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第43話 シンデレラ効果をぶっ壊せ!
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誰もいない校舎内。
いや、正確に言えば教師連中や朝練をしている部活生がいるだろう。
誰かがいるのに誰もいないという感覚。これこそが八雲が経験していた世界なのかもしれない。
「こんな世界、嫌だよな」
俺は気持ち足早に屋上への階段を上がって行く。
相変わらず埃っぽくて鼻がむずむずするが、今は感情が昂っているからか、くしゃみをする余裕すらない。
いつもは施錠されているドアに手をかける。くるりとドアノブを回す。
カチャリ。
「やっぱり、ここか」
ドアを開けると相変わらず校内が負圧になっており、強い風がこちらに向かって吹いてくる。その風の中には歌声が混じっていた。
♪~♪~♪♪~。
その歌声は間違いなく俺の大好きな歌手である出雲琴の……いや、俺の大好きな人である日夏八雲の歌声であった。
「八雲……八雲っ!」
俺は彼女の下へと駆け寄った。
「八雲……」
彼女の前に立つが彼女は背を向けたまま歌い続ける。
「八雲。俺は……」
彼女の名前を呼んでも彼女は歌うことをやめない。振り返ってくれない。
「俺は八雲のことが好きだっ!」
どうして良いかわからず、もうシンプルな言葉を相手に放つしかなかった。
「今まで色んなところに行ったよな。今度はさ、歌手とファンとじゃなくてさ、クラスメイトとじゃなくてさ……」
スゥと息を吸ってから欲望を吐き出す。
「恋人として行きたい!!」
歌は止まらない。
「手を繋いでデートしたい!」
歌は止まらない。
「今度はヘタレないから夜を共にしたい! 抱きしめて! キスだってしたい!」
歌は止まらない。
「俺は……八雲が好きだああああああ!」
ごちゃごちゃ言うのをやめて、再度シンプルな言葉を放った時、歌が止まった。
くるりと振り返った時、いちごパンツがおはようをしてくれる。
「私のライブを邪魔するなんて、出雲琴信者としてどうなのかしら?」
「俺は日夏八雲信者だからな」
「……ばか」
「あ、いや、もちろん、出雲琴も好きだぞ。ファンを止めたわけじゃない」
「そういう意味じゃないわよ、ばか」
彼女の瞳から涙が流れていた。
流れた波は床に、ぽとぽとと落ちる。
「うそつき……」
弱々しく放つと不安が爆発したような顔で俺を睨む。
「忘れないって言ったのに……」
「ごめん」
「私、怖かった……。怖かったんだよ? 周りの人が、両親が、私を忘れて……。でも、世津だけは……。世津だけが私の味方で、凄く嬉しかった……のに」
「ごめん」
「それなのに、世津も私を忘れて……私、怖かった……。世津に忘れられるのが一番、嫌だった……」
「ごめん」
震える八雲を抱きしめる。
「離して……」
「離さない」
「離してよ……」
「もう絶対に離さない」
「……じゃあ、証明してよ。私を二度と忘れない証明をしてよ」
そう言われて、俺は無意識に彼女の唇を奪ってしまう。
「んっ……」
ファーストキス。
ただ唇を付けただけの子供のようなキス。
だけど、俺に取っては勇気を振り絞った彼女への証明。
「ぁ……」
唇を離して、真っ直ぐに相手を見つめる。
キスをした後に相手の顔を見るなんて恥ずかしい。八雲もそうなのか、顔が真っ赤になっている。
だけど、ここで顔を逸らすわけにはいかない。
「これが証明じゃだめか?」
「私のファーストキス……」
「俺もだよ」
「ばか。世津のばか」
「嫌だったか?」
「嫌じゃないに決まってるでしょ。ばか世津」
「ばかばかって傷つくなぁ」
「私にそう言われて嬉しいでしょ」
「そりゃ、まぁ、好きな人だからな」
「……本当に私のこと好きなの?」
「うそ」
「え……」
「大好き」
「……世津の分際でムカつく」
「俺如きがロマンチックな告白するのはムカつく?」
「ムカつくわよ。世津の分際で、ギュッと抱きしめてくれて、キスしてくれて、こんなに理想的な告白なんてないわよ」
怒っているのか、喜んでいるのか、それとも両方なのか。
八雲は感情がめちゃくちゃになった顔で見つめてくる。
「これだけは言わせてもらうわね」
「なに?」
「私の方が世津のこと大好きなんだから」
そう言った後に俺の唇を奪ってくる。
