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第22話 これが、何が起ころうとも嫌いになることはないこと
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「いけいけー!」
「まわれ、まわれー!」
さて、試合が始まったわけだが、こりゃまた酷い試合だ。
エラー、暴投は当たり前。外野が投げた球が明後日の方向に行ったり、ランナーに球が当たったりしている。
「これが野球。思ってたのと違うわね」
「日夏が思っているのはプロ野球。俺達がしているのは草野球だ」
そりゃプロ野球ってのは野球漬けの毎日を送った選ばれし者が集まるエンタメみたいなもんだ。上手くて当たり前。
こっちは趣味でやってるから下手で当たり前だ。
「でもさ、見てみろよ日夏。みんな楽しそうだろ?」
守っているおっちゃんも、バッターボックスに立つ先輩も、みんなが楽しそうにしているのがわかる。
「そうね。みんな笑って楽しそうね」
「だろ。これが野球だよ。ほら、次、日夏の番だぞ」
「私も打つの?」
「そういうルールだな」
「日夏さん。はい、バット」
横から楓花がバットを日夏へ手渡した。
「どうするかわかる?」
「ええ。なんとなくやってみる」
ヘルメットを被り、バットを持って左バッターボックスに入る日夏。お前、左打ちかよ。
「そ•れ•で?」
トンっと軽やかに隣に立つ楓花が、ポンっと俺の左肩に手を置いた。
「色々と聞きたいことがあるんですけども?」
「なんのこと?」
「日夏さんのこと」
「なんで日夏?」
「そりゃ幼馴染として、いきなり日夏さんを連れて来たら気になりますとも」
「そういうもん?」
「あたしが、いきなりクラスメイトの男子と仲良さそうにしてたら気にならない?」
「気になる」
「そゆこと」
「なーる」
これが幼馴染というものか。
「しかも、日夏さんってば眼鏡外して美人が超絶美人になってるし。なに? 付き合ってるの?」
「そう見える?」
「質問を質問で答えないでくれるかな? 世津くんはテスト問題に疑問文で返すタイプ?」
今日の楓花はすごく怖かった。
「付き合ってません。ちょっと色々とありまして」
本当なら楓花にも相談したいところだ。だが、日夏が出雲琴だなんて勝手に言ってしまったら、今度こそ日夏は口をきいてくれなくなるだろう。
「ふぅん。ちょっと色々ねぇ」
なんだかすごくホラームーブを見してくる楓花。だが、ため息を吐くと、すぐにいつもの犬みたいな顔になる。
「まぁ色々は色々なんだろうけどね。付き合ったりしたら言ってよね。あたし、世津くんと仲良いんだし、日夏さんに嫉妬されても困る」
「楓花も誰かと付き合えば教えろよ」
「世津くんには教えなーい」
「えー。教えろよー」
「べー」
小学生みたいな、あっかんべーを頂いたところで、ゴンと鈍い金属音が響き渡った。
みんなしてグラウンドに注目すると、日夏の打った打球はサードの方へ転がっている。
「四ツ木くーん! この後、どうするのー!?」
「一塁に向かって走れー!」
「えー! 走るのー!?」
日夏はぶつくさと文句を言いながら走る。
女の子走りで、ドタドタと走る姿は鈍足である。
見た目に反して運動神経はあまり良いとは言えないみたいだ。それでよくボールをバットに当てたものだ。
しかし、サードの人がお手玉しちゃって、もたもたしている間に内安打。あんな鈍足の内安打見たことねぇわ。
「日夏さーん! ナイバッチ!」
「ナイラン!!」
「さいこおぉおぉ!」
先輩達がベンチより日夏へ声をかけると、彼女はドヤ顔で腕を大きく上げていた。
楽しそうでなりよりだ。
「次、世津くんだよ」
「あ、俺?」
楓花に言われ、慌ててヘルメットとバットを持って左打席に入る。
「なんや、にいちゃんも左バッターかいな」
キャッチャーのおっちゃんが声をかけてくれるので、ニコッと笑顔で答える。
「お手柔らかにお願いします」
「よっしゃ、全力や! おい、手加減はいら
ん。本気で投げ込んで来い」
「ええー。性格わるー」
がっはっはっとおっちゃんらしい笑いが飛んでくる。
「男には試練が付きもんや。ピッチャーやっとるおっちゃんの本気の球を打って、女の子にかっこいいところ見せたりや。どっち狙いかは知らんけど。ま、打てたらの話やけどな」
「試練ねぇ」
なんでおっちゃんが草野球で試練を与えてくるのか意味不明だが、おっちゃんってのは意味不明だから面白いんだよな、とか自己解決してバットを構える。
相手ピッチャーは今まで手を抜いていたみたい。
いきなり本気で投げて来る。
ピッチャーのおっちゃんは野球経験者だったんだろう。
綺麗なフォームから投げ出されたのは、一三〇くらいのストレート。
速いストレートが内角低めにコントロールされたストライクゾーンギリギリに投げ込まれる。
でも、そこは俺の大得意のコース。
カキーン!!
