オーセンスハート

大吟醸

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その歳で煙草の良し悪しについて語る  後編

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夜。

賑わっていた街中は顔色を変え、動力石で稼働している様々な淡い色の街灯が足元を照らす。
いかにルディロスのような大国でもそれなりに行き交う人は少ない。
繁華街を除いた場所では灯りをつけている家々はほぼなくいつもの静かな夜。
だが、カンナギ達にしてみればこの人気の少なくなる時間帯が絶好の活動時間だ。
古めかしい一軒家には未だ明かりがついていた。

「さて、今回の依頼は二人も知っているように、無償での護衛だ。
護衛対象者は一人。ソーサレスの少女、名前はニル。
内容は無期限時間フルタイムの交代制待機護衛、襲撃予測不能、敵不特定多数」

長細いテーブルを挟んでカンナギが重さを感じないテキパキとした口調を続ける。
ただ、『無償』という単語のときだけ一瞬言葉に怒気が感じられた。

「か~っ!!!いつ来るかもどない人数来るかもわからへん。
久しぶりに辛いタイプの仕事やなぁ……」

煙草を吸いながら机に脚を投げ出すザッシュと、そのだらしない格好に呆れてものも言えないミリノ。
どうせ文句を言っても、『その歳で煙草の良し悪しについて語るなんて100年はあまーい!!』などと
言われるのがオチだ。
ふたつしか歳が違わないのだが。

「ひとつだけ分かっているのは妙に勢力ばったものかも知れない、ということだ」
「なんで?」
「イダーで襲ってきたヤツら、見る限りではファイターとレンジャーしかいなかっただろう?」

用意されたナッツ類に手を伸ばしながらミリノのほうへと視線を流した。

「……そういえばそうだったわね」
「一緒くたの職業を望むのはなんらかの依頼かなにかしかない。
それも殺しにきた以上、表立ったものではない……な」

「裏に誰かいるとでも?」
「わからない」
「大人数言うたろ?昨日の今日や、いくらなんでも砂漠の真ん中でポータル使ぉた人間を探すのは一苦労やと思うで」

ザッシュが口から織りなす煙に対しミリノは顔をしかめた。
確かに一理ある。埋まったアリシアまで見つけられたとしてもその先のアジトまでの足跡は全くない。
普通ならお手上げなところだ。

「なんしか、前と同じ一人あたま8時間おきか?」
「そうだ、10時から18時をミリノ。18時から2時をザッシュ。2時から10時を俺が担当。
顔が割れている俺とミリノ、特にニルは外出厳禁。その為、ザッシュに買い出しを頼みたい」
「ほいなっ♪」

「あ、じゃあ料理はアタシ―――――――」
「料理は俺が作る」

突如、能面のように無表情になるカンナギとザッシュ。
もはやカンナギの言葉も一切の感情が消えうせていた。

「え?い、いや夕方からヒマになるし、アタ―――――――」
「料理は俺が作る」
「いや、ちょっとくらいア―――――――」
「料理は俺が作る」
「ちょっ―――――――」
「料理は俺が作る」
「…………」
「料理は俺が作る。異存は?」
「…………ないです」

(っしゃあぁ!!!!!!)

「ザッシュ、今心の中でガッツポーズしたでしょ?」
「してへん、してへん」

その言葉もほぼ平衡だった。

「ここを拠点にするが、あくまでニルの安全が最優先だ、そこを忘れないでくれ。
可能なら襲う理由も詳しく吐かせたいところだが無理強いはするなよ」
「O・K」
「ほいな」

「で、問題の姫君は?」
「も~風呂上がったらグッスリ。白雪姫もビックリの気持ち良さそうな寝顔だったわ」

ミリノの一言に、眼を光らせた男がひとり。

「なんやて!?せやったらワイの口付けで永き眠りから」

二つの眼光が身長のやたらデカイ男を睨む。

「その前にアンタから永眠させてあげようか?」
「お、王子の口付けは勘弁な……」
「レッドとブルー……どっちのエレメンタルの口付けがいい?」
「それは外から死ねと?中から死ねと?」
「そろそろ黙っておけよ」「そろそろ黙りなさいよ」
「…………」

技師のおちゃらけた内心は、『口を開いた瞬間、本当に実行するぞ』と語る二つの眼力によって冷めた。
余談だがこの日、ザッシュは日にちが次の日になるまで本当に一言も喋らなかったという。


「……れは…ど…」
「ん?」

午前1時45分。
そろそろザッシュと交代する為にキッチンに向かっていたカンナギはふと立ち止まる。
目の前にあるのは来客用の個室の扉。
普段めったに使われることのない部屋なのだが今日は違う。
あの少女がいる。それだけなら別に気にする必要は何も無い。

問題は『起きている時刻』と『中にいる人数』。

(なんでこんな時間に起きてるんだ?)

「…ント…だって、そ……か………かった…」
独り言とは違う。何者かに問いかける声。

(ミリノ?)

そんなわけがない。
ついさっきまで自分と一緒の部屋で大股開いて雑魚寝していたのだから。
扉に近づいて耳をそばだてる。

「キミは気付いてたの?……そう、それで〝ミリノの誘いに乗れ〟って急に言い出したんだね。
うん……うん、わかってる」


「ナギ君本人にも隠しておくんだね?うん、わかった」

(俺…?)

「でも、びっくりだよ……まさか」
(一体なにを言って―――――――)

「ナギ君も核石を持ってるなんて」

(………え?)

とんでもない事を、聞かされた気がした。
「ふぅわ、うん…眠いよ。キミが起こしたんじゃないか、ひどいね…寝てたのに」

古びたベットが軋む音が中から漏れてくる。

「うん、もうすぐナギ君がここ通るハズだから、うん…おやすみなさい、〝ミスティ〟」

(………っ)

これ以上ここにいたらバレる。
音をたてずにその場を去った。


(俺が…ニルと同じ……?どういう意味だ………?)



渇きと灼熱の都、イダー。
月夜が眩しいほどの夜道に、月のように色白い科学者風体の男は佇んでいた。

「・・・役に立たなかったカ。仕様がないナ」

足元にはファイターやレンジャー『だったもの』が地面に転がっていた。

「まぁいイ。場所が割れただけでも良しとしヨウ」

静かに右手を挙げると地面を擦る鈍い音を立てて男の3、4倍の身の丈はある異形が数体寄って来る。

「ワタシは『実験材料』だけは無駄にしない男でネ、君達のその骸も有効に使わせてもらうヨ」

パチン、と指を鳴らし、踵を返す。
異形が顎を嬉しそうに開き、だらだらと涎を垂らした。
ゴリゴリと耳を嫌に刺激する音が静かな空間に響くと共に特有の生ぬるい風が異臭を運ぶ。

数秒経過すると先ほどまであった物は跡形もなくなくなり
朱を含んだどす黒い水たまりのみ月夜に照らされた。

「イダーの次はルディロス、カ……。ポータル代もバカにならないナ」

背後から響いていた咀嚼音に浸りながら、闇に浮かぶ満月に狂った笑いを漏らした。
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