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第40話 父上の本音はやっぱり優しい

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 ロイヤル双子メイドからの解放の後は地雷系熟女との面会かよ。

 しかし、アルバート魔法学園の最高責任者からの呼び出しだ。無視するわけにもいかない。

 それに俺も彼女に用事があるからな。都合は良かった。

 俺の用事というのは学園長の剣だ。フーラ誘拐事件の最中に見つけ、大活躍を見してくれたこの剣の返却にやって来たってわけだ。

「失礼します」

 背中に重たい剣を背負って二回目の学園長室。中に入ると意外な人物がいた。

「父上?」

 学園長と一緒になにかを喋っていたレオン・ヘイヴンは俺の存在に気が付くと相変わらず強者のオーラを放ちながら近づいてくる。

 もしかして学園長先生。親が来てるから呼び出した?

 つうか学園長先生よ、父上と喋って雌の顔になってんだけど。目が♡マークになってんだけど。乙女かよ。

「リオン」

 名前を呼ばれるだけでプレッシャーを感じてしまうのは圧倒的人生経験の差。

 凄い圧だ。

 俺をまじまじと見ると、少しばかり顔を綻ばせてみせた。

「ようやく本気を出した、ということか」

 普段、あまり見せない笑った顔をして言って来る。

「今回の件、アルバート陛下からお聞きしたぞ。大儀であったな」

 結構どでかい事件だったから、父上の耳にまで入っていたか。

 一応、俺は街を救った英雄扱いされちまってるから、王様が英雄の両親に連絡をするのは別におかしいことじゃないよな。

「今回の事件で色々と聞いたぞ。まさかヴィエルジュが行方不明のルージュ王女とは知らなかった。お前はルージュ王女と知っていて保護したのだな」

「はい」

「そうか。私はアルバート王との面識はあったが、王女との面識はなかったからな。見破ることができなかった。まだまだ私も未熟だ」

 言いながら、父上は諭すようにこちらへ質問を投げてくる。

「リオン。なぜ、今まで実力を隠していたのだ?」

 うわぁ。面倒臭い質問キタコレ。

 こういう硬派なタイプは冗談が通用しないから、切り抜けにくいんだよな。

「それは……」

 実力を隠して子供部屋おじさんを決め込むためですとか言ったら、騎士団長の拳が飛んでくる。

 アルバートで受けた拷問とは比較にならない痛さだ。

 つうか、この人は拳だけで世界を物にできると思うんだよな。

 ドーピングして世界を物にしようとしたジュノーは涙目だろうけど、レオンの拳はそれほどまでに痛いのだよ。

「言いにくいことか?」

「……」

 意味深な沈黙を決め込んでやる。

 こういうタイプの人間ってのは冗談が通用しないかわりに、こういう影のあるものに対しては気を使ってくれるもんね。

「過去になにかあったからか?」

「……」

「長男のリーフか? リーフの才能に圧倒されて実力を隠したのか?」

「……」

「長女のレーヴェか? レーヴェもまた才能の塊。妹に嫉妬して実力を隠していたのか?」

「……」

「わかった。次男のライオだ。あいつは執拗にリオンに付きまとったからな。それだろ」

 しつこっ! この人しつこっ!

 なに、この粘着具合。学園長とそっくり。あ、学園長の元カレでしたね、あなた。

 つうか、この現場はなんちゅう気まずい現場なんだよ!

 実父とその元カノがいる現場に三男を呼ぶな! 

 ええい! いい加減その♡マークをやめろ学園長!!

「父上。私は、力配分が苦手なのです。私は手を抜くということができない人間です。ですので、訓練であろうと全力で相手と対峙してしまいます。それ故に相手を殺してしまう恐れがある。だから今まで実力を隠しておりました」

 ウソじゃないよ。本当のこと。ウソだとこの人はすぐ見破るからね。

「そうだったのか」

 よしよし。どうやらこれで通用したようだ。怒ってはいない様子。

「私はリオンがいつになったら実力を発揮してくれるのだと思っていたのだ。だが、お前はいつまでたっても本気を出さない。それが見ていて苦痛でな。実力があるのに隠してなにがしたいのか理解ができなかった。しかし、そんな悩みがあったとはつゆ知らず、冷徹な態度を取ってしまっていたな。父親失格だ。すまぬ」

 ……ふむ。珍しい。父上が弱々しい態度を取っている。

 あれ? これって上手くいけば家に戻れるんじゃない?

