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第17話 二股クソやろうの呪い

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 今日は俺、枚方京太の視線が妙に東堂優乃にいってしまう。

 朝、教室に入ってくる姿も、授業中も、視線が自動アシストするように彼女を捉えてしまう。

 幸いなことに俺の席は教室の真ん中の列の1番後ろ。対して、優乃の席は廊下側の前の方なのでこちらの視線には気がついていないだろう。

 3限終わりの休み時間になって、自席で頬杖ついて思う。

 こんなにも優乃に視線がいってしまうのは、明らかに昨日のことが原因だろう。

 不意な名前呼びに、第三者からの、『素敵なカップルですね』の文字。

 見た目はかなり美人な優乃とそんな風に言われたら意識するなと言うのが無理である。

 本当、見た目だけは世界級だもんな。

 なんて思いながら優乃を見ていると、クラスメイトの何人かが彼女へ声をかけていた。

 彼女の席に数人の男女が集まり、何かしゃべっている。

 それに対して笑顔で対応する優乃。

「ここから見たら笑顔だけど、内面は気持ち悪い笑みを浮かべてるんだろうな。騙されるなよクラスメイト達よ。そいつは変態だぞ」

 小さく言った後に小さな笑みが溢れる。

「なんだ。結構人が集まってんじゃんか」

 高校デビューしたいとか言うわりには数人が彼女の周りに集まっている。これってなにもしない方がうまいこといくのではないだろうか。

 まだなにもしていないのに順調な彼女を見て、なんだかこちらも嬉しくなる。

 まぁ俺の周りには誰もいないんだけどな。

「……って、まじでおらんやん」

 精神的な周りに人がいないではなくて、物理的に人がいなかった。

「ああ。次は移動か」

 4限は移動教室。理科の実験の日なので実験室に行かないといけないから教室に人がいないらしい。

 1年の頃は当時の仲間達の誰かが、『京太。一緒に行こう』って誘ってくれていたな。今は誘ってもらうどころか、俺の周りに人が寄り付かなくなった。虫除けならぬ人除けってか。

 自虐ネタを心の中で放ち、俺は廊下側の席へと足を運んだ。

「よっ。人気者。今日はここでサボるんか?」

 少し嫌味を含んだ俺の声掛けに優乃は顔を上げ、?マークを頭上に掲げていた。

「京太……くん……?」

 そして、立ち上がると目を見開いた。

「京太くん!?」
「なにをそんなに驚いているんだ」
「だ、だだ、だって、学校で喋りかけてくれるなんて……」
「喋りかけちゃダメな公約でも結んでたっけ?」

 すると、ブンブンブンブンブンブンと勢い良く首を横に振る。

「それやめなって。酔うぞ」
「三半規管強いんや」
「ならいっか」

 とか、そんなことは良い。

「次、移動教室なのに教室で堂々と座ってるとか、サボり以外になにがあるんだ?」
「移動教室?」

 こちらの言葉に彼女は教室を見渡した。

 俺と優乃以外誰もいない教室内。

「あ、あー。把握」

 優乃が1言呟いた。

「なにが?」
「あっと。ええっとですね。先ほど、クラスメイトの方々がわたしに声をかけてくれたのです」
「かけてたな」
「でも、正直なにを言ってるのか理解できなかったので、とりあえず美少女スマイルをプレゼントしてあげたら、すごい良い顔をして教室を去って行ったのです」
「自分で美少女スマイルとか言うなよ」

 しかしだ。

「あれは次は移動教室だから移動しないの? というのを言おうとしてくださったのですね」
「ふむ」

 高嶺の花が教室でボーッとしてるから声をかけるチャンスだと思って声をかけた。だが、美少女過ぎて緊張してしまい、呂律が回らなかった。そしたら優乃が美少女スマイルをプレゼントしてくれて、満足して行ってしまったと。

