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第8話 相合傘って尊い
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結局、東都へ全教科を教えてやることになった。
全教科となると一日では無理なため、本日はお開きとなった。
「千田くん、今日はありがとう」
学校の昇降口で東都が改めてお礼を言ってくれる。
「明日はバイト終わりに店長にお願いして店で勉強するか」
「いいの?」
「約束したからな。それにバカ──」
「バカじゃないもん!」
うう! と唸り声を出しながら、可愛らしく俺をポコポコ叩いてくる。
「いて、いて。悪かった。東都はバカじゃない」
「私にバカって言った千田くんには罰があります」
腕を組んで怒った様子で言い放つ。
「千田くんは私と相合傘をして家まで送らないといけません」
「相合傘……」
俺は手に持っていた折りたたみの傘を見ながら彼女に問う。
「傘、忘れたのか?」
「朝は降ってなくて、夕方から晴れる予報だったから」
「アプリの天気予報もそうだったな」
言いながらスマホを取り出して、天気予報のアプリを起動させた。
「あ、このやろ。今更になって夜までずっと雨になってやがる」
「あはは。天気予報って難しいよね」
「だよな」
スマホをポケットにしまい、傘を広げた。
「折りたたみで狭いが、どうぞ」
「えっと……冗談だったんだけど」
「相合傘は冗談だったんだろうけど、この雨の中を傘なしじゃ風邪引いちまう。そんなのは冗談にならん」
「本当にいいの?」
「ま、罰だからな」
「じゃ、じゃあ、えっと、お邪魔します」
東都は遠慮がちに俺の傘の中に入って来る。
いや、余裕ですよー感は出してるけど、正直、こんなかわいい子と相合傘とかめっちゃ照れる。
会話はない。お互いに顔を逸らして歩いてしまっている。
傘に当たる雨の音と、俺の心臓の音がリンクして周りの音だけが聞こえてくる。
「……」
チラリと東都を見る。
傘が小さいから、東都の左肩の部分が濡れてしまっているではないか。
彼女の方へ傘を向ける。
「……えいっ」
それに気が付いた東都が俺にやたら近づいてくる。
「と、東都!?」
肩と肩が触れ合って、やたらめったらドキドキしちまう。
でも東都は俺とは違い、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんね。私に気を使って千田くん、めっちゃ濡れちゃってる」
言われて気が付いたが、俺の右肩はえげつないくらいに濡れていた。
ドキドキしすぎて全然気が付いてなかったな。
「気にすんな。俺はこれくらいじゃ風邪引かないから」
「頑丈なんだね」
「まぁあ」
そんな会話をしながら、また無言で歩き出す。さっきと違うのは、彼女の温もりが肩から伝わってくること。俺の心臓の音、聞かれてないよな?
「そ、そういえば千田くんの家ってどこなの?」
「ああ。ここだ」
「え?」
学校を出て数分歩いた時、ボロボロのアパートを指差して言ってのける。
「ほんと?」
「ほんと。この家で一人暮らしなんだ」
「え? 一人暮らしなの?」
「まぁな」
「高校生で一人暮らしなんて、凄いね」
「そうでもないさ」
そんな会話をしながら自分の住んでいるアパートの前を通り過ぎる。
「帰らないの?」
「送って行くよ。東都の家、ここから近いし」
「でも……」
「相合傘で送る罰だからな」
「そうだったね。だったらお言葉に甘えちゃおう」
こうして俺は東都の家まで相合傘で送ることにした。
一旦、家に戻って傘を貸した方が良いとか無粋なことを思ったのは彼女を送り終えたあとであった。
くしゅん!
全教科となると一日では無理なため、本日はお開きとなった。
「千田くん、今日はありがとう」
学校の昇降口で東都が改めてお礼を言ってくれる。
「明日はバイト終わりに店長にお願いして店で勉強するか」
「いいの?」
「約束したからな。それにバカ──」
「バカじゃないもん!」
うう! と唸り声を出しながら、可愛らしく俺をポコポコ叩いてくる。
「いて、いて。悪かった。東都はバカじゃない」
「私にバカって言った千田くんには罰があります」
腕を組んで怒った様子で言い放つ。
「千田くんは私と相合傘をして家まで送らないといけません」
「相合傘……」
俺は手に持っていた折りたたみの傘を見ながら彼女に問う。
「傘、忘れたのか?」
「朝は降ってなくて、夕方から晴れる予報だったから」
「アプリの天気予報もそうだったな」
言いながらスマホを取り出して、天気予報のアプリを起動させた。
「あ、このやろ。今更になって夜までずっと雨になってやがる」
「あはは。天気予報って難しいよね」
「だよな」
スマホをポケットにしまい、傘を広げた。
「折りたたみで狭いが、どうぞ」
「えっと……冗談だったんだけど」
「相合傘は冗談だったんだろうけど、この雨の中を傘なしじゃ風邪引いちまう。そんなのは冗談にならん」
「本当にいいの?」
「ま、罰だからな」
「じゃ、じゃあ、えっと、お邪魔します」
東都は遠慮がちに俺の傘の中に入って来る。
いや、余裕ですよー感は出してるけど、正直、こんなかわいい子と相合傘とかめっちゃ照れる。
会話はない。お互いに顔を逸らして歩いてしまっている。
傘に当たる雨の音と、俺の心臓の音がリンクして周りの音だけが聞こえてくる。
「……」
チラリと東都を見る。
傘が小さいから、東都の左肩の部分が濡れてしまっているではないか。
彼女の方へ傘を向ける。
「……えいっ」
それに気が付いた東都が俺にやたら近づいてくる。
「と、東都!?」
肩と肩が触れ合って、やたらめったらドキドキしちまう。
でも東都は俺とは違い、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんね。私に気を使って千田くん、めっちゃ濡れちゃってる」
言われて気が付いたが、俺の右肩はえげつないくらいに濡れていた。
ドキドキしすぎて全然気が付いてなかったな。
「気にすんな。俺はこれくらいじゃ風邪引かないから」
「頑丈なんだね」
「まぁあ」
そんな会話をしながら、また無言で歩き出す。さっきと違うのは、彼女の温もりが肩から伝わってくること。俺の心臓の音、聞かれてないよな?
「そ、そういえば千田くんの家ってどこなの?」
「ああ。ここだ」
「え?」
学校を出て数分歩いた時、ボロボロのアパートを指差して言ってのける。
「ほんと?」
「ほんと。この家で一人暮らしなんだ」
「え? 一人暮らしなの?」
「まぁな」
「高校生で一人暮らしなんて、凄いね」
「そうでもないさ」
そんな会話をしながら自分の住んでいるアパートの前を通り過ぎる。
「帰らないの?」
「送って行くよ。東都の家、ここから近いし」
「でも……」
「相合傘で送る罰だからな」
「そうだったね。だったらお言葉に甘えちゃおう」
こうして俺は東都の家まで相合傘で送ることにした。
一旦、家に戻って傘を貸した方が良いとか無粋なことを思ったのは彼女を送り終えたあとであった。
くしゅん!
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