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第11話 尊い東都に片思い
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「……んん」
どうやら薬が効いて眠っていたみたいだ。
「にゃっ!?」
目が覚めると、学校の制服にネコミミを付けた東都が目の前にいた。
「なに、してんの……?」
そういえば、東都のネコミミを誰にも見られたくなくて没収してたな。そのまま家で保管していたのを忘れていた。
「や、やや、こ、ここ、これは……」
頭に付けたネコミミを触りながら何か言い訳を模索している様子。
「そこにネコミミがあったから」
「そこに山があったからみたいなノリの返しだね」
「だ、だめかな?」
「いや、別に良いけど」
ネコミミ東都さいこぉ!!
なんて素直に言えないお年頃。
「俺、どんだけ寝てた?」
うーんと伸びをする。まだ関節痛は治っていない。
「二時間くらいかな」
「二時間かぁ……ん?」
部屋を見渡すと、少しばかり違和感があった。
「あれ? もしかして掃除してくれた?」
「うん。勝手にごめんね」
「いやいや。めちゃくちゃありがたいよ。看病もしてくれて、掃除もしてくれてありがとう」
「掃除って言っても全然片付いてたから、そんな大袈裟なもんじゃないけどね」
そう言いながら、彼女は感心するように言ってくれる。
「千田くんは凄いね。一人暮らしなのに家事もちゃんとしてて」
「そんなことないよ」
「いやいや凄いよー。同級生で一人暮らしだなんて尊敬しちゃうよ」
「尊敬される程のもんでないさ。生きるために必死なだけだ」
ついそんな大袈裟な言い方をしてしまった。
「千田くんはどうして一人暮らしをしているの?」
彼女の素朴な疑問に対して、サラッと返しても良かった。
「……」
普段の俺ならば適当に返していただろう。
「小さい頃、さ……」
学校を抜け出してまで看病してくれる東都には聞いて欲しかった。
「父親が蒸発して……それで母親は精神的な病におかされて施設に入っちまった。取り残された俺は親戚の家に預けられた」
「……そう、だったんだね」
唐突に始めた重い話を、東都は親身になって聞いてくれる。
「別に親戚の家になにかをされたわけじゃない。ただ俺に無関心だったからな。自分のことは自分でやらないと生きていけなかった」
親戚の子供を預かるのはストレスだと思う。そう考えると、いじめられなかっただけ俺はまだありがたかった方だと思える。
「高校生になったら一人で生きて行こうって決めてた。仕送りなんてないから高校は特待生制度のある学校を選んだ。成績上位は学費が無償になるから成績は落とせない。生活費はバイトでなんとかなる計算」
「それで、初めて私にバイトがバレた時に必死にお願いしてたんだね」
「ああ。偏差値が高くて成績上位は学費が無償化するところって、バイト禁止ばっかりだったんだよ。どうするか悩んだけど、俺も東都と同じさ」
「私と同じ?」
「大学行きたいからさ。偏差値が高くてバイト禁止の方を選んでこっそりバイトするのを選んだ。バレなきゃバイトしてないのと同じだって精神だ。どうだ、悪いだろ」
「うん。わるわるだね」
話していると、随分と重い話をしてしまったと思い、笑って誤魔化す。
「ま、あーだ、こーだ言ったけど、家族がいない一人暮らしってのは気楽で、良い、もんだよ」
話の締め方が明らかに無理している感じが出てしまった。
こちらの気持ちを察した東都が、優しく俺の手を握ってくれる。
「千田くんの壮大な過去を教えてくれてありがとう。千田くんのこと知れて嬉しいよ」
そう言って優しい母親のような瞳で俺を見てくれる。
「家族はいないかもしれないけど、千田くんには私がいるから」
いつもの俺なら、
それってプロポーズか?