 こいつ、どんだけ美少女なんだよ。気持ちはわからなくもないが。

「んじゃまぁ一緒に行こうぜ」

 少し、ドキドキしたがなんとか誘えた。

「ええ!?」

 優乃は酷く驚いた顔をしてみせた。

「わたわた、きょ、きょ」
「なんでそんなに驚いてんだよ。クラスメイトなんだし別に普通だろ」

 まぁクラスメイトだから普通ってことはないと思うが、言い訳としては良い言い訳だろう。

「それに。俺はマウントを取るって決めたんだ。お前と一緒アピールをすることでこの学校の連中へのマウントになるだろ」

 そんなことは微塵も思ってない。素直に優乃と一緒に移動したかっただけだけど、ちょっと恥ずかしかったのでそんな軽口を言ってしまった。

「性格悪っ!」
「お前に言われたかねぇよ」

 笑いながら言ってやる。

「俺みたいな嫌われ者と一緒なのを見られるのが嫌なら、勝手に付いてきて気持ち悪いって言えば良いじゃん。俺のこと、何かあれば切るんだろ?」
「あ、そうですね」

 即答されてしまう。

「性格悪っ!」
「お、おお、お互い様です!」
「ふふ。それもそっか。ほらほら。さっさと行こうぜ。休み時間終わっちまう」
「あ、は、はい」

 優乃は机の中から理科の教科書とノートを取り出した。

 それを持ったのを確認すると俺達は教室を出て行く。

 休み時間の廊下には人の姿はなかった。たかだか10分しかない休憩時間だ。大体の生徒は教室内で過ごすだろうし、体育等の移動の生徒はとっくに移動を終えたのだろう。

「あ、やばいです。便所行きたいです」

 美少女が便所って言うの、俺はいける口だわ。

「待っててやるから行って来なよ」
「御意」
「なんで武士なんだよ」

 相変わらずキャラが定まらない美少女なこって。

 俺は別にトイレに用はないので、スマホでも眺めて待っていると、男子生徒が小走りで俺の前を通って行くのがわかった。その時にポケットからスマホが落ちたのが見えたので、反射的にそれを拾う。

「っと」

 流石は運動神経抜群の京太選手。難なくとスマホをキャッチ。

「おいおい。廊下は走るなよ」
「すまん! ありが……」

 お互い顔を見て気まずい空気が流れる。

「陽介……」

 俺の以前の仲間である平野山陽介は、俺が名前を呼ぶと視線を逸らした。

「わりぃな京太。ありがとう」

 言いながら俺からスマホを受け取る。

「いや」

 陽介は視線を逸らしたまま気まずそうな顔をして言ってくる。

「京太……。俺は……」

 陽介が何かを言おうとしたところで、「陽介」と後ろから聞き慣れた男子の声が聞こえてくる。

「悟」

 陽介は気まずそうな顔のまま後ろから来た田中悟の方へと顔を向けた。

「二股クソやろうの陰キャにスマホ触られたんだな。ちゃんとその呪い拭いとけよ」
「あ、ああ……」

 悟は俺を、親が殺されたとでも言いたげな鋭い眼光で睨みつけた。陽介は、「わりぃ」と聞こえるか聞こえないかくらいの声で言って2人は行ってしまった。

「あのやろ。いきなり現れて言いたいことだけ言って行きやがって」

 それにしたって呪いって……。幼稚な例えをする奴だな。そんなこと言う奴だとは思わなかったよ。

 しかし、そんな幼稚な悪口でも、俺はショックを受けてしまっている。

 沈んでいると俺の体を、ベタベタと触ってくる感触があった。

「優乃?」

 トイレから戻って来た優乃が少し怒った顔をして俺の体を触ってくる。

「なに、してんの?」
「京太くんの呪いをもらっています」

 もしかして、さっきの会話を聞いていたのだろうか。

「京太くんの呪いならいくらでももらってあげます。だから大丈夫です。あんな人達の言葉なんて気にしないでください」
「優乃……。ありがとうな」

 彼女なりの優しさが心に染みて、先ほどのことが気にならなくなった。
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