オーセンスハート

大吟醸

文字の大きさ
上 下
6 / 20
1

その歳で煙草の良し悪しについて語る  後編

しおりを挟む
夜。

賑わっていた街中は顔色を変え、動力石で稼働している様々な淡い色の街灯が足元を照らす。
いかにルディロスのような大国でもそれなりに行き交う人は少ない。
繁華街を除いた場所では灯りをつけている家々はほぼなくいつもの静かな夜。
だが、カンナギ達にしてみればこの人気の少なくなる時間帯が絶好の活動時間だ。
古めかしい一軒家には未だ明かりがついていた。

「さて、今回の依頼は二人も知っているように、無償での護衛だ。
護衛対象者は一人。ソーサレスの少女、名前はニル。
内容は無期限時間フルタイムの交代制待機護衛、襲撃予測不能、敵不特定多数」

長細いテーブルを挟んでカンナギが重さを感じないテキパキとした口調を続ける。
ただ、『無償』という単語のときだけ一瞬言葉に怒気が感じられた。

「か~っ!!!いつ来るかもどない人数来るかもわからへん。
久しぶりに辛いタイプの仕事やなぁ……」

煙草を吸いながら机に脚を投げ出すザッシュと、そのだらしない格好に呆れてものも言えないミリノ。
どうせ文句を言っても、『その歳で煙草の良し悪しについて語るなんて100年はあまーい!!』などと
言われるのがオチだ。
ふたつしか歳が違わないのだが。

「ひとつだけ分かっているのは妙に勢力ばったものかも知れない、ということだ」
「なんで?」
「イダーで襲ってきたヤツら、見る限りではファイターとレンジャーしかいなかっただろう?」

用意されたナッツ類に手を伸ばしながらミリノのほうへと視線を流した。

「……そういえばそうだったわね」
「一緒くたの職業を望むのはなんらかの依頼かなにかしかない。
それも殺しにきた以上、表立ったものではない……な」

「裏に誰かいるとでも?」
「わからない」
「大人数言うたろ?昨日の今日や、いくらなんでも砂漠の真ん中でポータル使ぉた人間を探すのは一苦労やと思うで」

ザッシュが口から織りなす煙に対しミリノは顔をしかめた。
確かに一理ある。埋まったアリシアまで見つけられたとしてもその先のアジトまでの足跡は全くない。
普通ならお手上げなところだ。

「なんしか、前と同じ一人あたま8時間おきか?」
「そうだ、10時から18時をミリノ。18時から2時をザッシュ。2時から10時を俺が担当。
顔が割れている俺とミリノ、特にニルは外出厳禁。その為、ザッシュに買い出しを頼みたい」
「ほいなっ♪」

「あ、じゃあ料理はアタシ―――――――」
「料理は俺が作る」

突如、能面のように無表情になるカンナギとザッシュ。
もはやカンナギの言葉も一切の感情が消えうせていた。

「え?い、いや夕方からヒマになるし、アタ―――――――」
「料理は俺が作る」
「いや、ちょっとくらいア―――――――」
「料理は俺が作る」
「ちょっ―――――――」
「料理は俺が作る」
「…………」
「料理は俺が作る。異存は?」
「…………ないです」

(っしゃあぁ!!!!!!)

「ザッシュ、今心の中でガッツポーズしたでしょ?」
「してへん、してへん」

その言葉もほぼ平衡だった。

「ここを拠点にするが、あくまでニルの安全が最優先だ、そこを忘れないでくれ。
可能なら襲う理由も詳しく吐かせたいところだが無理強いはするなよ」
「O・K」
「ほいな」

「で、問題の姫君は?」
「も~風呂上がったらグッスリ。白雪姫もビックリの気持ち良さそうな寝顔だったわ」

ミリノの一言に、眼を光らせた男がひとり。

「なんやて!?せやったらワイの口付けで永き眠りから」

二つの眼光が身長のやたらデカイ男を睨む。

「その前にアンタから永眠させてあげようか?」
「お、王子の口付けは勘弁な……」
「レッドとブルー……どっちのエレメンタルの口付けがいい?」
「それは外から死ねと?中から死ねと?」
「そろそろ黙っておけよ」「そろそろ黙りなさいよ」
「…………」

技師のおちゃらけた内心は、『口を開いた瞬間、本当に実行するぞ』と語る二つの眼力によって冷めた。
余談だがこの日、ザッシュは日にちが次の日になるまで本当に一言も喋らなかったという。


「……れは…ど…」
「ん?」

午前1時45分。
そろそろザッシュと交代する為にキッチンに向かっていたカンナギはふと立ち止まる。
目の前にあるのは来客用の個室の扉。
普段めったに使われることのない部屋なのだが今日は違う。
あの少女がいる。それだけなら別に気にする必要は何も無い。

問題は『起きている時刻』と『中にいる人数』。

(なんでこんな時間に起きてるんだ?)

「…ント…だって、そ……か………かった…」
独り言とは違う。何者かに問いかける声。

(ミリノ?)

そんなわけがない。
ついさっきまで自分と一緒の部屋で大股開いて雑魚寝していたのだから。
扉に近づいて耳をそばだてる。

「キミは気付いてたの?……そう、それで〝ミリノの誘いに乗れ〟って急に言い出したんだね。
うん……うん、わかってる」


「ナギ君本人にも隠しておくんだね?うん、わかった」

(俺…?)

「でも、びっくりだよ……まさか」
(一体なにを言って―――――――)

「ナギ君も核石を持ってるなんて」

(………え?)

とんでもない事を、聞かされた気がした。
「ふぅわ、うん…眠いよ。キミが起こしたんじゃないか、ひどいね…寝てたのに」

古びたベットが軋む音が中から漏れてくる。

「うん、もうすぐナギ君がここ通るハズだから、うん…おやすみなさい、〝ミスティ〟」

(………っ)

これ以上ここにいたらバレる。
音をたてずにその場を去った。


(俺が…ニルと同じ……?どういう意味だ………?)



渇きと灼熱の都、イダー。
月夜が眩しいほどの夜道に、月のように色白い科学者風体の男は佇んでいた。

「・・・役に立たなかったカ。仕様がないナ」

足元にはファイターやレンジャー『だったもの』が地面に転がっていた。

「まぁいイ。場所が割れただけでも良しとしヨウ」

静かに右手を挙げると地面を擦る鈍い音を立てて男の3、4倍の身の丈はある異形が数体寄って来る。

「ワタシは『実験材料』だけは無駄にしない男でネ、君達のその骸も有効に使わせてもらうヨ」

パチン、と指を鳴らし、踵を返す。
異形が顎を嬉しそうに開き、だらだらと涎を垂らした。
ゴリゴリと耳を嫌に刺激する音が静かな空間に響くと共に特有の生ぬるい風が異臭を運ぶ。

数秒経過すると先ほどまであった物は跡形もなくなくなり
朱を含んだどす黒い水たまりのみ月夜に照らされた。

「イダーの次はルディロス、カ……。ポータル代もバカにならないナ」

背後から響いていた咀嚼音に浸りながら、闇に浮かぶ満月に狂った笑いを漏らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...