セカンドキスはファーストキスよりも甘くとろけるような時間が流れた。
いや、正確に言えば教師連中や朝練をしている部活生がいるだろう。
誰かがいるのに誰もいないという感覚。これこそが八雲が経験していた世界なのかもしれない。
「こんな世界、嫌だよな」
俺は気持ち足早に屋上への階段を上がって行く。
相変わらず埃っぽくて鼻がむずむずするが、今は感情が昂っているからか、くしゃみをする余裕すらない。
いつもは施錠されているドアに手をかける。くるりとドアノブを回す。
カチャリ。
「やっぱり、ここか」
ドアを開けると相変わらず校内が負圧になっており、強い風がこちらに向かって吹いてくる。その風の中には歌声が混じっていた。
♪~♪~♪♪~。
その歌声は間違いなく俺の大好きな歌手である出雲琴の……いや、俺の大好きな人である日夏八雲の歌声であった。
「八雲……八雲っ!」
俺は彼女の下へと駆け寄った。
「八雲……」
彼女の前に立つが彼女は背を向けたまま歌い続ける。
「八雲。俺は……」
彼女の名前を呼んでも彼女は歌うことをやめない。振り返ってくれない。
「俺は八雲のことが好きだっ!」
どうして良いかわからず、もうシンプルな言葉を相手に放つしかなかった。
「今まで色んなところに行ったよな。今度はさ、歌手とファンとじゃなくてさ、クラスメイトとじゃなくてさ……」
スゥと息を吸ってから欲望を吐き出す。
「恋人として行きたい!!」
歌は止まらない。
「手を繋いでデートしたい!」
歌は止まらない。
「今度はヘタレないから夜を共にしたい! 抱きしめて! キスだってしたい!」
歌は止まらない。
「俺は……八雲が好きだああああああ!」
ごちゃごちゃ言うのをやめて、再度シンプルな言葉を放った時、歌が止まった。
くるりと振り返った時、いちごパンツがおはようをしてくれる。
「私のライブを邪魔するなんて、出雲琴信者としてどうなのかしら?」
「俺は日夏八雲信者だからな」
「……ばか」
「あ、いや、もちろん、出雲琴も好きだぞ。ファンを止めたわけじゃない」
「そういう意味じゃないわよ、ばか」
彼女の瞳から涙が流れていた。
流れた波は床に、ぽとぽとと落ちる。
「うそつき……」
弱々しく放つと不安が爆発したような顔で俺を睨む。
「忘れないって言ったのに……」
「ごめん」
「私、怖かった……。怖かったんだよ? 周りの人が、両親が、私を忘れて……。でも、世津だけは……。世津だけが私の味方で、凄く嬉しかった……のに」
「ごめん」
「それなのに、世津も私を忘れて……私、怖かった……。世津に忘れられるのが一番、嫌だった……」
「ごめん」
震える八雲を抱きしめる。
「離して……」
「離さない」
「離してよ……」
「もう絶対に離さない」
「……じゃあ、証明してよ。私を二度と忘れない証明をしてよ」
そう言われて、俺は無意識に彼女の唇を奪ってしまう。
「んっ……」
ファーストキス。
ただ唇を付けただけの子供のようなキス。
だけど、俺に取っては勇気を振り絞った彼女への証明。
「ぁ……」
唇を離して、真っ直ぐに相手を見つめる。
キスをした後に相手の顔を見るなんて恥ずかしい。八雲もそうなのか、顔が真っ赤になっている。
だけど、ここで顔を逸らすわけにはいかない。
「これが証明じゃだめか?」
「私のファーストキス……」
「俺もだよ」
「ばか。世津のばか」
「嫌だったか?」
「嫌じゃないに決まってるでしょ。ばか世津」
「ばかばかって傷つくなぁ」
「私にそう言われて嬉しいでしょ」
「そりゃ、まぁ、好きな人だからな」
「……本当に私のこと好きなの?」
「うそ」
「え……」
「大好き」
「……世津の分際でムカつく」
「俺如きがロマンチックな告白するのはムカつく?」
「ムカつくわよ。世津の分際で、ギュッと抱きしめてくれて、キスしてくれて、こんなに理想的な告白なんてないわよ」
怒っているのか、喜んでいるのか、それとも両方なのか。
八雲は感情がめちゃくちゃになった顔で見つめてくる。
「これだけは言わせてもらうわね」
「なに?」
「私の方が世津のこと大好きなんだから」
そう言った後に俺の唇を奪ってくる。
セカンドキスはファーストキスよりも甘くとろけるような時間が流れた。
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