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第16話 想いの変化(東堂優乃視点)

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 お風呂上がり、優美と一緒に身体を拭いて、妹にドライヤーをしてあげる。

 優美の髪の方が短いので、乾くのはわたしよりも早い。

 髪が乾いたら、優美はバスタオルを巻いて脱衣所を出て行った。

 わたしは一旦、ドライヤーを置いてから、髪の毛をタオルドライしていく。 

 そして、高校に入ってから買った、愛用のヘアオイルを絶妙な量を調整して髪になじませる。

 髪の中間から毛先に向かって髪の毛を握るように浸透させていく。

 もう、この技術は陽キャをも凌駕しているだろう。

 仕上げはドライヤー。

 漫画や円盤、フィギュア等を生贄に召喚した高級ナノケアドライヤー。ナノケアはキューティクルが密。乾かすだけでモテ髪高デ可能。

 って、商品に書いてあった。

 確かに、髪の毛はサラツヤで良い感じだけど、高校デビューは……。

 髪の毛を乾かして、手櫛で自分の髪をなでる。

「うん。サラサラ」

 昔の自分の髪が嘘のようにサラツヤな髪の完成。

「寝る前にサラサラでも意味ないか」

 なんて小さく言いつつ、昼間でも見せる相手もいないか、と思い悲しくなる。

 脱衣所を出て、トントントンと家の階段を上がる。

「あ、優乃。暖かくなってきたけど、まだ夜は冷えるんだから、裸でうろうろしない」

 お母さんに見つかってしまい、髪を靡かせて振り返る。

「お母さん。美少女とヌードは付き物ですよ」

 ドヤ顔で言い放つとお母さんはため息を吐いた。

「そりゃあんたは私に似て綺麗だけど、私はあんたみたいにバカじゃないわよ……」
「わたしが……バカ……?」

 あり得ない言葉を受け取るとお母さんは素の顔で言ってくる。

「バカでしょ」

 実の母親が実の子を捕まえてバカとは……。あさはかなり。

「か、仮にわたしがバカだとしたら、バカの分わたしの方が美人度が高いはずです!」
「本当、高校に入ってから見た目だけで自信もっちゃって……」

 お母さんは頭が痛いようなポーズを見せた。

「お母さん? 頭痛が痛いですか?」
「重複語を流暢に使えるのもバカのポイントが高いわね」

 小さく言うとお母さんが少し怒った顔で言い放つ。

「とりあえず早く服来なさい。明日は脱衣所に着替え持って行きなさいよ」
「り」
「本当、誰に似たのかしら……」

 ブツブツ言うお母さんに返答をしてから自室へと入った。

 部屋のクローゼットにある引き出しから、お気に入りのジャージーを着る。

 これはわたしの大好きな、後藤さん家の5姉妹の人気キャラである後藤になのオリジナルジャージー。ポイントは素朴なジャージの胸元に、『後藤に』と書いてあるところだ。ここが凄く良き。

 後藤になは王道的ツンデレキャラだ。このジャージーを着て、乙女ゲーをすると、まるで後藤になが乙女ゲーをしている気分になり、超楽しい。
 もちろん、乙女ゲーだけではなく、ギャルゲーも楽しい。
 というか、ロールプレイングやアクション、FPSとかやると楽しい。てか、ゲームが楽しい。

 学習机に座り、ノートパソコンを起動させようとして手が止まる。

 わたしの視線の先にあったのは、陽キャの巣窟で買った飲み物の容器。

 その容器を見て、昼間のことが一気に蘇ってくる。

「よくよく考えるとわたし、凄かったな」

 DQNがいきなり絡んできて、京太くんが胸ぐら掴んでどうしようってなって頭真っ白になったらいつの間にか京太くんの手握ってた……。

 自分の手を見つめると口元がニヤついた。

「でゅでゅへぉ。京太くんと手握った……」

 京太くんの手の感触、頭真っ白だったから覚えてないな。

 どんな感じだったかな……。

 感覚を思い出そうにも、やっぱり無理だった。

 そうして、わたしが視線を空の容器に戻すと、容器に書かれた文字をもう1度読んだ。

『お似合いのカップルですね♪』
「でゅくし!」

 流れるようにわたしはベッドにダイブする。

 ちなみに、京太くんの容器には、『素敵なカップルですね』と書かれていた。

 でゅ、でゅひへ。

「お似合い、お似合い。京太くんとお似合い」
『優乃』
「しゅわっと!!」

 妄想京太くんボイスがクリアな音でわたしの脳内を駆け巡る。

「優乃て! 優乃てえ!!」

 ドンドンドンドンドンドンとベッドで足をバタつかせる。

 やばいやばい。なんなの? なんなの? あの人なんなの? 流石わたしの中学からの推しなだけある。イケメンかよぉ……。

『優乃』
「あかん!」

 ドンドンドンドンドンドンがやめられない、とめられない。

『優乃ぉ! アニメかゲームか漫画で興奮するのはわかるけど、もう少し静かに悶絶しなさい!』

 強制的停止事項が発令された。

 ドアの前でお母さんの声が聞こえてきて、「さーせん」と答えた後に、「ちな、悶絶は三次元っす」とだけ付け加える。

 お母さんからの返答はなかった。

 ベッドから起き上がる。

 収まらない興奮を抑えつつベッドに腰掛ける。なんとなく髪の毛をいじると、サラサラの髪の毛がある。

 見せる相手がいないけど、見せたい相手ならいる。

「京太くん……。会いたいなぁ……」

 中学の頃は、学校で見れるだけで満足だった。喋れなくても良い。遠くで見ているだけで、わたしはそれだけで良かった。恋心とかじゃない。京太くんに恋をするなんておこがましい。主人公と村娘Cで良いと思った。

 でも……。今のわたしの気持ちは欲深いものになってしまった。

 胸に手を置いて、京太くんのことを思う。それだけで心臓が高鳴る。

「京太くんに会いたいな」

 声に出して呟いた。

 明日になったら会える。わかっているけど、今日はなんだか無性に彼に会いたかった。
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