オーセンスハート

大吟醸

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その歳で煙草の良し悪しについて語る  前編

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交易の栄える大国、ルディロス。
街を行きかう人々には活気があり、大手商店はもちろんだが
ルディロスの目玉は自由市場制度による個人露店だ。
異種様々なそこには掘り出し物が多くありそれらを吟味する人々で道は埋め尽くされる。
騙し騙され一喜一憂。そんなところも個人露店の味だろう。

町並みの奥の奥、林の中、古びた一軒家。
外観を蔦によりデコレーションされたそこには
活気あるキャッチの声は木々に遮られ
街中とは正反対な場所となったそこには近寄りがたいものを感じる。

「………どないな状況やねんな、それ」
「…話すと長いことながら」

自称『頼れるお兄さん』だが
自称なだけにファイターかぶれが浮き彫りになっている独特な方言の腕利き技師ザッシュに
カンナギが後ろの二人を気にしながら弁解をはかる。

何故弁解なのか、というと事の発端はこの状態になった理由にある。
リンゴを〝食べもの〟だと理解し、リスのようにおいしそうにかじりつくニルと
対照的に赤い髪をポニーテイルに縛って、明らかに不機嫌に背を向けるミリノ。

三人とも、見事なまでに砂まみれだった。

経緯を話すとこうなる。
じりじりと照り付けられる砂漠のド真ん中で走行中のジープがなぜか動かなくなり
整備不良だと思いきや、ガソリンのかわりにチャクラやマナを燃料として
半永久的に稼動し続ける特殊な動力石が

「……石そのものが死んでしもてた、と」
「ご明察」

その後、仕方なくジープを置いてポータルスクロールで直接ここ、ルディロスのアジトに来る予定だったのだが

「……ミリノがジープ名残りおしゅうて離れんかった、と」
「……ご明察」

なかなか離れないミリノを引っぺがそうとしたが

「……そうこうしとるうちに砂嵐にのまれた、と」
「……死ぬかと思った」
「ハハ…ハ、よ、よかやん、危うくジープと一緒に御臨終にならへんで済ん―――――――」

その一言が、ミリノのナナメな機嫌をさらに傾斜の高いものにする。
『やばっ』とザッシュは口元を手で覆ったが、時すでに遅し。

ミリノの大の大人すら怖気付く、その凶悪な眼光が技師を撃ち抜いた。

「良くない」

テノールといってもさほど低くないはずの声が、地に堕ちたような闇色のつぶやきを放つ。

『うわ、始まった』

カンナギとザッシュはそう心の中で感じ取った。
ミリノの怒り爆発。
砂嵐以上に厄介な嵐の到来である。

「……良くない、良くないっ、良くないっ!!
やっとこさオークションで手に入れたすっっごく純度のいい動力石だったのよ!?
いくらで落としたと思ってんの?5000万kartよ、ご・せ・ん・ま・ん!!
おかげで6ヶ月ぶんの稼ぎがパァよ!!!」