打球は大きく青空に向かって飛んで行く。
青い空に白いボールは良く目立つ。
ボールはライトオーバーにどこまでも飛んで行き、ぽちゃんと一級河川の淀川へと吸い込まれていった。
俺はゆっくりと一塁に向かって走っていくと、目の前の日夏が俺の打球を見たまま固まっていた。
「日夏。次は二塁に進むんだ。ゆっくりで良いからな」
「え、あ、うん」
声をかけると、唖然とした返事をされて二塁へ向かって走る。
俺はその後ろを付いていくように走る。前のランナーを追い抜かすとアウトになっちまうからな。ま、草野球でそんな細かいルールなんて気にしないと思うが。
「ね、四ツ木くん。凄い飛んだわね」
「凄いだろ」
「うん。本当に凄いわ。ボールってあんなに飛ぶのね」
若干、興奮気味の日夏へ俺も声をかけてやる。
「日夏だって凄いよ。初めてでバットにボールが当たるだけでも凄い」
「ふっ。醸し出される才能、かしらね」
結構、調子に乗るタイプなんだね。
「ね、四ツ木くん。野球って楽しいわね」
「だろ」
「ええ。とっても、楽しいわ」
「まわれ、まわれー!」
さて、試合が始まったわけだが、こりゃまた酷い試合だ。
エラー、暴投は当たり前。外野が投げた球が明後日の方向に行ったり、ランナーに球が当たったりしている。
「これが野球。思ってたのと違うわね」
「日夏が思っているのはプロ野球。俺達がしているのは草野球だ」
そりゃプロ野球ってのは野球漬けの毎日を送った選ばれし者が集まるエンタメみたいなもんだ。上手くて当たり前。
こっちは趣味でやってるから下手で当たり前だ。
「でもさ、見てみろよ日夏。みんな楽しそうだろ?」
守っているおっちゃんも、バッターボックスに立つ先輩も、みんなが楽しそうにしているのがわかる。
「そうね。みんな笑って楽しそうね」
「だろ。これが野球だよ。ほら、次、日夏の番だぞ」
「私も打つの?」
「そういうルールだな」
「日夏さん。はい、バット」
横から楓花がバットを日夏へ手渡した。
「どうするかわかる?」
「ええ。なんとなくやってみる」
ヘルメットを被り、バットを持って左バッターボックスに入る日夏。お前、左打ちかよ。
「そ•れ•で?」
トンっと軽やかに隣に立つ楓花が、ポンっと俺の左肩に手を置いた。
「色々と聞きたいことがあるんですけども?」
「なんのこと?」
「日夏さんのこと」
「なんで日夏?」
「そりゃ幼馴染として、いきなり日夏さんを連れて来たら気になりますとも」
「そういうもん?」
「あたしが、いきなりクラスメイトの男子と仲良さそうにしてたら気にならない?」
「気になる」
「そゆこと」
「なーる」
これが幼馴染というものか。
「しかも、日夏さんってば眼鏡外して美人が超絶美人になってるし。なに? 付き合ってるの?」
「そう見える?」
「質問を質問で答えないでくれるかな? 世津くんはテスト問題に疑問文で返すタイプ?」
今日の楓花はすごく怖かった。
「付き合ってません。ちょっと色々とありまして」
本当なら楓花にも相談したいところだ。だが、日夏が出雲琴だなんて勝手に言ってしまったら、今度こそ日夏は口をきいてくれなくなるだろう。
「ふぅん。ちょっと色々ねぇ」
なんだかすごくホラームーブを見してくる楓花。だが、ため息を吐くと、すぐにいつもの犬みたいな顔になる。
「まぁ色々は色々なんだろうけどね。付き合ったりしたら言ってよね。あたし、世津くんと仲良いんだし、日夏さんに嫉妬されても困る」
