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第32話 期末テストの時期がやってきました

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 梅雨の季節も中盤を越し、折り返し時点といったところだろう。
 しかし、ここ最近は晴れ模様を目にしていない為に、梅雨って本当に終わるの? なんて心配に陥る。
 梅雨入りの最初の頃は雨も少なく、本当に梅雨入りかよ、なんて思っていた自分へこの心配を分け与えたい。

 あー。早く梅雨が終わって欲しい。雨の日はバイクに乗るのに手間がかかるから面倒なのだ。
 その分、車なら晴れても曇っても雨の日も大きな変化なく運転出来るから、やっぱり車は便利な文明の力だなと思う。

 実際、今日もアヤノの家に来ているのだが、バイクで来るのが億劫であった。
 それなら電車と徒歩で来たら良いじゃないか、と思うのだが、バイクに乗り慣れた俺としたら、もう電車とか歩くとかがしんどいのだ。
 それならカッパ着てバイクを運転するってなるのである。
 
「涼太郎。紅茶でもいる?」

 放課後。
 アヤノの家のソファーに腰掛けてテレビを見ていると俺の母さんがそう尋ねてくる。

 人様――同級生の女の子の家に俺の母さんがいて、そう聞いてくるなんて自宅か! なんてツッコまれそうである。
 そんな奇妙な光景だが、まぁお互いの職場が同じなので、そんな事もあるわな。
 ちなみにアヤノは帰ってくるなり風呂に入った。アイツってめっちゃ風呂好きなんだよな。
 未来からきた青いタヌキんとこのヒロインかよ。

「んー……。要らない」
「そ。なら私先に上がるから。涼太郎もあんまり綾乃ちゃんとイチャついて帰り遅くならない様にね」

 母さんのいつものからかう様な言い草に、少しだけ心臓が跳ねた。

「し、仕事中にイチャつくかよ!」
「仕事中じゃなかったらイチャつくんだ」
「ちがっ……」

 少し動揺してしまう。

「そう言う意味じゃねーよ」

 俺の動揺に感づいたのか、母さんは小さく笑う。

「ふふ。晩御飯はここで食べるの?」
「あ、ああ……。一応ここで食べても良いって許可おりてるから。どうせ作るなら食って帰るよ」
「そ。材料は適当に買ってあるから。それじゃあお先ー。ごゆっくりー」

 自分の家でもないのにそう言い残して母さんは家に帰って行った。



 手持ち無沙汰の俺は引き続きテレビに目をやる。
 掃除や洗濯関係は母さんがやってくれているし、晩御飯の買い出しも行ってくれたと言っていたのでやる事がない。
 最初の頃なら気を使ってソファーに座ってテレビ見るなんて考えられなかったが、慣れというのは恐ろしいな。

 真剣ではなく、流しみ程度にローカル番組を見ているとリビングへ風呂上がりのアヤノが首にタオルを巻いて入ってくる。

 そして彼女は俺の隣にチョコンと座った。
 シャンプーとかボディソープとか色々良い匂いが漂ってきて、まだ身体は火照っているのか、顔が赤い。
 そんな姿が妙にセクシーに見えてしまった。

「――そ、そういえば、もうすぐ期末テストだな」

 沈黙の中だと変な事を考えてしまいそうなので、何気なくテストの話題を振ってみた。

「そう……だね」

 タオルで髪を拭きながらアヤノは俺の言葉に頷く。

「去年は無かったけど、噂じゃ赤点の教科は夏休みに補習とかあるらしいな。ま、俺らには――アヤノ?」

 タオルで髪を拭いていたはずのアヤノが、まるで静止画の様に一時停止してしまっている。
 
「おーい……。アヤノー」

 呼び掛けても返事がない。

「お嬢様ー」

 目の前で手をブンブンとベタな事をしてみると、再生ボタンを押した様に続きから髪を拭きました。

「噂でしょ?」
「ん? 補習の話?」
「うん」
「まぁ……。聞いた話だから何とも……。でも、気にする必要ないだろ? なんたってアヤノは成績優秀なんだから」

 自分で言ってたし。

「――そう。私は成績優秀。成績優秀……」

 呟いた後に髪を拭くのをやめてこちらを見てくる。

「成績優秀だけど、まだまだ成績伸ばしたいからリョータロー勉強教えて」

 そう言われて俺は鼻を掻きながら照れてしまう。

「ま、まぁ? 自分で言うのも何だけど成績は良いからね、俺。教えるのは得意って程じゃないけど、一緒に勉強してお互いの弱点克服しあうってのもアリだよな」
「弱点克服……。うん。克服しよう」

 拳を作り勉強へ積極的な姿勢を見せる。

「んじゃお互いの苦手教科を言っていこうぜ。俺は英語。アヤノは?」
「――え……。えっと……。数学?」

 自分の事なのに何故か疑問形で答えられる。

「お! なんだ。俺の得意科目が苦手なんか。なら丁度良いな。アヤノの得意科目は?」
「えー……。ええっと……。英語……かな?」
「なんだ! めちゃくちゃ奇遇だな。それなら数学は俺が、英語はアヤノが教えれるな」

 そう言うとアヤノは視線を逸らした。
 その行動の意図することが分からないが、最近よく目を逸らされるので気にはならない。

「んじゃさ。お互いの実力測っておくかー」

 言いながら俺はスマホをいじる。

「実力を測る?」
「中間の点数見せ合おう。実際的にアヤノの平均点知りたいし」

 ウチの学校は学年順位の発表があるにはあるのだが、上位5名のみ掲示板に貼ってくれる。あまり目立つ場所には貼ってくれないのでいつも見に来る生徒は限られているがね。
 昔は全生徒の順位を発表していたみたいだが廃止した様だ。全国的に順位発表をする学校自体減っていっているみたいで、ウチもそれに乗って廃止したみたいだな。
 
