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第26話 東堂優乃的私的神回(東堂優乃視点)

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「メイド。後輩。やはりこれらですかね」

 わたしは──東堂優乃は本棚から大量の漫画を机に置いて、ノートパソコンを起動させた。

 パソコンを操作して、ゲームを起動する。

 起動したのは恋愛シュミレーションゲーム。

 コントローラー片手に、反対の手には漫画を持つ。

『先輩。またえっちなこと考えているんですか?』
「ぢゅふ。アイタソまじエモチャカファイアですです」

 ノートパソコンに映った後輩キャラである、カミあまというゲームの七井愛というクールな後輩キャラが、やれやれと主人公であるわたしに言ってくるセリフはどれも萌え尊い。

「おっと、いけません。アイタソばかりにエモチャッカしている場合ではないですね」

 もう片方の手に持った漫画を開くと、そこにはヒゼロという漫画の登場人物、メイドのレイが主人公に寄りかかっていた。

「ここは最高のシーン! メモメモ……」

 わたしは、美少女でメイドで後輩の最高の女を目指す──。

「って! ちがーう!」

 わたしは1人、部屋で叫んだ。

 ドタドタと廊下の方で足音が聞こえてくると、ガチャリと部屋のドアが開いた。

「お姉ちゃん? また1人で悶絶してたの?」

 妹の優美がやって来て、心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

「い、いえ。違いますよ」

 この純粋な妹の瞳に、ノリツッコミしていたとは素直に言えない。

「そ、それより優美。その手に持っている服はどうしたのですか?」

 彼女の両手には、可愛い服がそれぞれ握られていた。

「えへへ。明日は京太お兄ちゃんが来てくれる日だから、どの服を着ようか迷っていたの」
「京太くん……」

 妹の口から彼の名前が出てきて心臓が跳ねた。

「お姉ちゃん。どっちが良いと思う?」

 優美はわたしに2着の服を見せてくる。

 正直、どちらも優美に似合っていて、そこまで差がないのだが。

「左手に持っているワンピースが良いと思われます」
「あ、やっぱりこっちだよね」

 どうやら優美的にもわたしが選んだ方が良かったらしく、選択の同意を得れて満足そうな顔をしていた。

「これで京太お兄ちゃんを。ふふ」

 何か良からぬことを考えていそうな表情が少しわたしと似ている気がした。

「ありがとうお姉ちゃん。あんまり夜更かししちゃダメだよ。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

 優美は上機嫌に部屋を出て行った。

 わたしの部屋のドアが閉まったところで、流れるようにベッドにダイブをした。

「わたしは一体、何を目指そうとしていたのやら……」

 美少女でメイドで後輩ってなに? それは目指すべきものではない。

 目指すは高校デビューをして、京太くんと肩を並べる位置に立つことだ。

「京太くん……」
『優乃の方がキラキラ輝いてるよ』
『じゃあ命令。もう少しだけこうしててくれ』
「あかん!」

 バフっと枕に顔を突っ込む。

 バタバタとベッドで足をバタつかせて、つい先程のことを思い返す。

「わたし、わたし京太くんに抱きついた……。抱きついちゃった……」

 なんかイケるかもって思って行ったらイケたんだけど。

 京太くん怒ってないかな? 怒ってないよね? もう少しだけこうしててくれって言ってたし。

 京太くんめっちゃ良い匂いした。

 ブレザーからは洗剤の匂いの奥に京太くんの匂いがあって意識が飛びそうになったし、抱き着いた時は汗混じりだけど、全然嫌じゃないというか、むしろ好きな匂いで……。

 わたし、匂いフェチなのかな。

「ああ……。京太くん……。京太くん……!」

 会いたいな。

 明日になったら会えるってわかってる。

 学校で会える。

 でも、今日はなんだかすごく会いたい気分だ。

 今すぐにでも部屋を出て、彼の家まで行きたい。

 家の場所は知らないけど……。まぁ、近所は近所だろう。

「はぁ……。でも、こんな時間に出て行ったらお母さんに怒られるし……」

 ため息を吐きながらスマホをいじる。

 そこで連絡先の枚方京太をタップして眺める。

 もう、彼の名前の文字だけでも簡単にドキドキしてしまっている。

「……!」

 そこで気がついた。

 通話。通話ができる。

 彼の連絡先を知っているので、声だけでも聞けるのではないか。

 メッセージで文字のやりとりも良いけど、今は会いたい。でも、それは叶わない。なら、声だけでも聞かせてはくれないだろうか。

 わたしは、プルプル震える指で枚方京太との通話を開始しようとして。

「だめんぬ……」

 スマホを勇気と共に放り投げた。

「無理無理無理無理無理無理。推しに電話とかどんだけの勇気がいるんですか! 俺つええええええですか!? ええ!? こんなもん異世界チート転生じゃないとできないでしょうがっ!」

