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第4話 屋上で虚しい昼休み

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 高校デビューって言っても、なにをどうすれば高校デビュー成功と言えるのだろうか。

 友達100人できること? お山でおにぎり嬉しいな? それとも恋人ができて甘い時間を過ごす?

 東堂がなにを求めて高校デビューをしたいと言っているのかは定かではない。

 あいつがなにを求めているかで内容は変わる。

 それに、なんであいつは俺に頼むんだ? もしかして、俺の噂を知らないとか?

 昼休みの教室。東堂は自分の席である廊下側の真ん中の席でボッチ飯を決め込んでいた。

 その様子を真ん中の後ろの席で眺める。

「二股クソやろうが東堂さん見てるぞ」
「二股の次は高嶺の花かよ」
「えー。ないわー」
「しかも、今日も遅刻してきてるし」
「遅刻して来る俺、カッケーってか?」
「あははっ。ウケる」

 喋ったこともないクラスメイトから、コソコソと言われてしまう。

 席を立ち、言ってきたやつらに視線を向けると、そそくさと視線を逸らされて自分達の話題へと戻っていく。

 こいつら、俺がみんなに嫌われてるからって石投げても良いなんて思ってるんだろうな。嫌われてるからなにしても良いってか? ゴミカスが……。

 しかし、ここで喚き散らせば、俺の地まで落ちた評価が地下深くまでいってしまうだろう。

 震える拳をおさえて、なんとか我慢してみせる。

 はぁ……。ボッチ飯。人のことは言えないな。

 壮大なため息を吐くと、俺は弁当を持って教室を後にした。



 昼休みに俺がやって来たのは学校の屋上。

 立ち入り禁止の屋上にやって来たのは、なにも俺がグレて扉を壊して侵入したとかではない。

 2年になり、担任になった紫藤道也しどうみちなり先生が、「気分展開にでも」と俺の様子の異変に気が付いて屋上の鍵を貸してくれた。

 居場所がなくなった俺にはありがたい場所である。

 屋上は殺風景な場所。だだっ広い空間があるだけ。一応、屋上の出入り口である塔屋の上には貯水タンクがあったりはする。

 塔屋の壁によりかかり、あぐらをかいて座る。その足に弁当を置いて広げた。

 お手製の京太弁当。全て俺の手作りだ。

『うおお! 京太あ! すげえ!』
『昔っから料理できるよな』
『へぇ。京太凄いね。嫁になってあげよっか?』
『だめだよ沙織。京太のお嫁さんは綾香だもん。ね? 綾香』
『へへー。自慢の彼氏だよ』

 ふと、1年生の時の記憶が蘇る。

 楽しかった昼休み。みんなで囲んだお弁当。

 もう……あんな楽しい頃には戻れないんだな……。

 昔を思い出し、特製のからあげを食べても味がしなかった。

 ただ、なにかを食べている。そんな感じだ。

 ガチャ。

 すぐ隣の屋上の扉が開いた。

 その音に反応して視線を上げると、タバコをふかした男性教諭である紫藤道成が現れる。

「なんだ。二股くそやろうに先を越されてたか」
「おいクソ教師。いじめ促進を教育委員会にチクってやろうか? おお?」
「ばかが。若い奴はすぅぐ労働基準法だとか、教育委員会だとかの名前を出しやがる。ネットで得た浅はかな知識をひけらかしてイキり立っちゃってまぁ可愛いこった。すみません。チクらないでください」

 流れるような謝罪に、ぷっと吹き出して笑ってみせる。

「そんなことするはずないでしょ。先生いなくなったら、まじで俺の居場所がなくなっちまうよ」
「あ、俺は男に興味ないから」
「俺もないけど!? なんでそんな流れになった!?」
「いやー。彼女に散々な振られ方してそっちに目覚めたのかと」
「目覚めるかっ! 目覚めたとしても、もっと良い男選ぶわっ!」
「おいおい。それは俺が良い男じゃないとでも言いたげたな」
「そう言ってんだけど!?」

 学校内は禁煙なのに余裕でタバコ吸ってるような男なんて、良い男とは言えないだろう。

「まぁそれはそれとして……。枚方よ。大丈夫か?」
「大丈夫そうに見えます?」
「見えんな。全く見えん」

 言いながら、景気良くタバコを吸って、大きく吐いた。

 タバコの独特の匂いがしてくる。

「1年の頃から学年の中心人物。男女共に人気があって、周りの人間は優秀な奴ら。おまけに学年でもトップクラスの彼女持ち。非の打ち所がないほど充実していたお前の学校生活は転落して、ざまぁ。飯うま。昼飯タバコだけで夜まで頑張れるわ」
「あんた。1回まじで教育委員会行っとく?」
「おいおい。俺は優秀な先生なんだぞ? 人を見て絡み方を変えている」

 ヤンキー座りで隣に座られる。タバコの匂いがキツくなる。

「冗談は置いておき、まぁなんだ。人間、生きてたらこういうこともあるさ。人間関係ってのは大人になっても付きまとうもんだ。今を耐えれば将来の役に立つ。人生は波と一緒さ。今、枚方は波の下の方だが、時間が経てば上がっていく。人生ってのはそんなもんさ」
「いきなりまじなこと言ってこないでください」
「お前がまじにヤバそうな顔してたからな」
「まじにヤバそうな顔してる人間をいじってくるなよ」
「お前の場合はこの絡み方で正解だろ。明るくいじられる方が合ってるはずだ」
「……まぁ……。そうっすね」

 なんだか論破されたみたいで、ちょっとだけ悔しかった。

「お前の波が上がるまで屋上は好きに使えば良い。必要がなくなった時、それはお前が現状を打破できた時だ。その時に屋上の鍵を返せ」

 言いながら先生はポケットから缶コーヒーの空き缶を取り出して、タバコをその中に捨てた。

「早く鍵の返却があるのを待ってるよ」

 言い残して先生はタバコの匂いを残して屋上を後にした。

「いつになることやら」

 ため息と共に、タバコ臭い中でのお弁当は、少しだけ味がした。
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