 アヤノはその順位発表では見かけた事がないな。
 だから多分……。平均80点位なのかな? 俺が言うといやらしい気もするが、それでも充分優秀な部類である。

「そ、それは不平等じゃない?」

 意外にも俺の案は否定されてしまう。
 もしかしたら、平均80点を見せるのが恥ずかしいとか? 80点なんて誇らしい数字だと思うが……。

「なんで?」
「――リョ……。リョータローの先に見せてくれたら良いよ? だけど、ほら、今持ってないでしょ? だから――」
「――ほい」

 そう言われて俺は彼女にスマホを見せる。

「何?」
「この前の中間テスト。グラフ作ってんだよ。青いのがこの前の中間の点数。赤い線が1年の時からの過去のテストの平均点だな」
「きも……」

 ボソリと俺のスマホを見て呟いた。

「おまっ! 今すっごくナチュラルだったね。もう息をする様にナチュラルに『きも』って言ったね」

 アヤノは引きつった様な顔していた。

「なんでこんな事してるの? 自慢?」
「ちがわいっ! こうやってまとめてると自分の弱点が見えてくるだろ?」
「弱点は英語なんでしょ? もう見えてるんじゃいの?」

 正論を突きつけられる。

「ほ、本音は自己満足だよ。これ作ってると『今回も俺頑張ったー!』って気になって楽しいんだ」

 まぁ自慰行為と一緒だわな。

「きも」
「口悪っ!」

 これ以上言われると俺の身が持たないのでスマホを回収する。

「ともかくこれで平等だろ? 中間のテスト持って来いよ」
「――分かった。でも驚かないでね」
「驚く?」
「リョータローとは住む世界が違う。立つステージが違うっての教えてあげる」

 す、凄い目力だ。眼圧がヤバイ。アヤノの背後からオーラが凄い出ている。
 
 オーラをまとったままに自分の部屋へ向かって行った。

 凄い……。まだオーラが残っている。まだ肌がピリピリとする感じするぜ。

 ここまでのオーラの波動……。もしかしたらアヤノの奴、学年1位よりも上――。

 聞いた事がある。

 俺の学校には学年トップの成績を越えているのにも関わらず教師に頼んで順位表には載せないで欲しいと頼んでいる生徒がいると。
 そいつは毎回テストでは満点を取ってしまう最強の頭脳の持ち主。
 我が校の噂部隊を駆使してもその満点の生徒の特定には至らず。

 付いた名は【A】

 【A】はもしかしたらアヤノのAだったか……。
 
 ふっ……。なんだよ噂部隊。そこまで勘付いていたのか。だが、後は任せておけ。この南方 涼太郎が【A】の正体を暴いてやるからな!

 脳内でそんな事を考えているとリビングへ戻ってきたアヤノの手にはA4のファイルがあった。

 ソファーに再度座りファイルからA4用紙を取り出した。恐らくこの前の中間テストだろう。

 それらを俺へ渡してくる。

 これが満点のテスト……。

 心なし、この紙にもオーラを感じて手が震えてしまうぜ。
 なんだか点数を見るのがめっちゃ怖い。怖いけど見てみたい100点の答案。
 小学生以来100点の答案など見た事ないからな……。

「ふぅ……」
「見ないの?」
「俺のタイミングでいかせてくれ」

 俺の言葉に不審な表情を見せてくるアヤノ。
 そんなアヤノの隣で意を決して俺は答案を同時に――オープン!



 国語――42点
 数学――40点
 英語――45点
 理科――41点
 社会――42点

 ――は?

 俺は目をゴシゴシと擦った後にもう1度点数を見直した。

 国語――42点
 数学――40点
 英語――45点
 理科――41点
 社会――43点

 あ……。社会の点数を見間違えたか――。

「――ってちがーう! 思ってたのと全然ちがーう!」

 俺はアヤノを見る。

「なんでドヤ顔なんだよ!」
「全て赤点を回避している」
「赤点回避してんな! うまい具合にな!」
「成績優秀」
「どこがだよ! 赤点ギリギリの奴がよく言えたな!」
「赤点を避けているのなら成績優秀」
「ま……。まぁ……。そう言えなくはない事もない……。――だからちがーう!」
「さっきから何?」
「これ、おまっ……。え? 教え合うとかの話してたよね?」
「そう。だから私がリョータローに英語教えてあげる」
「いるかっ! 45点の奴から教わる事なんか何もねーよ!」
「そう……。後悔しても知らないから」
「ぜってぇしねーよ」

 俺は壮大に溜息を吐いて手で顔を覆う。
 俺のさっきのドキドキ返してまじで。

「この成績で充分――」
「充分じゃねーだろ」
「――なんだけど……」

 あ、スルーに入りましたかお嬢様。仕方ない。話を聞こう。

「最近何科目か付いていけてなくて……。もしかしたら赤点取っちゃうかもしれないんだよね……」

 そしてアヤノは俺を見る。

「これからのノルマは【赤点回避】でよろ」
「んな!?」
「お仕事頑張ってね」
「頑張るのはお前だよ! ――はぁ……」

 またお嬢様から厳しそうなノルマが課せられましたとさ……。
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