなって……」

 なんで急に痛々しいことを自白してんだよ。つうか周りの女も女だな、おい。

「子供を育てる金なんて俺にはない。学校もやめたくない。だから頼む。お前が育ててくれ。お前が育てるべきなんだ……!」

 膝をついたまま、神に祈るように俺へとすがりたついてくる。

 ただ、発言がゲス過ぎるんですけど。

「ちょ、先生」
「枚方。言いたいこと言え。なんかあれば守ってやるから」
「そう言いながら警察に通報してるの流石先生だわ」
 
 グッジョブしてくれる先生。

 こんな奴に言っても仕方ないとは思うが、俺は綾香の彼氏に言い放つ。

「あんたの過去なんて知ったこっちゃないがな、男が責任も取れない行動をするな。俺は本当に大切な人にしか手を出さない。俺が責任を取るのは優乃だけだ! 俺が育てるとしたら優乃との子供だけだ!」

 綾香の彼氏にきっぱりと言い切って、すがりついてくるのを振り払う。

「うおお、おおお……」

 今更泣いても、もう遅い。そのゲスさを一生悔やんどけ、ゴミ野郎が。

「あ、あの……京太くん」

 くいくいと俺の服の袖を掴んでくる優乃の顔が真っ赤に染まっていた。

「い、今のは、ええっと……」

 彼女が顔を赤く染めているのを見て、自分がとんでもないことを口走ったことに気がつく。

「や、えと、今のは……」
「え、えへへ……」
「あはは……」

 お互いに笑って誤魔化すしかできない。

「はいはい。バカップルはさっさと帰れ。あとは先生と警察でやっとくから」

 しっしっと野良犬を払うようにやられて、俺達は素直に帰宅した。

 正直、どうやって帰ったかは覚えていない。
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