 誰に向かって文句を言っているのかわからないほどに、心臓がドキドキしてしまっている。

「そもそも! こういうのは向こうから電話をかけてくるべきなんです! 陽キャうぇーい族ならやるべきでしょうがっ!」

 スマホに向かって文句を垂れ流していると。

 ぶうううううう!

「ひっ!」

 普段震えないスマホが震え出した。

 な、なになに!? 文句を言いすぎてスマホがキレた?

 なんて思っていると、画面には、枚方京太という文字と、着信の文字が表示されている。

「きょ、京太くん!?」

 あ、あなたはどこまで主人公なのですか……。このタイミングで電話だなんて……。

 ごくりと生唾を飲んで、高鳴る心臓をなんとか抑えつつ通話に応答する。

「も、もしもし」
『もしもし? 優乃?』

 電話越しの機械音声。しかし、それでも彼の声が聞きたかったわたしは高揚感に包まれてしまった。

「な、ななな、なんの用です?」
『ん?』

 電話越しの京太くんから疑問の念を送られる。

『用事じゃなかったか? 着信入ってたから用事だと思ったけど。ミス電か?』

 ミス電って何? ミス・ユニバースの親戚か何か?

「わ、わたしはグランプリを取るでしょう」
『は?』

 心底疑問の念を送られてくる。そういう意味ではないみたいだ。

『いや。間違い電話ならそれで良いんだけど……』
「間違い……。あ……」

 さっき、指をプルプルした時に当たったのかもしれない……。

「べ、べ、別にあんたに用事なんてないからっ!」
『お前電話だと強気過ぎて逆に清々しいわ』
「あ、いえ。今は後藤になのジャージーを着ているので、その……」
『後藤になな。ツンデレなんだっけ?』
「わたしは美少女メイド後輩です」
『今は優乃の話しじゃねぇんだよ』

 呆れた笑いが飛んでくると京太くんが続けて言ってくれる。

『わりぃな。風呂入ってて電話に出れなかったんだけど、用事じゃないなら切るわ』
「あ、ま、待ってください!」

 止めたのに大きな理由はない。だけど、まだ彼との電話を続けたかった。

『どうかしたか?』
「あ、い、いえ……。その……」

 何か話題。何か話題を……。

 あわあわしてしてしまった中で、明日の家庭教師のことでも話題にしようと思った。

 すまぬ妹よ。出汁になってくれたまえ。

『優乃』

 今まさに妹を出汁に使おうとしたところで、あちらから声を出されてしまう。

「は、はひ」
『また……用事がない時でも電話しても良いか?』
「え……」

 トクンと小さく静かに心臓がはねた。

『ダメかな?』
「あ、い、いえ……その、あの、光栄というか、なんというか……」
『良かった。それじゃまた今度電話しよう。今日はちょっと疲れたから寝るよ』
「あ、は、はい」
『おやすみ優乃』
「おやすみなさいです。京太くん」

 お互いにおやすみを言い合うと通話が切れた。

 ツーツーという音を聞いて、わたしは再度枕に顔を埋めた。

「なんなんです!? なんなんですか!? あの人!!」

 こっちの思ってること全部やってくれる! イケメンすぎる! 好き! もう大好き!

 推しとか、見てるだけで良いとかって遠回しな言語で逃げてたけど、もう無理! 好きなんです! 好き過ぎるんです!

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 悶絶の絶頂の声が東堂家に響き渡る。

『優乃!! 悶絶やめなさい!』
「神回!! 私的神回!!」
『ならよし!』

 お母さんからの許可をもらい、わたしはベッドのそのままのたうち回った。
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