「楓花も誰かと付き合えば教えろよ」
「世津くんには教えなーい」
「えー。教えろよー」
「べー」
小学生みたいな、あっかんべーを頂いたところで、ゴンと鈍い金属音が響き渡った。
みんなしてグラウンドに注目すると、日夏の打った打球はサードの方へ転がっている。
「四ツ木くーん! この後、どうするのー!?」
「一塁に向かって走れー!」
「えー! 走るのー!?」
日夏はぶつくさと文句を言いながら走る。
女の子走りで、ドタドタと走る姿は鈍足である。
見た目に反して運動神経はあまり良いとは言えないみたいだ。それでよくボールをバットに当てたものだ。
しかし、サードの人がお手玉しちゃって、もたもたしている間に内安打。あんな鈍足の内安打見たことねぇわ。
「日夏さーん! ナイバッチ!」
「ナイラン!!」
「さいこおぉおぉ!」
先輩達がベンチより日夏へ声をかけると、彼女はドヤ顔で腕を大きく上げていた。
楽しそうでなりよりだ。
「次、世津くんだよ」
「あ、俺?」
楓花に言われ、慌ててヘルメットとバットを持って左打席に入る。
「なんや、にいちゃんも左バッターかいな」
キャッチャーのおっちゃんが声をかけてくれるので、ニコッと笑顔で答える。
「お手柔らかにお願いします」
「よっしゃ、全力や! おい、手加減はいら
ん。本気で投げ込んで来い」
「ええー。性格わるー」
がっはっはっとおっちゃんらしい笑いが飛んでくる。
「男には試練が付きもんや。ピッチャーやっとるおっちゃんの本気の球を打って、女の子にかっこいいところ見せたりや。どっち狙いかは知らんけど。ま、打てたらの話やけどな」
「試練ねぇ」
なんでおっちゃんが草野球で試練を与えてくるのか意味不明だが、おっちゃんってのは意味不明だから面白いんだよな、とか自己解決してバットを構える。
相手ピッチャーは今まで手を抜いていたみたい。
いきなり本気で投げて来る。
ピッチャーのおっちゃんは野球経験者だったんだろう。
綺麗なフォームから投げ出されたのは、一三〇くらいのストレート。
速いストレートが内角低めにコントロールされたストライクゾーンギリギリに投げ込まれる。
でも、そこは俺の大得意のコース。
カキーン!!
打球は大きく青空に向かって飛んで行く。
青い空に白いボールは良く目立つ。
ボールはライトオーバーにどこまでも飛んで行き、ぽちゃんと一級河川の淀川へと吸い込まれていった。
俺はゆっくりと一塁に向かって走っていくと、目の前の日夏が俺の打球を見たまま固まっていた。
「日夏。次は二塁に進むんだ。ゆっくりで良いからな」
「え、あ、うん」
声をかけると、唖然とした返事をされて二塁へ向かって走る。
俺はその後ろを付いていくように走る。前のランナーを追い抜かすとアウトになっちまうからな。ま、草野球でそんな細かいルールなんて気にしないと思うが。
「ね、四ツ木くん。凄い飛んだわね」
「凄いだろ」
「うん。本当に凄いわ。ボールってあんなに飛ぶのね」
若干、興奮気味の日夏へ俺も声をかけてやる。
「日夏だって凄いよ。初めてでバットにボールが当たるだけでも凄い」
「ふっ。醸し出される才能、かしらね」
結構、調子に乗るタイプなんだね。
「ね、四ツ木くん。野球って楽しいわね」
「だろ」
「ええ。とっても、楽しいわ」
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