なんて軽口を叩いているのだろう。
だけど、今の俺の口からはそんな軽口は出なかった。
「ありがとう」
「忘れないで。私がいることを……」
そんな言葉をかけてもらったのは初めてで素直に嬉しかった。
それでまた熱が上がったんだから、俺は東都のこと、ひとりの女性として好きなんだと思う。
どうやら薬が効いて眠っていたみたいだ。
「にゃっ!?」
目が覚めると、学校の制服にネコミミを付けた東都が目の前にいた。
「なに、してんの……?」
そういえば、東都のネコミミを誰にも見られたくなくて没収してたな。そのまま家で保管していたのを忘れていた。
「や、やや、こ、ここ、これは……」
頭に付けたネコミミを触りながら何か言い訳を模索している様子。
「そこにネコミミがあったから」
「そこに山があったからみたいなノリの返しだね」
「だ、だめかな?」
「いや、別に良いけど」
ネコミミ東都さいこぉ!!
なんて素直に言えないお年頃。
「俺、どんだけ寝てた?」
うーんと伸びをする。まだ関節痛は治っていない。
「二時間くらいかな」
「二時間かぁ……ん?」
部屋を見渡すと、少しばかり違和感があった。
「あれ? もしかして掃除してくれた?」
「うん。勝手にごめんね」
「いやいや。めちゃくちゃありがたいよ。看病もしてくれて、掃除もしてくれてありがとう」
「掃除って言っても全然片付いてたから、そんな大袈裟なもんじゃないけどね」
そう言いながら、彼女は感心するように言ってくれる。
「千田くんは凄いね。一人暮らしなのに家事もちゃんとしてて」
「そんなことないよ」
「いやいや凄いよー。同級生で一人暮らしだなんて尊敬しちゃうよ」
「尊敬される程のもんでないさ。生きるために必死なだけだ」
ついそんな大袈裟な言い方をしてしまった。
「千田くんはどうして一人暮らしをしているの?」
彼女の素朴な疑問に対して、サラッと返しても良かった。
「……」
普段の俺ならば適当に返していただろう。
「小さい頃、さ……」
学校を抜け出してまで看病してくれる東都には聞いて欲しかった。
「父親が蒸発して……それで母親は精神的な病におかされて施設に入っちまった。取り残された俺は親戚の家に預けられた」
「……そう、だったんだね」
唐突に始めた重い話を、東都は親身になって聞いてくれる。
「別に親戚の家になにかをされたわけじゃない。ただ俺に無関心だったからな。自分のことは自分でやらないと生きていけなかった」
親戚の子供を預かるのはストレスだと思う。そう考えると、いじめられなかっただけ俺はまだありがたかった方だと思える。
「高校生になったら一人で生きて行こうって決めてた。仕送りなんてないから高校は特待生制度のある学校を選んだ。成績上位は学費が無償になるから成績は落とせない。生活費はバイトでなんとかなる計算」
「それで、初めて私にバイトがバレた時に必死にお願いしてたんだね」
「ああ。偏差値が高くて成績上位は学費が無償化するところって、バイト禁止ばっかりだったんだよ。どうするか悩んだけど、俺も東都と同じさ」
「私と同じ?」
「大学行きたいからさ。偏差値が高くてバイト禁止の方を選んでこっそりバイトするのを選んだ。バレなきゃバイトしてないのと同じだって精神だ。どうだ、悪いだろ」
「うん。わるわるだね」
話していると、随分と重い話をしてしまったと思い、笑って誤魔化す。
「ま、あーだ、こーだ言ったけど、家族がいない一人暮らしってのは気楽で、良い、もんだよ」
話の締め方が明らかに無理している感じが出てしまった。
こちらの気持ちを察した東都が、優しく俺の手を握ってくれる。
「千田くんの壮大な過去を教えてくれてありがとう。千田くんのこと知れて嬉しいよ」
そう言って優しい母親のような瞳で俺を見てくれる。
「家族はいないかもしれないけど、千田くんには私がいるから」
いつもの俺なら、
それってプロポーズか?
なんて軽口を叩いているのだろう。
だけど、今の俺の口からはそんな軽口は出なかった。
「ありがとう」
「忘れないで。私がいることを……」
そんな言葉をかけてもらったのは初めてで素直に嬉しかった。
それでまた熱が上がったんだから、俺は東都のこと、ひとりの女性として好きなんだと思う。
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