「父上。私は追放された身。ですが、此度の経験を踏まえて──」

「ステラシオン騎士学園に転入するか?」

 おいおい。俺の話の腰を折るなよ。

 こちらの会話を奪い去って父上が話を始めやがった。

「今ならまだ騎士学園の席は空いている。お前なら主席で卒業し、すぐに騎士団に入団できるだろう。騎士団に入れば前線で大活躍できる。そしたら私と、いや、私以上の名誉が得られるぞ」

 そんな名誉はいらねーんだよ。

 くっそー。完全に流れを断ち切られた。うまいこと言いくるめれば子供部屋に戻れたってのに、この熱血系の硬派め。

「ち、父上。わ、私は、その、ね。あの。あれです。せっかく魔法学園に入学できましたので、引き続き魔法を勉強したいと思いまして」

 騎士の前線なんて誰が立つかよ。それならこっちにいた方が何倍もマシだわ。

「よくぞ言った我が息子よ」

 ポンっと肩に手を置いて嬉しそうに言ってのける。

「アルバート魔法王国を引き継ぐ気満々なのだな。父は嬉しいぞ」

「え? あの……」

「フーラ王女とヴィエルジュと婚約したと聞いた。私は鼻が高いぞ」

 やっぱりあの王様、そのことも話してやがったか。そりゃ侯爵家の人間からすると鼻が高くもなるわな。相手王族だし。

「しかしだなリオンよ。剣の腕が立つ魔法王国の国王というのも魅力的だとは思わぬか? やはりお前は騎士学園に入学するべきだ」

 なにそれ。脳筋の騎士学園に通って、アルバート魔法王国を継げってこと? 俺にとってはなんの旨味もないじゃないか。

「父上。私は魔法を修行中の身。騎士の家系ですが、一度剣を置くことをお許しくださいませ」

「そうか。うむ……。そもそも私がお前を追放し、この学園に送ったのだ。無理を言ってすまないな」

 耐えたぁ。なんとか最悪な結末は耐えたな。

「シュティア」

 父上は目が♡マークの学園長先生を見た。

「すまぬが。これからも息子を頼むぞ」

「う、うん♡」

 学園長先生。元カノというより、片思いの男子に頼られてめっちゃ嬉しいって感じをモロ出しなんですけど。

「リオン。シュティアは俺の数少ない信用できる仲間だ。困ったことがあったら頼れよ」

「は、はい」

「これからも精進しろよ。なにか入用ならすぐに申せ」

「ありがとうございます」

「いつでも戻って来い」

 最後に優しい言葉を残りして父上は学園長室を出た。

「あーん。レオーン♡♡ また来てねーーーーーー♡♡♡」

 完全に恋する乙女だな学園長先生。

 しかし、父上の言い方的に、なんとも元カノ感はなかったが……。

「先生。本当に父上と付き合ってました?」

「ギクッ!」

 自分で効果音を言うタイプって、大体怪しいよな。

「つ、付き合ってたもん! 付き合ってたもん!! 大事なことだから二回言ったもん!」

「そ、そうですか」

 美魔女の圧が凄すぎてこれ以上の詮索は危険だ。やめておこう。真実を知れば不幸になる。そもそもこいつらの真実なんて微塵も興味ないがな。

「学園長先生。呼び出しの理由ってのは父上が来たからですか?」

 改めて呼び出された理由を聞く。

「それだけじゃない」

 キリッと学園長先生モードに切り替わった。

「我が学園としても此度の活躍は目を見張るものがあった。既に国からの礼はされていると思うが、学園を代表して礼を言う。ありがとう、英雄リオン」

「どうもです」

 なんだ。それだけか。まぁたややこしいことかと思ったわ。

「学園長先生。呼び出されたついでというのは失礼ですが、俺も先生に用事がありまして」

「ふむ。その背名に背負っている大剣のことだな」

「はい」

 俺は背中から大剣を握りしめ彼女へ返そうとする。

「ようやく見つけることが出来ました。お返ししますね」

 背中の剣を渡すと学園長先生は恋する乙女モードに戻る。

「良かったぁ……。これはレオンとの大事な思い出。これがないと──」

 パリン!

 学園長先生が大剣を持った瞬間、剣の刃が砕け散った。

「……」

「……ええっと、学園長先生?」

「あ、あへ、あへへへ、あへへへへへっ!」

 学園長先生が壊れた。

「レオンとの思い出が……思い出がぁ……!!」

「確かに返しましたので!! しっつれいしゃーす!!」

 この場に留まる理はもうない。逃げるが勝ちってやつだわ、これ。
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