四脚机を盛大に叩く。
今までも理不尽な扱いを受けてきた四脚だが今回は耐えられそうになさそうな悲鳴を上げている。

「ごせんまんってそんなに高いの?」
「そうだな……単純計算、300kartのリンゴが16万個買えてお釣りもくるぐらいだ」
「ホントぉっ!?りんごぉ……」

うっとりとした表情をして天を仰ぐニル。相当リンゴが気に入ったらしい。

「おまけにあんな所にアリシアを置いてって、もう回収できないじゃない!!」
光悦な表情を赤い果実に向けていたニルが今度はキョトンとする。

「アリシアって?」
「コイツがつけたジープの名前」
「あー、な~る」

「そらお前、あないデカい機械まで一緒にポータルで移動できる訳ないやんか」
「あ"~もうっ!!アタシのアリシア4号が、今頃砂漠の景色の一部に~!!!」

「よん!?」
「ニル、気にすんな。壊したのはこれが初めてじゃない」
「ええいっ、そこ!!、うっさい!!」

ビシッと指さすミリノと眉をひそめて臨戦態勢に入ろうとしだしたカンナギ。

「は~いはいはい、ストップやストップ。
その辺はもう置いとぉてな、ワイが気になっとんのはそこの可愛らしい嬢ちゃんや、説明してぇな」

ザッシュの一声で三人の視線が一気にニルへと集まる。

「そうだ、もとはといえばなんでお前追われていたのか、だろ」

自分のことだと自覚したのか、リンゴをかじる手を止める。

「う~~~~~ん、ナギ君にはちらっと言ったけど、あの人たちはたぶんボクの核石を狙ったんだと思う」
再びリンゴを小動物のようにかじり始めながらそう言う。

「核石…?」

ミリノとザッシュの声が綺麗にハモった。

「そういやあの時のファイター、『じゅってんじんぎ』がどうとか言ってたな」

口をもごもごさせて何度も頷くニル。やがて飲み下してから

「うん、そう、よく聴いてたね。そだね、核石、というか『十天神器』が欲しかったんだよ」
「なんなんだ、その核石とか『十天神器』とかって?聞いたことない名前だな」

カンナギはミリノとザッシュを見やる。
二人揃って横に首を振った。

「う~ん、詳しいはなしは〝ミスティ〟に訊かないと―――――――」

そこでニルは、はっとしてカンナギを見る。
カンナギが予想通り怪訝そうにこっちを見ていた。
他の二人も同様。

「ミス、ティ…?誰か連れの仲間でもいるのか?」
「え、あ、ち、違うよっ!なんでもない、間違い間違い!」

慌てて細い片手を左右に振って否定する。

「……?」
「ま、過ぎたことを言ってもしょうがないじゃない。これからどうすんの?え~っと、ニルちゃん」
「自分かて、アリシア(愛車)のことねちねちと……」

ぼそりと呟くザッシュを瞬速で睨んで黙らせながら、ミリノがそう切り出す。
ニルは数秒考え

「…そうだね、ボクだって核石取られたくないし、逃げ続けるしかないなぁ」
「核石ってどんなのだ?見せてくれよ」
「あ、無理無理。〝見る〟なんて概念じゃ通用しないものだから」
「………は?」

またよく意味の分からないことを言われて、カンナギは突拍子のない声を出した。

「核石は『実体の無い実体』なんだよ。
〝かたち〟の存在するものであって、そこに〝かたち〟としての姿を持たない
つかむことの出来ない固有物質……実際に体験できる蜃気楼……そんなカンジ」

「いい例を出したつもりだろうが、まったくわか―――――――」

カンナギの頭に覆いかぶさるようにミリノが乗っかり

「あぁもう、ムズカシイ話は無し無し、辛気臭いよ。ニルちゃん、いま逃げたいって言ってたよね」
「う、ウン」

おずおずと答えるニルに、ミリノはにんまりと笑う。

「なら、い~いとこ紹介してあげよっか!」

全体重に苦しみながらカンナギが叫ぶ。

「お、おい、お前、まさか……!?」
「ウチらねぇ、裏ではけっこう名の知れた万屋やってるのよ」
「よろずや……?」
「そ、だからアタシらでアンタを守ればいいじゃない」

「ちょっと待て。報酬はどうするつもりだ!?まさかタダ働き―――――――」
「うっさいわねぇ、こんなかよわい女の子からお金取る気?どうせヒマしてんだから、善行のひとつでも」

「あ・・・あの!」

いま以上におずおずとした感じでニルは、
「め、迷惑にならないかな、ボク…?」
「なっ!!お前まで何言って」

カンナギを無視し、『待ってました』と言わんばかりの表情をする。

「んも全っ然!改めて、アタシはミリノ。こっちの野郎ふたりと組んでる、機械はお任せあれのレンジャーよ。よろしく」

そう言って、差し出された右手にニルははにかんだ。
「ボクはニル。えと、いちおうソーサレスやってる…のかな。よろしく……えっと」
「フフッ……ミリノでいいわ。アンタより年上だけど、さん付けは性に合わないの」
「うんっ♪よろしくね、ミリ―――――――」

「だぁぁぁっ!!人の上でなに和んでんだテメェらぁ!!!」

握ろうとした手ごと乗っかっていたミリノにとうとうぎゃーぎゃー喚き散らし、暴れるカンナギ。
アジトは今までに無いほど騒然としていた。
古びた家は久々の賑やかさを歓迎したかのように一緒に揺れている。

ひとりポツンと取り残されたザッシュは、ただ一言。
「……せやから状況を説明して欲しいんやけど」
聞いている人間などいなかった。
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