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第12話 同志

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「ふぅ。これでわたしも陽キャの仲間入りですね」

 大手カフェチェーンの星場、通称スタバでの注文を終えて席に着くと、東堂が達成感たっぷりに言ってのける。

「なんでカフェで注文しただけで陽キャになんだよ」
「わかってないですねぇ。注文だけではなく、わたしはスタバの店員さんと会話もしたのですよ? もはやわたしの陽キャレベルは神をも超えています」
「神なのは店員のお姉さんだろ」
「それは間違いありません。同志でスタバ店員とかまじ神です」
「お前と同志とか最悪だな」
「あなたもわたしと同じ志だというのをお忘れなく」

 返す言葉が出ず、東堂は隼人様風に言うレンコン、もといアイスコーヒーを勝ち誇った顔で飲む。

 そのコーヒーを飲む姿は彼女の容姿と相まって非常に合っている。数人の男性がチラリと東堂を見ている姿が伺える。1番近い距離でその姿を見ている俺は正直、東堂に見惚れた。見た目は良いもんな。

「にがっ……。ちょ、え……。なんすかこれ」

 中身はバカなのが本当に残念だ。

「ミルクとか砂糖とか入れないからだろうが」
「隼人様は入れませんでした」
「だからなんなの?」
「隼人様と同じが良いんです」
「そうっすか。なら、ブラックで良いんじゃない?」

 言いながら、俺はダークモカチップフラッペを飲む。自分好みにカスタマイズしたので、めちゃくちゃ甘い。

「うう……」

 うなり声を出しながら、こちらを睨んでくる東堂。その姿はご主人様にお預けをくらって我慢している子犬のようだ。

「なに?」
「そもそもですよ? なんでボッチ陰キャと来てるのにマウント取ってくるんですか?」
「は? 別にとってないけど」
「取ってるじゃないですか! なんですか!? ダークモカチップフラッペのトールで。エキストラチップマシマシのエキストラホイップマシマシのキャラメルソースマシマシーのマシマシ。マシマシからーのマシマシ。って!」
「エキストラパウダーが抜けてるぞ」
「うっさい! です! なんで陰キャボッチの前で陽キャの呪文唱えるんですか!? 最高魔力でわたしを滅ぼしたいんですか!? 安心してください! もうわたしのライフは0よ!」
「テンションたけぇ」
「ずるいです! そんなものわたしも飲みたいです! 交換してください!」
「んだよ。飲みたいだけか」

 それならそうと素直に言えば良いのに。

「ほら」
「え……」

 東堂は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

「い、良いのですか?」
「ああ。俺はアイスコーヒーも好きだからな」
「ふ、ふん! べ、別にあんたが交換したいなら、してあげるわよ」
「おーい。後藤さん家の5姉妹の後藤になが入ってるぞ」

 言いながら、ダークモカチップフラッペのトールのエキストラチップマシマシのエキストラパウダーマシマシのエキストラホイップマシマシのキャラメルソースマシマシーのマシマシ。マシマシからーのマシマシとアイスコーヒーを交換する。

 交換した時に東堂が、じーっと見てくるので首を傾げる。

「なんだよ。やっぱりこっちの方が良いのか?」
「あ、い、いえ。すみません。そうではなくてですね」

 あわあわとしながら見てきた理由を話してくれる。

「枚方くんって、アニメとか漫画に偏見ないんだなっと思いまして。ほら、陽キャってアニメをバカにしてくるじゃないですか」
「それこそ偏見だろ。別に陽キャもアニメとか漫画が好きな奴多いぞ」
「そ、そうなんですか?」
「そのバカにしてる陽キャってのは、アニメや漫画をバカにしてるんじゃなくて、そいつ自身をバカにしてるんだよ。そうやってマウント取って優越感に浸りたいだけなんだよ。陰湿だよ。そんな奴こそ、俺は本当の陰キャだと思う」
「そ、そそそ、それではわたしは陰キャではないってことですか!?」
「お前はただの変態だ」
「がーん」

 お手製サウンドエフェクトに磨きがかかっている。

 ずーん、と沈んだ様子で、ちゅーちゅーとダーク──以下略。のストローに口をつけた。

「ま、つまりだ。俺もアニメとか漫画好きだから偏見とかはないよ」
「あ」
「俺の名言風の良い話を遮ってくるなよ」

 突如声を漏らして、ぷるぷると震える東堂。

 頬を赤く染めており、耳まで真っ赤になってしまっている。

「お、おい。東堂? 大丈夫か?」
「か、かか、かか」
「サッカー元ブラジル代表のカカ? あの選手は凄かったな」
「間接キスじゃないですか!」
「お。意外とサッカーのルール知ってんだな。間接フリーキックを知ってるとは」
「どうやったら間接キスと間接フリーキックを聞き間違えるんですか!? どんな耳してるんですか!? サッカーが大いに盛り上がるを見せている日本ですが! わたしが盛り上がってるのはサッカーではありません!」
「どないしたん?」
「こ、こここ、これ、間接キスじゃないですか」
「んだよ。そんなことか」

 言いながら俺は東堂のアイスコーヒーを飲む。

「あ、ああ……! ああ……! な、なんでわざわざわたしが口をつけたところから飲むのですか!?」
「そういう性なんだろうな」
「変態じゃないですか!」
「おいおい。『あなたもわたしと同じ志だというのをお忘れなく』なんだろ? 同じ変態同士仲良くしよや」
「ノオオオオオオ!」

 項垂れる東堂へ言ってやる。

「まぁ落ち着けよ変態」
「うるさいです変態」
「それ飲んでみ? そんなことどうでも良くなるくらい甘いから」
「うう……。わたしの純情が……汚されてしまいました」
「お前に純情なんてないだろ」

 自暴自棄になっているかのように、どうとでもなれと言わんばかりにダーク──以下略。飲んだ。

「ひゅわっ! なんですかこれ!?」
「な? 美味しいだろ?」
「美味しすぎて飛ぶぞ!」
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