上 下
1 / 61

第1話 彼女に二股されて仲間からもハブられた

しおりを挟む
 繁華街の人混みを流れに沿って歩く。

 春休み目前。もうすぐディナーの時間ということもあり、人の多さは半端ではない。

 目の前を歩くのは若いカップル達。

 手を繋ぐカップル。腕を組むカップル。腰に手を回すカップルまでいる次第。

 仲睦まじく歩く姿は世間へ見せつけているのか、自分達の世界に酔いしれているのか。

 どちらにしろ、別に羨ましくもない。

 これは負け惜しみの妬みじゃない。

 俺こと、 枚方京太ひらかたきょうたにも彼女の1人くらい存在するからだ。

 高校入学では速攻で仲間と呼べる人達ができて楽しい学生生活を過ごしている。そして、高校に入学してから同じグループの可愛い女子から告白をされて付き合うことになった。もうすぐ1年が経とうとしている。

 ただ、付き合うという行為がなにを意味するのか高校生の俺にはわからなかった。

 付き合う前は、デートしたり、キスしたり、エッチしたり……。だなんて単純なことをぼんやり考えるだけだったが、実際はそんなことなかった。

 2人っきりでのデートはしたことがなく、キスなんてしたこともない。だからエッチなんてとんでもない。

 俺も、カフェのバイトで忙しいのと、向こうも忙しいとのことなので、なかなか会う時間というのはなかった。

 高校生の付き合うなんてこんなもんか、程度にだらだら過ごして1年が経過した。仲間達からは、お似合いだとか、おしどり夫婦だとか言われるけど、実感はない。彼女の方は嬉しそうにしていた。

 歩きながら右手に持ったレジ袋をチラリと見た。

 中身は、『美しい国語』や、『優しい算数』と題され小学生向けの参考書。

 親の知り合いの子供の家庭教師を頼まれた。俺は知らない人だが、俺の親の恩人らしく、どうしてもというので引き受けた。

 一応バイト代も出るみたいだし、ちゃんとやらないといけないと思い参考書を買った。

 バイト代が出たら彼女になにか買ってあげるか。

 なんて思っていると。

 ピタッと俺の足が止まった。

 人の流れが止まったわけではなく、俺だけが止まってしまったので、後ろを歩く人から舌打ちをされてしまったが、そんなことを気にしている場合じゃなかった。

 俺の彼女、 糟谷綾香かすたにあやかが知らない男に腰に手を回されて、高級車であるカイエンに乗ろうとしていた。

 綾香に兄はいない。それに、あの手の回し方は家族とか親族とか、そんな感じではない。

「んもぉ。しょうちゃん。手つきえっちだよ?」
「あはは。我慢できなくてな」
「この後いっぱいやるんだから、それまで我慢して。ね?」
「そうだね。今日もいっぱい繋がろう」

 周りを気にしないバカップルなセリフなんていつもならスルーするのだが、この時だけはスルーできなかった。

「綾香。なにやってんだよ」

 彼らに近づいて低い声を出すと、ビクッ! っと肩を震わせて振り返ってくる綾香。

「え、うそ……。京太……」

 彼女の顔は、バレてはいけないことがバレてしまったと言わんとする真っ青な顔色をしていた。

 その顔色で、全てを察してしまい、言葉が出ないでいると、綾香と一緒にいた男がこちらを見てくる。

 イケメンというよりは美男子で、俺よりも少し幼さの残る顔だが、車に乗ろうとしたことから年上と推測できる。

「誰?」

 幼い顔とは裏腹に落ち着いた声でこちらに問いかけてくる。そこは大人の男性といった感じだ。

 お前が誰だよ。

 そんな俺の言葉を遮り綾香が慌てて言った。

「ク、クラスメイトだよ。ただのクラスメイト」
「は?」

 ただのクラスメイト?

 そっちから告白してきて、クラスメイト達に、お似合いやら、おしどり夫婦やらと囃し立てられて嬉しそうにしていたのに?

 訳がわからず、口をぱくぱくしていると男の方が睨んでくる。

「ただのクラスメイトか。きみ、彼女と一緒にいるところに突っこんでくるなんて、もう少し場の空気を読んでくれよ。まぁガキだから仕方ないだろうけどさ」

 超絶上から目線の男に言われるがまま、俺は返す言葉がなかった。

「さ、行こう綾香」

 強引に彼女を引き寄せて、俺の物と言わんアピールをする男に。

「んも。強引だよしょうくん」

 まんざらでもない態度の綾香は、俺の顔を見ながら手を振ってくる。

「じゃ、じゃあね京太」

 そう言ってカイエンに乗り込んだ2人の車を俺は呆然と眺めるしかできなかった。







 この話は、恋愛を知らない男が入学直後に可愛い女の子から告白をされてなんとなく付き合ったら、1年後には二股されていたことに気がついた物語。

 それだけで終わればどれだけ良かっただろうか。

「京太ああああああ!」

 怒号と共に俺の頬を右ストレートが飛んできた。

 1年1組の教室で殴られた俺は、机を薙ぎ倒して勢い良く吹っ飛ばされる。

「見損なったぞ京太」

 殴られた上に幻滅の言葉を投げてくるのは、学校で仲の良い田中悟たなかさとる

「……京太……」

 ただ呆然と俺を見てくるのは1番仲の良い平野山陽介ひらのやまようすけ

「本当。今まで仲良くやってたのにこんなクズだとは思わなかったわ」

 悟の横でゴミを見る目で見てくる女子生徒の野村沙織のむらさおり

「京太。あんなに仲よかったのに……。二股するんなんて最低っ!」

 野村沙織の隣で泣きそうに言ってくるのは中村藍子なかむらあいこ

「うう……。ヒック……。うう……」

 そして、中心で泣いているのは、二股女の糟谷綾香。

 先手をうたれたみたいだ。

 綾香は俺に二股がバレた時のことを考えて、俺が二股をしたことにして悲劇のヒロインを演じようと考えていたみたいだ。

 そして、それが実行された。

 見事、綾香の作戦は成功。

 俺の仲間は、仲間だった人達はみんな綾香に肩入れしてしまった。

「お前の顔なんて見たくない。消えろ」
「……」
「ちょっとかっこいいからって調子乗るなよ二股野郎」
「綾香! 大丈夫だから。私達が付いているから。ね?」
「うう……。みんな、ありがとう……。うう……」

 なんなんだ? この茶番は……。

 なんか……。もう……どうでも良いや。なんでも良い。

 俺とこいつらの絆はその程度だった。それだけだ。

 こうして、高校生活を仲間達と楽しく過ごしていた俺は、彼女に二股されて仲間からもハブられてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました

星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位! ボカロカップ9位ありがとうございました! 高校2年生の太郎の青春が、突然加速する! 片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。 3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される! 「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、 ドキドキの学園生活。 果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか? 笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

こちらを無意識に尊死させようとしてくる東都詩音

すずと
青春
 バイト禁止の学校なのにアルバイトに励む千田陽《せんだよう》はある日、クラスメイトの東都詩音《とうとしおん》にバイトをしているのがバレてしまう。  黙っておいて欲しいと願う陽に対し、誰にも言わないと言う詩音だったが、「口ではなんとでも言えるね。私に考えがある」と言い放った。  詩音の考えとは、陽のアルバイト先で一緒に働くことであった。  自分もバイトをすることにより、陽へ秘密を守る証明になるという考えであった。  この出会いから、陽と詩音の尊い高校生活が始まる。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

処理中です...