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第7話 先生って呼ばれるの尊い

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 朝、学校に行くと隣の席の東都が浮かない顔をしていた。

「おはよう東都。どうかしたのか?」

「あ、千田くん、おはよう」

 浮かない顔のままの彼女は、そのままの表情で、その理由を教えてくれる。

「もうすぐ期末テストだなぁと思うと気持ちがブルーなのですよ」

 窓の外に広がる空を見上げながら返す。

「晴れ晴れするくらい期末テストが好きなんだな」

「いやいやスカイブルーじゃないから。落ち込んだ時のブルーだから」

「ナイスツッコミ」

 グッと親指を突き立てると、ノリの良い東都は親指を突き立てて返してくれる。

「じゃないよー」

 東都はぐったりと机に突っ伏す。

「なんだ。東都は勉強が苦手なのか?」

「うっ……」

 ぐさっと刺さったみたいで、体をピクッとさせる。

「勉強が苦手というか、数学がちょっぴり……」

「数学ねぇ。俺の得意科目だ」

「そういえば千田くんって学年トップクラスの成績だよね」

「ふっ。俺から醸し出される知性のオーラは隠しきれないか」

「普通にこの間の中間テストの順位で見ただけだよ」

 ジト目で見られる。美少女にジト目で見られるのを尊いと思うのは俺の性癖なのだろうか。

 残念なことに東都はジト目をやめ、手を合わせて懇願してくる。

「お願い。数学教えてくれないかな」

「別にいいよ」

「ほんと!?」

「ああ。今日はバイトもないし。東都もないだろ?」

「うん。今日はお休みもらってる」

「放課後でも良いか?」

「全然おっけー」

 東都は嬉しそうな笑みを見してくれる。

「よろしくお願いします。先生」

 同級生の女の子から先生呼ばわりされるの尊いな。



 放課後。

 約束通り、東都へ数学を教えるため、俺達は図書室を訪れた。

 窓の外はシトシトと雨が降っており、時折、窓に当たる音と、東都のシャーペンをノートになぞる音が静寂の図書室に小さく響いている。

「凄い。こんなにスラスラと公式が解けたの初めて」

 東都が俺をキラキラの目で見てくれる。

「千田くんって教えるの上手なんだね。いいなぁ。これだけ頭良かったら勉強も楽しいんだろうな」

「褒めてもなにもでないぞ」

 ジーッとこちらを見つめてくる東都。

 なにが目的かわからないが、こんだけの美少女に見つめられたら、ついつい思春期男子を発動させて顔を逸らしてしまう。

「お願いっ! 実は全科目赤点ギリギリなの! 他の教科も教えてー!」

「東都って意外とバカ──」

「バカじゃないもん! ちょっぴり勉強が苦手なだけだもん!」

 うう……とかわいらしく睨まれてしまう。

「ごめん、ごめん。教えてやるからその睨み付けはやめてくれ」

「ほんと!? やたー!」

 子供みたいに喜ぶ東都の前に、「コホン」と司書教諭が咳払いをした。

「図書室で騒いだらダメですよ」

「「すみません」」

 謝って互いに目を合わせて笑い合った。

「怒られちゃったね」

「だな」

 そして、また笑い合う。

 東都と一緒なら怒られた気にならないのはなぜだろうか。
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